楽しかった
魔人との戦争は無事、人間側の勝利で終わった。残った魔人はいつの間にか消え、地上からも姿を消した。それにより、地上の支配者は消え俺達人間は地上に住める様になった
それから、毎日大変だった。移住の為に良い立地を探したり、モンスターを討伐したりと慌ただしい毎日が続く。
「結局、魔人王倒しても帰れなかったな……」
「そうだね」
あれから、帰る手は見つかっておらず、今も俺達はこの世界で逞しく暮らしている。
軍で何時もの様に任務を受けたり、砦勤務に行ったりした。相変わらず、砦にはビームを吐く巨大ザメの群れが来たり、人食い人魚が来たり、巨大過ぎるモンスターと対峙したり、飽きない毎日である
それから数年後、俺は連隊長に抜擢される。その頃には人間は地上に移り住み、新しい生活を始めていた。地上での暮らしは初めての者が多く苦労も有ったが、やはり太陽の光を浴びられるというのは、良いものだった。
そうそう、地上に姉のお墓を作った。肉体が残っていなかったので中身は例のヌイグルミだ
「スゲー! 兄ちゃん! もう1回して!」
俺は少し大きくなった龍騎と外で鬼ごっこをしたり、隠れんぼをしたりと年の離れた弟を可愛がった。この辺りで俺は帰るのを諦め、結婚して子供をもうけた。なので、龍騎は叔父になったのだった。随分、若い叔父だな……
そして月日は流れ、帰る事が出来ずに早80年が経つ。人々は地上での生活に慣れ、新たな文明を築き上げる。一時期かなり減っていた人口は喜ばしい事に増加して今では国を築けるくらいの大きな都市が出来上がった。
俺は軍を惜しまれながら退職した後、しゅわしゅわの爺さんになり、孫や曾孫に囲まれて楽しい毎日を暮らしていた。
そんな俺も、もうじき天寿をまっとうようとしていた。長年連れ添った妻には先立たれ、妹も既に故人。勿論、母や父も先に逝ってしまった。
「兄ちゃん。何か有ったら呼んでくれよ」
「あぁ」
弟の龍騎が俺の部屋から出て行く。俺はベッドに横になり天井を眺める。もうじき、天からお迎えが来るだろう。
「楽しかったな……」
辛い事も有ったが楽しい異世界生活だった。普通に生きていれば遭遇する事ない体験を出来た。その点ではイノ坊に感謝しなくてはならない。
俺は遠い昔に失くした相棒を思い浮かべて笑う
「……」
急に眠気が来た。これの眠気に身を任せて眠ってしまえば2度と目が覚めない事が予感出来た。
「結局、あの夢は叶わなかったな」
昔、俺を苦しめた幸せな夢。元の世界に戻り、家族で団欒する幸せな夢。あの夢は叶う事がなかった……
俺は自嘲気味に笑った後、目を伏せて思う。
孤独に死ぬのはアレなので、子供や孫、曾孫に囲まれて死のうか……
そう考えて、龍騎や孫達を呼ぼうとすると、窓に人影が有るのが見えた。その人影に見覚えが有った
「姉?」
忘れる筈もない。そう、何十年も前に消えた姉のシルエット。
「バレたか」
そう言い、窓から入って来た姉はの姿は当時のままだった。そういえば、不老とか言っていたな
「生きてたのか……」
俺は泣きそうな顔で姉を見つめる。そんな俺に姉は微笑んで
「当たり前だよ。今は海底で他の魔人達と暮らしてる。そこにはエルやヌンツィオ、カティル、アルさん、ラルさんも居るよ」
姉は当時と同じ笑顔で近状報告をくれる。幸せにやってる様でなによりだ
「お前も逝くんだな」
姉はベッドに腰掛けて、俺の顔を覗き込んでくる
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
あの時と変わらぬ姉の姿に涙が出てきた。俺は結局、姉が何をしたかったのか聞けずじまいで、これだけがずっと心残りだったのだ
「ふふふっ。それは痛いな」
姉は肩を竦め戯けて見せる。
「さ、おやすみ。起きたら、きっと新しい生活が待ってる」
姉は俺の頭を撫でて眠る様に促す。しかし、眠ればもう起きられない。このまま寝てしまうのは勿体ないと思い聞きたい事を聞こうと口を開こうとしたが
「何も教えてはやらないよ。それが姉としての矜持だから。だから何も問わず、目を閉じて眠りなさい。見ていてあげるから」
姉は優しく窘めた。俺は観念して目を瞑る。すると、待ってましたというように意識が落ちて行くのを感じた。遠くで姉の子守唄が聴こえてきて、それを聴きながら俺は自身の生を終えた




