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メガネの彼と気の強い彼女

曇ったメガネ

作者: 糸許 灯祈

『曇ったメガネ』

(キーワード:メガネ拭き、もしも世界が明日終わるとしたら、アザラシ)



「メガネ拭きある?」

「あー、ないよ。ティッシュでいい?」

背中に回していたポシェットを寄せて、するりと取り出したポケットティッシュを差し出してきた彼女に礼を言って受け取る。間に合わせにティッシュで擦ってみたメガネは、レンズが所々虹色に油ぎっていて、かけると視界が全体的に白く霞む。視力を高めるはずのそれは、かえって目を凝らす邪魔をする。見よう見ようと思うほどに対象の歪みが目立って、俺を苛つかせる。

「汚さないようにと思って、テーブルの隅に置いておいたんだけどなぁ」

「食べてる時は曇っちゃうもんね」

「そうなんだよ」

ラーメンを食べ始める前に外しておいたメガネに、見事にスープを飛ばしてしまったのだ。汚れたメガネ越しに見た、普段あまり綺麗だとは思えない小さなラーメン屋の店内は、霞みがかって神聖な場所のように感じられた。もしも世界が明日終わるとしたら、こんなふうにぼやけていってゆっくり穏やかに終わればいい。

「周りをよく見るのを諦めたら、視界がぼんやりしていい感じだよ。落ち着く」

「何言ってんの、見えないと困るでしょ」

語気の強い、平坦な声が聞こえた。向こうの壁に貼られたポスターたちを眺めるのをやめて、向かいに座る彼女に目を向ける。こんなに近いのに、やはり白くぼやけていて、彼女の白い服と相まってモコモコの毛を纏ったアザラシみたいに思えた。

「困るね」

「ほら」

汚れたメガネをすっと外した。外したところで見えないからぐっと眉を寄せて、少しスープの残った器を気にしながらテーブルに身を乗り出す。

「笑ってるか、怒ってるか分からないんだ。表情が読めなくて」


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