愛しているよ
生を諦めた。家族に会う事を諦めた。帰る事を諦めた。
「私は帰れない……」
それは、分かっていた事であった。何度も見た夢。それは私だけが帰れない夢。私以外の家族が団欒している幸せな夢……
「それだけは守らなくては」
私は決意する。私は帰れなくてもいいから、せめて家族だけはっと……
それからは、その為に奔走した。弟と妹に戦い方を教え、猪に協力を仰ぎ、連隊長に助けを求めたりした。
出来る事はした。後は、この呪いに身を預けるだけ……動く事も臆測になる程、呪いが体の中を駆けずり回る。苦しくて、悔しくて、そして……怖かった
そして、とうとう、その日がやって来る。魔人を一掃する為、一斉討伐が行われた日。連隊長の中に居た魔人王が表に出てきた。
「ぐっ……うっ……」
今までの比ではないくらいの衝動が私を襲う。私とエマヌエル、カティル、ヌンツィオはその場に倒れ、アルトゥールさんは燐光を上げて消滅した。
衝動が治った時には、体は私の意思で動かす事が出来なかった。なので傷付けたくなかった人達を傷つけて殺した。悲しかったが涙は出てこなかった
軍が撤退して、暫く経つと体の自由が戻った。まぁ、行動の制限が有る為、完璧に自由とは言えないが……なので裏切る様な行いは出来ない。だから、自由の効く範囲で動いた。
「オウキ。おいで」
この頃から魔人王は私を側に置く様になる。恐らく、次の肉体を作りたいのだと思うが、生憎と私は子供が出来ない体質。この時ばかりは、この特殊な体に感謝した。
「連隊長の体で相手されるのってどんな気分?」
「最悪」
同じく自由が若干戻ったエマヌエル達に茶化され、イラついた事は記憶に新しい。
「エマが相手したらいいじゃん。喜ぶんじゃない?」
「……オウキ。君が妊娠出来ない体だって事、王様に言いつけるよ?」
「あ……ごめんなさい」
それだけは勘弁してほしい。
私達は既に魔人王に喰われているらしい。なので死んでも肉体は残る事はない。そして、死すれば魂は魔人王の中に取り込まれ、元の世界には魂さえ帰る事はないのだ……
魔人生活を送ること数日。
「エマヌエル……グロいよ」
「そう? そこまでだと思うけど」
エマヌエルは何かの生き物をぐちゃぐちゃにしていた。彼は元々の性格がアレな為、わりと魔人生活をエンジョイしている。それには私とカティル、ヌンツィオは揃って頭を抱えたものだ。
「カティルが消えた」
ある日、ラルトゥールの姿をした王から告げられた衝撃の言葉。まさか、あのカティルが……
「俺の中に戻った。間違えないだろう」
カティルは私達の中で一番強かったのだが……
「カティルめ……手を抜いたな」
「だろうね」
「アイツは甘いからな」
私達は揃って確信した。カティルの甘さ、優しいさ、面倒見の良さは彼の良い所だが、少々勝手が過ぎる。
「置いてくなんて……」
なんて酷い奴だ。追い付いたら文句を言ってやる事を心に誓う。
そしてとうとう、エマヌエルも消えた。残るは私とヌンツィオだけ。
「どいつも、こいつも、勝手な事ばかり……かく言う私も勝手な事をしているのだけどね」
私は佇み弟達を待つ。そして、ここで終わらせる為、刀を握り勝負を挑んだ
「何で裏切ったんだ」
弟は喉から声を絞り出す様に言う。私はそれには答えない。否、答えられない
「帰るんじゃなかったのか! どうして俺達を傷付けた!」
怒鳴る弟。その問いにも私は答えない。だって仕方ないじゃないか……私は呪われてて、裏切りたくて裏切った訳じゃないなんて言えないしな。
「うおぉぉぉおおお!!」
弟は雄叫びを上げて私の持っていた刀を吹き飛ばす。そして無防備になった私の胸部に刀を突き刺した。
ーー強くなったなーー
私は切実に思う。本当に強くなった。しかし、突き刺した後の泣きそうな顔は如何なものか。折角勝ったのだから喜べば良いものを……
そんな弟の首元に私が置いていったペンダントが見えた。アレには私の力を込めている為、1度だけなら例の超回復が使える様にしているのだ。
だから、死ぬ様な怪我をしても1度だけなら治る。願わくば、そんな怪我はしないでほしいものだが……
私は弟から視線を外し猪を見据える。彼は1つ頷いた。
『自分……あの時、何見たんや?』
何時ぞやに聞かれた。あの時とは車が崖から落ち日、つまり始まりの日の事だ。彼は、その時の私の様子を覚えていたのだろう。
だから私は全てを話した。そして協力を仰いだ。彼はそれに応じてくれた。
ーー後は頼むよーー
私も1つ頷く。
そして、妹を見る。大きな目を更に大きく見開き、目から涙を零している妹の姿に心が痛んだ。
もう拭ってやる事も出来ないな……
そして、弟を見る。弟は今にも泣きそうな顔をしている
ーー男だろう? そんな顔をするなよーー
そう思ったが口には出さず微笑むだけにした……
私は2人に何も教えてやらない。これは私の背負ったもので、彼らに背負わせるつもりは無いからだ。だから、決して何も告げはしない。それは、姉としての意地でも有った
唯一の心残りは新しい弟に逢えなかった事かな? 仕方がなかったのだ。この呪いは非力な母や父、弟に被害が及ぶかもしれなかった。だから決して合わなかったのだ
……サヨナラだ、家族達。愛しているよ。
私は家族に向けて心の中で言う。
そして、悲しむ2人に精一杯の笑顔を向けて私は消えたーー




