雁行陣①
「〈爆ぜろ〉〈砕けろ〉〈消え失せろ〉!!」
魔力を込めて唱える。
「敵が跡形もなく消えていく」というイメージを込めて。
そして、その通りに、俺たちに立ちふさがるゴーレムのようなMob「ミスリル・ガーディアン」が消えていく。
これが、MoKをMoKたらしめていたシステムの一つ、「創作魔法」だ。
内容は、「その魔法によって起こる現象を強くイメージすることで、実際にその現象を起こす」というものだ。
一見すると大変便利なシステムに聞こえるが、その認識は間違っている。
要求されるイメージの強さが鬼畜設定になっていて、実戦レベルの魔法を作り出すことのできたプレイヤーはほとんどいない。
少し攻略をサボると一気に置いて行かれてしまう一線級のプレイヤーのレベル帯においては、なおさら少なかっただろう。
このように、使いこなせたプレイヤーがほとんどいなかったこのシステムだが、とてつもないメリットが存在する。
普通は有用な魔法はほとんど使えない戦士職でも、魔法一極能力構成のプレイヤーと同じように魔法が使えるのだ。
そのため、俺は本来の機装を使えば自分でMobのタゲ取って自分で回復して能力付与してDPS稼いで・・・という風に自分だけで戦闘を完結させるという、まさに「神業」ができる。
もちろん、MP消費とMobのHPも計算に入れた上でだ。
「〈翔けろ〉〈疾く〉〈速く〉」
移動速度を大幅に上昇させる魔法を唱え、ダンジョンから撤退する。
「ポーンシティ」に戻った俺たちを最初に出迎えたのは、凄まじい質問攻めだった。
「Mobのレベルはどんな感じだった?」
「大体450~550くらいだったぜ」
「ドロップした素材は?」
「MoKがゲームだったころと変わらない」
こんな感じで、行ってきたダンジョンとそこに出現するMobのレベルや種類などについて、結構な時間質問が続いた。
しかも、中には同じような内容の質問のあったため、非常にうんざりした。
スプリングが一気に走りださなければ、この質問攻めはもっと続いただろう。
そしてどうにかこうにか四階建ての、俺たちのプレイヤーホームまでたどり着いた。
「スプリング、マジサンキュー!」
「助かった・・・」
「本当に疲れたわね・・・ アイテムで精神的な疲労も回復出来たらいいのに・・・」
「確かに。ポーションとかじゃ、バッドステータスとしての疲労しか回復できないからな」
VRMMORPGでは感覚がある程度制限されているとはいえ、長時間戦闘を続けていればさすがに疲労もたまる。
さらにそれは数値化できないため、アバターの運動性能に悪影響を与えるバッドステータスとしての疲労と違ってアイテムで打ち消すことができないのだ。
「てなわけで俺、四階に行って8時間ぐらい仮眠取ってくる」
「それは仮眠とは言わないわよ」
「てかエックス、まだ8時半だよー」
そういってサイが引き留めてくるが、さっきの戦闘で壁役兼DPSをこなしていた俺の疲労はたまりにたまっている。
「いいや、限界だ。寝るね! というわけでおやすみー」
「アンタ爆弾使いじゃないでしょ・・・」
確かに、俺はキーワードを唱えた時に、触れていた相手の部位に即死級の爆弾を取り付けるような芸当はできない。
しかし、爆破属性武器を使った目くらましやノックバックによる行動阻害は得意だ。
というより俺にとってのPvPの常識になっている。
俺の部屋がある四階(おれ ばかだから たかいところが すき)に行って布団(ベッドで寝ると5回/時間ぐらい転げ落ちるから寝れない)に入った途端、強烈な眠気が俺を襲った。
zzz・・・