表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界から木を無くせ!  作者: 忘れ者
1/2

第一話 計画的に



 「なぁなぁ巧~?ちょっとお願いがあるんだけどさぁ~?」


 そんな声が、俺の頭の上から聞こえる。


 広谷ひろたに たくみ。それが俺の名前。

 少しばかり背が低いだけでいじめられている、どこにでもいそうな典型的ないじめられっ子だ。

 特に家庭環境に問題がある訳でもなく、特に病気があったわけでもない。少し女子に対して不愛想にしているぐらいしか、他人から俺の問題点は見つけられない。

 

 俺は今、クラスメイトの女子にいいようにされている。

 「馬鹿!」「死ね!」「愚図!」「チビ!」「キモイ!」位の低レベルな悪口は毎日言われ、冬場に水は掛けられ、校外ではどこからか入手してきた煙草を無理矢理吸わされ、主に腹と股間に暴力を振るわれる。


 誰も俺の事を助けようとはしない。奇妙なことに学校全体で(教師も含む)俺のいじめはスルーされるようになった。俺がいじめアンケートに書こうが、俺の親がいじめアンケートに書こうが、いじめの主犯の親が自白させようが、学校全体でスルーされた。特に就職に力を入れている訳でも無ければ進学校でもないこの高校のどこを守ろうというのだろうか。世間体かな?

 なんというか、教育委員会にでも訴えに出せば処理はしてもらえそうなものだが、ここまで事が大きくなると俺が転校をした方がよっぽど解決速度は速いだろう。

 

 まぁともかく、上記のいじめで済めばいい日だ。


 頭が働く奴がいて、外靴を片方だけ捨てられたり、弁当のおかずだけ捨てられたり、筆記用具だけ隠されたり。こういう中途半端なのが不定期で来る。

 

 いじめられ始めたのは、クラスのヒロインの告白を断った時からだ。


 普通なら、俺を逆恨みした男子からいじめられそうなものなのだが、そのクラスのマドンナの取り巻きにその結果が伝わり、取り巻きがこそこそと悪口を言い始めたのが事の発端だった。

 「分不相応なくせに告白されたんだから素直に受け取ればいいのに」だとか。

 付き合ったら付き合ったらで「お前如きが付き合うとかおかしいだろ」とか言うのは目に見えてわかる。

 

 ヒロインの告白から一か月ほど経ち、取り巻きがクラスメイトにラインを使って既成事実を触れ回った。

 俺は男子から冷ややかな目で見られるようになると同時に、ヒロインに押しかけられた。「責任、とってよね?巧君。」と。「はぁ?」と声に出してしまったところ、取り巻きが「えー!?女の子にここまで言わせておいて知らないふりするのー!?」とか馬鹿なことを言ってくれた。ヒロインが、顔を真っ赤にして嬉しそうにしていたのをよく覚えている。


 そして次の日から、クラスメイトの名前を忘れた。どうせ将来忘れる名前なんだろうし、まともに付き合うのも馬鹿らしくなった。


 「ねぇ巧ってば~。」


 俺の頭の上から聞こえるこの声は、ヒロインの声だ。 

 ヒロインが胡坐をかいて、その足の上に俺が座らされている。そして取り巻きは、「仲良しだよねー」とか言って、ヒロインは「そんなことないよー」とか馬鹿な会話をする。 


 「何?」 


 俺は目を殺し、顔を無表情にすることに努め、声も平坦にすることに努めている。

 感情なぞ見せたくもない。

 だがヒロインは馬鹿なのか、恋は盲目という奴なのか、俺の無表情を「照れてないでちゃんと話してよ~」だとか言う。

 なんにせよ、違和感を覚えないヒロインにも嫌気が刺している。



 いじめが始まってからそろそろ3カ月経つ。冬休みにも近くなったし、いじめを解決させようと思った。

 俺が自殺することで。


 俺が決定的な証拠をとって、同時に警察に被害届を出したところで、第三者委員会がいじめの有無を調査してなんだかんだするうちに、俺もクラスメイトも卒業してしまう。

 人をいじめて何の罪も犯していないという、夢のような自分ルールを適用する馬鹿どもにいい加減現実を見せてやりたいので、盛大に自殺することにした。


 プランはこう。

  

 一、いじめの証拠を写真で撮る。

 二、いじめの音声を録音する。

 三、いじめの状況を撮影する。

 四、一、二、三をSNS、YouTubeにアップする。

 五、いじめの主犯や関係者、放置した教員各位の調べられる限度での個人情報を入手。

 六、四と同様に五をアップする。

 七、学校でいじめられている最中に、逃げるふりをしてどこか丁度いい高所で落下。


 四から六までを迅速にこなした上で、世論が盛り上がったところで死ぬべきか、盛り上がる前に死んで、自殺の報道がされた時に、「あれ?コイツが上げた証拠と一致してね?」となって盛り上がってもらうかの二択で迷っている。


 前者の場合、盛り上がり過ぎたら両親に迷惑がかかるわけだが、後者の場合は実際に俺の上げた証拠が認知されるかが心配だ。



 冬休み中にそんなことを考えながら準備を済ませ、待望の三学期が始まった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ