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赤髪のティア

「中々美味いなッ! この世界の飯!!」



この世界に来てやっと念願の飯にありつく事ができて、無我夢中で目の前に並べられた飯にガッつく。


学園長に話を聞いた後、セレスに学園を案内してもらいがてら、こうして食堂で飯を食っているわけだが、最初に異世界に来た時に懸念していた飯の味の問題は俺の杞憂だったようだ。



「セレスは食わないのか? 美味いぞ?」

「知ってる、今は食事の時間じゃないから」


「そっか、じゃあしょうがないな」



こっちが気を遣っているというのに、セレスのヤツは顔色一つ変えずに本を読んでいる。


こいつ、いつもこんな感じなのか? 絶対友達いないだろうな〜…


そんな事を考えながら横目でセレスを見つつ飯を食っていると、急に本をパタンと閉じてセレスが立ち上がる。



「私はこれから授業があるから、貴方は食事が終わったらさっき案内した貴方の部屋に戻るか、学園を見て回るといいわ」

「はーい」


「でも、コロシアムの周辺の庭園は近寄らないで」

「へー、この世界にもコロシアムがあるのか!」


「わかった?」

「はーい、わかりましたお母さーん」



呆れた顔をして食堂を立ち去っていくセレスを見ながら、俺は残りの飯を口に押し込み平らげる。



「さてと、腹も膨れたことだし探検に行こうかね〜」



俺は膨れた腹をさすりながら食堂を後にし、学園の中を歩き出した。




……


………




しばらく歩いていると、庭園のような場所に出て、その中を歩いていたら道に迷ってしまった。


別に方向音痴というわけではないのだが、この学園は俺がいた世界の学校とは桁違いに広くてデカイ。


とは言っても所詮は学園内だし、迷った所でそのうち何処かに辿り着くだろうし、いざとなったらセレス辺りが位置特定魔法みたいなもんで探して迎えに来てくれるだろうから、細かい事は気にしない。


そのまま道なりに進んで行くと、小さな神殿のような建物がひっそり建っているのを見つけて、興味本位で近付いて行く。



「へぇー、こんな所に神殿ねえ〜、ちと覗いて見ますか!」



神殿の入り口には扉はなく、壁の部分も柱が何本かあるだけで吹き抜けになっている。


入って直ぐの中央には泉のような物があり、常に神殿奥の台座から水が湧き出ては中央の泉に流れている。


吹き抜け部分から差し込む光が泉を幻想的に照らし、まるで絵画でも見ているような、そんな感覚を覚える。


芸術的センスなど皆無な俺だが、この光景には思わず息を飲む。



「 ほわー、綺麗なところだな〜…」



入り口からゆっくりと泉を時計回りに周り、奥の台座まで続く階段を上る。


すると、入り口付近からは見えなかった所にスペースがあり、いかにもといった感じに剣が台座に突き刺さって立てられている。



「まさかこれが聖剣だったりして…」


俺が聖剣に見惚れていると、背後の泉からバシャッと水が跳ねる音が聞こえて振り返る。


するとそこには、セミロングくらいの赤い髪の女が一糸纏わぬ姿で泉の中央に立っていた。



「ほぉー…」



赤い髪の女はこの距離で見ても分かるほどにスタイル抜群で、スラッとしてるくせにこれでもかと自己主張の激しい双子山が俺の視線を釘付けにさせる。


いやー、あれは良いものだ、拝んでおこう。


思わず双子山に向かって手を合わせお辞儀する。



「誰ッ!?」



そうこうしている内に赤い髪の女に気付かれてしまい、急いで前を隠されて鋭い視線を浴びせられる。



「あ、怪しい者ではございませんよ?」

「今の時間は立ち入り禁止のはずよ!? どうして男子がこんな所にいるのッ!?」


「道に迷ってしまいましてですね〜、だから全く悪意はなかったんだよ?ほんと!」


「それより…」

「え?」


「それより見たの?」

「見たって… 何を?」


「私の裸を見たのかって聞いてるのよッ!!」

「あー…」



こういうとき何て言ってフォローすればいいんだ!? 確かに見た、穴が空くくらい見た。恐らくそれはもうバレている。


なら誤魔化してもしょうがない、ありのままを伝えるんだ、そうすれば分かってもらえるはず!



「凄く良いオッパイだったぜッ!」

「……… 」



渾身の笑顔とグッドサインをおくったのだが、あれ…? もしかして、不味かったかな…?


段々と赤髪の女からメラメラと炎が、まるで怒りのオーラのように燃え上がっている。


もしかしてあれも魔力の一種なのか!?



「いいわ… どうやらアンタ、丸焼きにされたいみたいね…!?」


「命だけは勘弁してくださる…?」


「喰らいなさい! 魔装フェニックス!!」



赤髪の女の手から炎が出て、それを握ったと思ったら拳銃のような物に変化していて、その銃口を俺に向ける。


鈍い発射音と共に1発の弾丸が俺の頬を掠め、背後の壁に大穴を開ける。



「嘘… だろ…!?」



あんなチッコイ銃のあんなチッコイ弾丸が壁に大穴を開けて、尚且つ穴が空いたとこは炎が燃え広がっている!


あんなもんまともに喰らったら丸焼きどころか跡形も残らないぞ!?



「早く魔装を出しなさい!? さもないと撃つわよッ!?」

「ふざけんなッ!! もう撃ってんだろうがーッ!!」



なんだ? 魔法….だよな? 魔法士はあんな感じて手軽に武器を出せるのか?



「いいわ、たとえアンタが魔装を出さなくても、裸を見られたという正当な理由があるから、一方的に丸焼きにしても別に良いわよね…?」


「待ってッ!? 俺には魔力がないんだ! だからッ…!」

「問答無用ーッ!!」


「待て! 話を聞いてくれッ!?」



赤髪の女が魔装フェニックスとか言う銃を俺目掛けて連射する。


飛んでくる銃弾を躱すために、咄嗟に目の前の台座の裏まで滑り込んで息を潜める。



「こらーッ! 聖剣エクスカリバーを盾にするなーッ!!」



くそーッ、このまま撃ち殺されるなんてたまったもんじゃねえぞ!?


何か… 何か武器になるような物は…

ん…? そう言えばさっきアイツが…



「聖剣エクスカリバー…?」



こうなりゃ、一か八かだ!

俺はサッと立ち上がり台座に刺さっている剣と真正面で向き合い、剣の柄に両手を掛け力を込める。



「ふんッぬ!!」

「アンタバカぁ!? 王級魔導士でもないのに抜けるわけないでしょ!?」



『スポッ』

「あれ…? 簡単に抜けッ… いでぇ!!」



全身全霊を込めて抜くつもりが、いとも簡単に引き抜けてしまい、勢い余って後頭部を地面に強打する。



「嘘でしょ…? 聖剣エクスカリバーを抜いた…!?」


「何だよ〜ッ、簡単に抜けるんじゃねぇか〜」


「だから何だってのよ!? 燃え尽きろッ!!」



俺の眉間を目掛けて4発の弾丸が発射される。反射的に持っていた聖剣を縦に振り下ろし4発の弾丸を纏めて一刀両断にする。


真っ二つになった弾丸は俺を避けるように左右に散り、後方の壁に穴を開けて燃え尽きた。



「私の魔炎弾を斬った!?」

「よしッ! いける!!」



赤髪の女は最初こそ驚きはしたものの、怯まずに弾丸を連射してくる。


俺はその全てを剣で弾きながら、神殿の壁にぽっかり空いた穴から脱出する。



「じゃあ悪いけど、さいなら〜!!」

「あッ!? ちょっと待ちなさい!! 覚えてろよ〜ッ!!」





……


………




「はぁ… えらい目にあった…」



俺はセレスに学園を案内してもらった時に1番最初に案内された自室に戻るため、そこに繋がる廊下を歩きながら言葉を漏らす。


俺の部屋は学園の中にも数名しかいない、第5階級の生徒が集められている宿舎にあり、その内の1つが俺に貸与された部屋だ。


どうして第5階級の奴らと一緒なのかというと、単純に空き部屋がこの宿舎にしかないかららしい。


それにお世話係のセレスが近くにいた方が便利だからという理由も少なからずあるのだろうと思うが、セレスは一言もそんなことは言わなかったので、違うということにしておこう。


他の階級の宿舎もチラッと見て回ったが、階級の人数が偏っている分、宿舎の大きさに違いはあるが、ここが他の所より豪華だとかいう違いはない。


そのことについては、シュバルツのおっさんの考え方がしっかり反映されているんだろう。


じゃあなぜ階級毎に宿舎を分けているのかというと、無用な衝突や教師の目が届かないところでの差別をさせない為だとセレスが教えてくれた。


そんなことを考えているうちに自分の部屋の前に辿り着いてしまった。


それにしてもあの赤い髪の女! たかが裸を見られたくらいで大袈裟なんだよな、別に減るもんじゃあるまいし!



「大体、こっちは悪気はないって言ってんのに何でああも思い込みが激しいんだ! あーヤダヤダ、女ってのは!」



独り言を叫びながら自室のドアに手を掛けようとすると隣の部屋から人が出てくる気配がする。



「へぇー… 人の裸を覗いておいて、よくもまあそんなことが言えるわね…」



隣の部屋から出てきたのは、さっき俺を丸焼きと言いながら消し飛ばそうとした赤い髪の女だった!



「えッ!? ええええッ!!?? お、お隣さんですか…? いや〜 奇遇ですね〜、末長くよろしくお願いしますね… それじゃ俺はこれで…」


「待ちなさいッ!!」



話の流れのまま、自分の部屋に逃げ込もうとドアを開けた瞬間に赤い髪の女に怒鳴られ肩を掴まれる。



「私、ティア・ルーナ・エンドールは貴方に『魔法決闘』を申し込むわ!!」


「え…えーッ!!??」

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