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異形の進むべき道  作者: とりもち
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始まりの終わり

趣味程度の素人作品です。

不定期更新ですが、見てくれるととても嬉しいです。

ハーリスと呼ばれる村がある。村ができて今年でちょうど百年目、これを祝おうと村中の人が今夜開催されるちょっとした祭りの為に準備をしている。火を起こすための薪を森から採ってきていたり、普段は絶対に食べられない甘い菓子を作っていたり、今夜の祭りが楽しみである。

そんな風景をボケッと見ていると、頭にゴツンと一発硬いナニかで叩かれた。


「いっ…てぇ……なんだよ」


後ろを振り返ると眉間に皺を寄せた白髪の爺さんが此方を見下ろしている。「げっ…」と一言発し、その場から逃げようとしたところ、服を掴まれ阻止された。


「ホーンよ、何処に行く」

「どこでもいいだろ」

「どうせサボる気じゃろうが。…まったく、ホレ」


そういうと白髪の爺さんは所々小さな穴が空いている革袋を此方に投げた。


「村長…めんどくさいんだけど」


村長と呼ばれた男は一層眉間の皺を寄せ、目を見開く。これは村長が怒る予兆である。それを見た俺は立ち上がり、そそくさと森の法へと走っていった。


「…まったく」


そう一言村長は困り果てた顔で、ホーンと呼ばれた少年に背を向けるように歩を進めた。



後方を確認し、村長が帰ったのを見たホーンは、にししと嗤うと森の中へズカズカと入っていく。森の中では、木を運ぶ村の男数人が汗を流しながら働いていた。


「ホーン、また村長に怒られたな」

「なぜ」

「顔にそう書いてある」

「嘘つけ」

「ほんと、ほんと」


背の高いケリーがニタニタとしながら斧を片手に持ってホーンに話しかけた。


「サラスの実を採りに行くのか?」

「ああ、面倒だ」

「あの実、俺好きだから沢山採ってきてくれ」


サラスの実はとても甘い。森の中に流れる川の付近にサラスの実がなる低木がある。この実は夏の季節でしか収穫できず、毎年この実を食べるのを楽しみにしている人も多くいる位だ。

十数分、森を歩いていると、水の流れる音が聞こえ始めた。サラスの実を収穫するついでに水浴びでもしようか。そんな事をかんがえていると、川が見えた。早速行こうとすると、人影が一つだけ見えた。先客だ。女性だろうか。

別に珍しい事でもなく、普通の事である。この森に魔獣の類はいない。いたとしても狼か狐、たまに鹿が出没するくらいで、特に危険という訳ではない。だから村の住人も気軽に森に立ち寄れるのだ。ハーリスのが百年も平和に過ごせたのもこのお陰かもしれない。


「俺も早く水浴びしたいから、早く終わってくれよー」


川にいる女性に向かって、背を向けながら話す。すると、川の方からトポンという小さな音と、此方に歩いてくる音が聞こえた。


「…私は別に水浴びしてた訳じゃないから」

「ん、聞きなれない声だな」


そんな事を思いつつ振り返ると、


「ホントに知らない子だな。どこの子?」


ハーリス出身ではない、黒髪のショートヘアーの女の子が気怠げな目で此方を見ていた。

彼女は黒のローブに身を包んでおり、左手には一冊の古い分厚い本を持っている。彼女の黒い目が俺の目をしっかりと捉えていた。


「…貴方、ハーリスの村の子?」


質問に答えて欲しい。


「まぁ、んで、君は?」

「ハーリスの村の子なら、もう村に戻るのをやめなさい」

「はぁ?」


突然そんなことを言われても意味不明だ。それより、この子は人と会話をまともにできないのだろうか。


「死にたくないなら戻るのをやめなさい。この森にいればきっと安全?だから」

「なんだお前。頭どっかにぶつけたのか」

「これは忠告よ。…それじゃあね」


頭のおかしな少女は俺の横を通りすぎ、森の中に姿を消してしまった。


「…おかしなやつ」


その後、川で水浴びをしていた時のことである。先程の少女の事を考えながら、川の水で身体を洗っていると、川の中にキラリと光る物体が見えた。

それを手に取ってみると、綺麗なガラス瓶に謎の青い液体が入っている。ドロリとしたそれは、どっからどうみても毒にしか見えない。…そういえば、前に村に訪れた冒険者の持ち物にポーションとかいう名前の似たような液体があったな。でも、これよりももう少し緑色だったような…。


「それにしても綺麗なガラス瓶だな」


手に収まる程度の大きさのソレは、今までに見たガラスよりも綺麗で、瓶の蓋までもガラスである。きっとあの少女が落とした物であろう。一応、俺が持っておいて、次会った時にかえせばいいか。


そんなこんなで水浴びを終え、サラスの実を袋一杯に詰めた後、村に帰った。帰る道中に少女の言葉が頭を過ったが、気にすることはないだろうと思い、そのまま帰路についたのだった。

サラスの実を村長の家のドアの前に置いておき、そのまま自分の家に帰った。母はまだ菓子作りをしているのだろうか。まだ家には居なかった。自分の部屋というものが無いので、こじんまりとした居間でガラス瓶の液体を眺めていると、太く低い笛の音が響いてきた。

祭りの開催の合図だ。




祭りは順調であった。始めに村長の糞長い話の後に乾杯をし、大人は酒。子供は茶を飲んでいた。少し苦味のある茶で、ハーリスの村に定期的に訪れる商人から購入している安価な物である。安価な物だからかは自分には分からないが、正直美味しくはない。まだサラスの実を磨り潰して水で溶かした物を飲んだらほうがましである。…まぁ、それもそこまで美味しくもないが。

貴重な砂糖を使った菓子はとても美味しかった。よくもまぁ、砂糖を買う金があったものだ。

これまた安価な酒をチビチビ飲んでいると、隣に誰かが座った。


「ところでホーンよ」

「なんだよ村長」


酒で顔を真っ赤にした村長が絡んできた。


「お前ももう今年で十八だ」

「お、おう」


一番したくない会話の内容なだけに、汗がたらりと頬を伝う。


「大人とされる年齢は十六、そうじゃろ?」

「…そうだな」

「もう一度、聞こう。お前、今年で何歳だ」

「…十八です」

「はぁ……」


村長は長い溜め息をつく。実はこの村で若い男というのは、俺しかいない。実際はもっといるのだが、成人した男は全員、少し離れた都市に冒険者として行ってしまうのだ。

村長の口癖は、「田舎者ほど夢を見たがる」だ。あんた都市で暮らしたことないだろと言えないが、事実皆、冒険者として名を挙げて裕福に暮らすと言って出ていった。危機感がないのである。

それはきっと、この村の周辺に驚異となる存在がないせいであろう。恐怖という物を知らない。俺も知らない。

俺が村を出ないのは、ただただ働くのが嫌いなだけで、妄想の世界では勇者をしている。妄想の中でくらい英雄になりたい。だから、それに憧れて村を出ていく奴等の気持ちも分かる。


「村に残ってくれるのは有り難いが、親の穀潰しをいつまでしている気だ」

「まぁ、ぼちぼち辞めますよ?」


ゴツリと一発、無駄に硬い拳で頭上を叩かれる。


「ホーンよ。早く働け、そして女を作って子供を沢山、沢山産んでくれ。特に男を産め!いいな!男の子を産め!」


酔いが回っているのであろう、少々、いや、だいぶおかしな発言になっている。

言っておくが、俺は子を産めない。種を撒くほうだ。


「お前は年よりも若く見える。……顔はワシよりも劣るがのぅ」

「はぁ…」

「ワシを楽にさせておくれ」


気色悪い。酒臭い。関わりたくない。そんな思いで席を立ち、小便してくると適当に言い訳をした後に、村を少し出た。

夜風が気持ちいい。

草原に寝転がり、そんな事を思う。


「そういや、アイツらどうしてんのかな」


村を出ていった同世代の男達。皆、楽しそうに都市へ向かって言ったな。俺も一緒に行っておけば良かったのかな。

不意に、ポケットに入れていたガラス瓶が手に触れた。それを取りだし、眺める。


そして俺はここで間違いを犯してしまった。ちょっとした好奇心が、俺の人生を狂わせたのだ。


「どんな味するんだろこれ」


酒の酔いのせいなのかもしれない。ちょっとした好奇心を酒の酔いが、グイグイと押してくるのだ。


「ちょっとだけなら、大丈夫だよな?」


ガラスの蓋を開け、匂いを嗅ぐ。少し生臭い臭いが鼻を通った。

おえ、なんだこれ。くっさいな。


「さてと味は…?」


少しだけ、ほんの少しだけ。と思い、瓶を傾ける。ドロリとした青色の液体はゆっくりと瓶の内側を沿うように流れてきた。

中々落ちてこない液体に少しもどかしさを感じて、瓶を立てに振った。すると、思いの外その液体は勢いよく流れ、口のなかに全て入ってしまったのだ。

なんとも情けない。だが、今はそんな事を考えている余裕などなかった。口の中に広がった液体は、口内、舌にまとわりつき、食道を通る事なく、体内に吸収されてしまった。


「うえ…なんだこれ」


口にいれた後、少し変な感触がしたが、特に変わった様子がなかった。それよりも…


「あの子に返す分がない」


やってしまった事はどうしようもない。これを拾ったのは誰にも言っていないから、きっと大丈夫だろう。

ちょっとしたトラブルで酔いが覚めてしまったが、まぁ、また飲めばいいか。

祭りに戻るために歩を進める途中、俺は意識を失った。












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