表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/85

愛しているよ

 

 生を諦めた。家族に会う事を諦めた。帰る事を諦めた。


「私は帰れない……」


 それは、分かっていた事であった。何度も見た夢。それは私だけが帰れない夢。私以外の家族が団欒している幸せな夢……


「それだけは守らなくては」


 私は決意する。私は帰れなくてもいいから、せめて家族だけはっと……


 それからは、その為に奔走した。弟と妹に戦い方を教え、猪に協力を仰ぎ、連隊長に助けを求めたりした。

 出来る事はした。後は、この呪いに身を預けるだけ……動く事も臆測になる程、呪いが体の中を駆けずり回る。苦しくて、悔しくて、そして……怖かった


 そして、とうとう、その日がやって来る。魔人を一掃する為、一斉討伐が行われた日。連隊長の中に居た魔人王が表に出てきた。


「ぐっ……うっ……」


 今までの比ではないくらいの衝動が私を襲う。私とエマヌエル、カティル、ヌンツィオはその場に倒れ、アルトゥールさんは燐光を上げて消滅した。

 衝動が治った時には、体は私の意思で動かす事が出来なかった。なので傷付けたくなかった人達を傷つけて殺した。悲しかったが涙は出てこなかった


 軍が撤退して、暫く経つと体の自由が戻った。まぁ、行動の制限が有る為、完璧に自由とは言えないが……なので裏切る様な行いは出来ない。だから、自由の効く範囲で動いた。


「オウキ。おいで」


 この頃から魔人王は私を側に置く様になる。恐らく、次の肉体を作りたいのだと思うが、生憎と私は子供が出来ない体質。この時ばかりは、この特殊な体に感謝した。


「連隊長の体で相手されるのってどんな気分?」

「最悪」


 同じく自由が若干戻ったエマヌエル達に茶化され、イラついた事は記憶に新しい。


「エマが相手したらいいじゃん。喜ぶんじゃない?」

「……オウキ。君が妊娠出来ない体だって事、王様に言いつけるよ?」

「あ……ごめんなさい」


 それだけは勘弁してほしい。



 私達は既に魔人王に喰われているらしい。なので死んでも肉体は残る事はない。そして、死すれば魂は魔人王の中に取り込まれ、元の世界には魂さえ帰る事はないのだ……


 魔人生活を送ること数日。


「エマヌエル……グロいよ」

「そう? そこまでだと思うけど」


 エマヌエルは何かの生き物をぐちゃぐちゃにしていた。彼は元々の性格がアレな為、わりと魔人生活をエンジョイしている。それには私とカティル、ヌンツィオは揃って頭を抱えたものだ。


「カティルが消えた」


 ある日、ラルトゥールの姿をした王から告げられた衝撃の言葉。まさか、あのカティルが……


「俺の中に戻った。間違えないだろう」


 カティルは私達の中で一番強かったのだが……


「カティルめ……手を抜いたな」

「だろうね」

「アイツは甘いからな」


 私達は揃って確信した。カティルの甘さ、優しいさ、面倒見の良さは彼の良い所だが、少々勝手が過ぎる。


「置いてくなんて……」


 なんて酷い奴だ。追い付いたら文句を言ってやる事を心に誓う。


 そしてとうとう、エマヌエルも消えた。残るは私とヌンツィオだけ。


「どいつも、こいつも、勝手な事ばかり……かく言う私も勝手な事をしているのだけどね」


 私は佇み弟達を待つ。そして、ここで終わらせる為、刀を握り勝負を挑んだ


「何で裏切ったんだ」


 弟は喉から声を絞り出す様に言う。私はそれには答えない。否、答えられない


「帰るんじゃなかったのか! どうして俺達を傷付けた!」


 怒鳴る弟。その問いにも私は答えない。だって仕方ないじゃないか……私は呪われてて、裏切りたくて裏切った訳じゃないなんて言えないしな。


「うおぉぉぉおおお!!」


 弟は雄叫びを上げて私の持っていた刀を吹き飛ばす。そして無防備になった私の胸部に刀を突き刺した。


 ーー強くなったなーー


 私は切実に思う。本当に強くなった。しかし、突き刺した後の泣きそうな顔は如何なものか。折角勝ったのだから喜べば良いものを……

 そんな弟の首元に私が置いていったペンダントが見えた。アレには私の力を込めている為、1度だけなら例の超回復が使える様にしているのだ。

 だから、死ぬ様な怪我をしても1度だけなら治る。願わくば、そんな怪我はしないでほしいものだが……


 私は弟から視線を外し猪を見据える。彼は1つ頷いた。


『自分……あの時、何見たんや?』


 何時ぞやに聞かれた。あの時とは車が崖から落ち日、つまり始まりの日の事だ。彼は、その時の私の様子を覚えていたのだろう。

 だから私は全てを話した。そして協力を仰いだ。彼はそれに応じてくれた。


 ーー後は頼むよーー


 私も1つ頷く。


 そして、妹を見る。大きな目を更に大きく見開き、目から涙を零している妹の姿に心が痛んだ。


 もう拭ってやる事も出来ないな……


 そして、弟を見る。弟は今にも泣きそうな顔をしている


 ーー男だろう? そんな顔をするなよーー


 そう思ったが口には出さず微笑むだけにした……



 私は2人に何も教えてやらない。これは私の背負ったもので、彼らに背負わせるつもりは無いからだ。だから、決して何も告げはしない。それは、姉としての意地でも有った


 唯一の心残りは新しい弟に逢えなかった事かな? 仕方がなかったのだ。この呪いは非力な母や父、弟に被害が及ぶかもしれなかった。だから決して合わなかったのだ


 ……サヨナラだ、家族達。愛しているよ。


 私は家族に向けて心の中で言う。



 そして、悲しむ2人に精一杯の笑顔を向けて私は消えたーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ