進歩②
六本あった敵のHPゲージの、三本目もあとちょっとで削り切れるというところまで、どうにか死者ゼロでこぎ着けた。
途中、敵のオーバーアシストの、大幅な性能上昇(200%位上昇してた。つまりは3倍!!)に頭を抱えそうになったが、どうにか切り抜けた。
三本目も削り切って、ようやく勝ちが見えてきた。
しかし、敵の奥の手であるオーバーアシストは、一つではなかったのだ。
「よし、これ、勝てるぞ!!!」
メンバーの中の一人が叫び、味方を勇気づける。
その瞬間だった。
ボスの剣が十字に閃き、壁役の一人を吹き飛ばす。
幸い、HPがゼロにーー「死」には至っていない。
しかし、今の攻撃を装甲の薄い魔法攻撃隊や、回復術師が受けたら、ほとんどの場合一撃でHPを消し飛ばされるだろう。
いや、今はそんなことは問題ではない。
今のブレイドスキルは、同じく伝説級ボスである、ルークが使うものではなかったか。
俺の頭に、一つの可能性が浮かび上がる。
「成り上がりか!」
チェスにおいて、最弱の駒であるポーンが、最強の駒となる一つの方法。
ほとんどの場合クイーンになるが、何故か今はルークになっていた。
「ちっ・・・ チェスの定跡無視しやがって・・・」
そうこうしているうちに、前線が崩れだした。
しょうがない。
本当の奥の手、破られたらもう負けが確定するレベルでのとっておきを使うしかないか。
「サイ、30秒頼む!」
「心得た」
その間に、俺はメニューウィンドウを開き、装備を変更し、それと同時に、創作魔法に必要な想像力を練り上げる。
「30秒経ったぞ! スイッチ!!」
サイが単発の重攻撃ブレイドスキルを使って敵をノックバックさせる。
この時点でサイと伝説級Mobポーンは僅かな技後硬直に陥っている。
本来ならば、追撃に入る暇もなく、そのディレイは終わってしまうだろう。
しかし、この場合は、俺が敵のノックバックで開いた距離に飛び込むことによって、敵のディレイを有効活用することができる。
今、俺が手にしているのはイギリスの儀礼剣である「カーテナ」と、フランスの聖剣である「デュランダル」だ。
MoKでは、一国に伝わるレベルの装備は伝説級(Mobの分類とは別物)と分類されている。
そして、伝説級以上の装備品に限り、どちらも装備することで、特殊効果が発生する組み合わせが存在するのだ。
例えば、十字教の四大天使である「ミカエル」、「ガブリエル」、「ラファエル」、「ウリエル」の名を冠した装備品を装備することによって、装備しているプレイヤーの全ステータスが上昇するなどといったものがある。
カーテナとデュランダルの組み合わせもそうだ。
デュランダルはフランスに伝わる聖剣だが、イギリスの剣としても扱える。
なぜなら、イギリスとフランスの歴史が、詳細は省くがかなり曖昧なものとなっているからだ。
そして、魔術大国イギリスの剣を組み合わせたときに発生する効果は一つ。
「装備したプレイヤーのMPを35%上昇させる」というものだ。
さらに、俺が、創作魔法専用にチューンアップした、「魔神・災厄」がある。
こいつの効果は、「創作魔法使用時の消費MPを大幅に減らし、さらに、創作魔法の使用に必要な想像力を補助する」もの。
つまり、今の俺は、メイジ寄りの魔法剣士なわけだ。
準備も整ったわけだし、さあ、反撃開始だ。