進歩
「ついに、伝説級Mobを攻略し、このデスゲームからの脱出へと進む時がやってきた。さあ、剣を取れ! 勝利は、我等にあり!」
攻略隊のリーダーであるRINKが、小声ながら十分に気迫のこもった声で全体を鼓舞した。
なぜ叫ばないのかって?
ダンジョンのように、Mobが常時湧出するような場所で叫ぶーーーシステム的に言うと「シャウト」するーーーと、Mobを引き寄せてしまうからだ。
だが、味方の士気を上げるには事足りたようで、皆引き締まった表情をしている。
そして、RINKがボス部屋の扉を開け、中に入り、そして扉が閉まる。
こうなると、ここから脱出するにはボスを倒すか、高位の転移魔法を使わなければならない。
俺たちの前に立っていたのは、いかにも兵士といった外見のMobだった。
「やっぱ前と変わってないか・・・」
「ステータスは大幅に変わってるでしょうけどね」
壁役が前に出る。
無論、俺も最前線で、ボスの攻撃を受け止めている。
「魔法攻撃隊、支援魔法及び弱体化魔法、攻撃魔法準備! MPと憎悪値管理に気を付けろ!」
「〈断て〉〈切れ〉〈斬り刻め〉〈勝利は我等にあり〉!」
「〈焼き尽くせ〉〈紅蓮の炎〉〈吹き荒れろ〉〈破滅の嵐〉!」
スプリングがチーム全体の攻撃力を上げるバフを、サイが創作魔法らしき魔法を放つ。
俺はというと、『龍神・神業』の固有スキルを駆使してボスに少なくないダメージを与えつつも、その攻撃でヘイトを稼いでいた。
これが俺の二つ名「守護神」の由来だ。
他のチームメンバーを寄せ付けない圧倒的なヘイトでMobの攻撃から仲間を守りつつも、着実にダメージを与えていくまさに神のような存在・・・とチームメンバーからは思われているらしい。
戦い方についての認識はほとんど間違っていない。
事実、Mobのタゲは俺からほとんど動いていない。
しかも、攻撃のほとんどを弾き防御か、ステップ回避しているため、ダメージを食らう機会(?)自体が少ない。
時々敵の強攻撃が体をかすめる衝撃によってHPが減っていくが、それは回復術師が唱える回復呪文によってかき消される。
このまま行けば順調に、一人も死者を出さずに勝てるだろう。
しかし、今の俺の心は不安で満たされていた。
これじゃ、簡単すぎる・・・