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すべてのモノは夢を見ている

作者: らんた

人の思いの強さ、その不思議さを物語にしてみたくて書きました。笑える程未熟な文章ではありますが、読んで頂けたら幸いです。

「…ったく、良く降るなぁ。」



「イライラしないの。止まない雨はないんだから。」



「…でも覚めない夢はあるんだぜ、香織。」



「なにそれ。」



 いつもの教室で交わした他愛のない会話でした。


 その時は解らなかったけど、ハルの言ったその言葉に意味があったなんて、こんな事が待っていたなんて、夢の悪戯だったのでしょう。



 思い返すと、それは少し前から始まっていた様です。……




「なに見てるの?」



「……」



「ねぇ、ちょっとハル!」



「‥ン、なんだ、なんだよ。」



「なんだじゃないわよ。どうかしたの?ボーっとして。」



「はぁ?何言ってんの。」



「今窓の外見てたでしょ?」



「見てねぇよ。何言ってんだよ。」



 教室でこんな事が度々ありました。


 この頃ハルどうしたんだろう?と心配していた頃です……



 授業中いつもの様に居眠りをするハルの体が、なにやら小さく不自然に動いていました。


 初めは寝呆けているのかな?とも思いました。


 でも見ていると体が一瞬だけ半透明になって机が透けて見えた気がしました。


『あれ、目の錯覚かな?』


 そう思っていると、目を覚ましたハルが、まるで知らない人でも見るかの様な顔で私を見て、

 そして慌てて背けました。



「ハル、さっきなんであんな顔で私の事見たの?」



「なんだよ、さっきって。」



「授業中よ。居眠りしてて途中で起きた時。私を見たハルの顔、いつもと違ってたから。」



「……」



「ねぇハル、どこか体の調子悪いの?」



「いや、心配するな。なんともねぇからさ。」



「なら、いいけど。」



「うん、…もうじき香織も解るよ。」



「?」



 何言ってるんだろう…


 一瞬そう思いましたが特別気にも留めませんでした。




 それからほどなく、その季節にはめずらしい数日間降り続く事になる、あの雨の日を迎えました。


 晴男という名前どおり小さな時から雨が嫌いなハルは、ただいつもの様に憂欝なだけなんだろうなぁ、と思っていました。



 幼稚園の時も3日間の雨の間にてるてるぼうずを18個も作ったほどの雨嫌いだったのですから。



 5日間降り続き、昼頃にあがったあの日。


 憂鬱な顔のハルの、


『でも、覚めない夢もあるんだぜ、香織』


と、言った一言は、いつものぼやきとしか思えませんでした。



 そんな会話を交わしたのが2時間目の休み時間。


 3時間目はいつもの様に教科書を立ててハルは寝てしまっていました。


 退屈な3時間目が終わると、私は休み時間に職員室へ。


 そして始業チャイムと同時に教室へ駆け込むと4時間目を迎えました。



 あれだけ降り続いていた雨が嘘のように、窓から見える空はいつのまにか青空までのぞかせていました。


 ハル、喜んでるかな?


 そう思い一番後ろのハルの席に目をやると、

…そこにハルの姿はありません。


 それどころか机すら無くなっていました。



『えっ、なんで?』


 訳が解らない。さっきまであそこに…。



 私は驚き、隣の席のメグに小声で尋ねました。



「ねえメグ、ハルは?」



「えっ?」



「ハル何処行ったの?」



「香織、どうしたの?」



「私じゃなくて、ハル!」



「?」



「だから、ハルがいないの。」



「…だから、ハルってなに?」



「えっ?」



「誰だおしゃべりは。授業中だぞ!」



「ス、スミマセン。」



 まったく急な事で訳が解らない私は、なぜか冷静にならなきゃ、と自分に言い聞かせていました。



 終業のチャイムが鳴り止まないうちにハルの席へ行くと、何もない、机のあった形跡すらないその場所でなんだかとても恐くなってきました。


 そして周りのクラスメートに確かめるようにハルの事を聞いていました。



「はぁ?」


  「誰?、それ」


「香織、どうしたの?」


 「大丈夫?香織」



 だれも私の期待している答えは返してくれません。 それどころかハルが存在自体していなかったかの様な答えが返ってきました。



 つい、ほんの数分前まで教室にいたハズのハルは、突然その存在自体が無くなってしまったのです。


 私の記憶の中のハルを除いて……



 それからは何か漠然とした不安が私を包み込んでいました。


 幼なじみのハルとの思い出も、何故かはっきりと思い出させない部分があったり、一瞬ハルの記憶が無くなっていたりと、そんな事があってより一層不安に駆られていきました。



 そのころからです。


 夢を見た事のなかった私が、やけに生々しい夢を見るようになったのは。


 いつも同じ夢でした。




《またこの夢か》



 夢と自覚出来るほど、何度もこの場面から始まります。


 可笑しな事に、その夢は目が覚めるところから始まります。 私は寝ているのです。


 でも、目覚めても何故か起き上がれません。

 体が動かないんです。


 瞼も辛うじて開いているのでしょう。

 ぼやーっと、なんとなく誰かが動いているのが解る程度です。



 何かが聞こえます。


 でもそれはエコーがかかっているような、はっきりと聞き取れるものではありません。


 時折、『香織…』という声や、なにやら寝ている私に誰かが話し掛けている様な感じだけが聞き取れます。



《変な夢、なんなんだろう、これ》



 夢を見ながらこんな事考えられるなんて、ほんと可笑しくもありました。



「へぇー、香織変な夢みるんだね」



「でしょ?どうしてかな?」



「まえに聞いたことあるよ。夢って普段のストレスとか精神状態が影響するんだって」



「私が見てる夢はどんな意味があるんだろう?」



「あまり気にしない事よ。考え過ぎないで気楽にしていればいいんじゃない?ほら、この前も香織変な事言ってたし。」



「う、うん…」




 教室ではもうハルの事は口に出さないようにしていました。

 余計不安になりそうだったから…



「そうだよね。ありがとう、メグ。」



 普段どおりに普通に、そう自分に言い聞かせていました。


 それでもハルの事はいつも考えていました。






「香織?どうしたの?」



「えっ、なに?」



「何度も呼んだのに、何かじっと見てるから。」



「えっ、あっごめん。ちょっと考え事。」



「良かったぁ、様子がヘンだったから」



「そ、そう?ごめん、心配させちゃって。」



 何度かこんな事がありました。


 何かちょっとヘンな、不思議な感じがしていました。

 私がほんの一瞬と思っている事が、周りにはとても長い時間と思われてしまうからです。



 この頃から、みんなとは何かが少しずつズレてきている様な違和感を感じ始めていました。



 朝から雨降りのあの時と同じ様な少し憂欝な日、教室のベランダで雨宿りをしているトンボを見つけました。


 濡れてしまった羽をじっと乾かしているトンボを見て、ハルが言っていた事を思い出します。



『トンボは俺たちと同じモノを見ていても俺たちと同じには見えていないんだぜ。』



『へぇーそうなんだ。』



『複眼って言ってな、一つのモノもいくつにも見えるし、黄色い花も青とか緑に見えてるンだって。』



『ハルはよく知ってるね。』



『…どっちがホントの色なんだろうな。』



『ハルはどう思うの?』



『きっと、どっちも正しくて、どっちも間違いだよ。』



『よく解んないよ。』



『そう、よく解んないってのがきっと正しい答えだよ。』



『なにそれ。』



 あの時は笑っていたけど、なんとなく解ってきた様な気がしました。




トンボが少し小降りになった外に飛び立ちました。



―その時―


 何かが頭の中でパチンッと弾けました。


 そして教室を見渡した時、それは一気に理解出来てしまいました。



………………………………


 クラスメートがすべて光に見えました。


 まるで光が一人一人を包み込んで、別の光が人間を形づくっている様に。


 周りのすべて…


 机も椅子も、 教室そのものも、

 目に映るすべてのモノを光が作り上げていました。



 その中にハルがいました。


 ハルは普通に見えます。


 私とハルだけが教室でそれまでの姿をしています。



「だから言ったろ、もうじき解るって。」



「ハル!」



「さあ、あとは思い出すだけだ。」



「なに?解んないよ。」



「大丈夫。おまえはここじゃトンボなんだ。それに気付いたんだろ?」



「どうすればいいの?」



「おまえ知ってるだろ、黄色い花が黄色に見えるあの場所を。」



「あっ!」



 その時私は忘れていた事を思い出しました。



 この場所よりももっと現実味のある場所。


 ぼんやりとだけど確かに感じていた。


 誰かがいた。


 そして声を聞いていた。


 その声は知っている声だったんだ。


 私を呼んでくれていた。



「ハル!」



 私はハルのそばへ駆け寄ろうと足を踏み出しました。


……その瞬間。



 あの夢で見ていたベッドの上で目を開きました。



 目の前には30才のハルの姿と白衣のお医者さん、そして両親も妹も泣いていました。



「香織!」

「お姉ちゃん!」



 私は起き上がれない体の代わりに、両手をいっぱいに伸ばしました。


 ハルが近づいてきてくれました。



「お帰り、香織。」




「ありがと、ハル。教えてくれて。」



 優しくハルは微笑みました。




 ゆっくりと起き上がると病室の窓際には黄色い花。


 天井からは紙でこしらえたトンボの模型。


 壁には18個のてるてる坊主が掛かっていました。



「あなたが意識が戻らなかった間、晴男君が一日一個づつこれを作ってきてくれたのよ。」



「……でも、なぜ?ハルはどうやって私を助けてくれたの?」 私の家族はなにやら訳の解らない顔をしていました。



「何言ってるの、香織。晴男君もあなたと一緒に事故に逢って大怪我しているのよ。3日間意識がなかったんだから。」



「俺が目を覚ましてからもおまえは18日間意識なかったけどな。」



「でも、……私たち一緒にいたよね?教室で。」



「……」



「何言ってるの香織。先生、香織は……」



「お母さん、大丈夫ですよ。あの大きな事故での意識不明だったんです。少し記憶が混乱しているんでしょう。」



 ハルは優しく頬に触れて微笑んでくれていました。



「……今は何も考えずにゆっくり休みな。」



「うん。」



 私はハルの言うとおり、ベッドに横になりました。


 眠くはなかったけど、頭の中を少し整理したかったんです。



 教室での事も、

 思い出した現実の事も、


 静かにひとつづつ考えてみたかったんです。


 思い出のように……




………………………………



 私の一生は素晴らしい80年でした。


 私が人生を終える時もハルは優しく看取ってくれました。


 あの大きな事故からの人生も、より充実したものになり本当にいい生涯でした。


 そして、あの時解らなかった事が肉体を無くした今、全てが理解出来ました。



 私は息を引き取った瞬間、あの教室にいました。


 私の姿もあの時のまま。 周りも何もかもあの時のままです。


 一つだけ違っていました。


 疑問に思っていた事が頭の中に流れ込んで来たんです。


 それで全てを理解できました。



 ここは、夢の中です。


 私の夢ではありません。


 地球が見ている夢の中です。



 そこに私や、沢山の人達が引き寄せられた世界だと知りました。


 私には教室に見えるこの場所も、

 隣にいるメグには、そして周りの人たちにはどう見えているのか解らない世界。


 それでも辻褄が合ってしまう。


 それほど地球のスケールは大きいんだって事が解らされました。



 ハルが言っていました。



「俺も香織と同じ教室にいたよ。あの事故で俺は心肺停止で運ばれたらしい。でも息を吹き返してその3日後に目を覚ました。その間教室にいたんだよ。」



 ハルはあの時解っていたんです。


 この教室は、私達が地球の夢の中で感じていた世界だって事を。


 そして、その先にあるのが本当の死の世界なのだと。



 一度死んだハルはその先の世界も見ていたんです。


 解っていたから私を助けてくれたんです。


「香織、どうしたの?涙。」



「なんでもないの、メグ。ちょっと嬉しいの。」



「?」



 不思議そうなメグにとっては、きっとこの世界が現実なのでしょう。


 ここが地球の夢の中ということを気付いていないのか、或いは何か理由があって先の世界に行けないのかは解らないけど、

……きっと私と同じ様な理由なのでしょう。




 ハルと出会った20歳の頃、お互いの思い出をたくさん語り合っていました。


 学生時代に逢いたかったね、と話していたそんな私たちの思いの強さが地球の夢の中の教室で2人を逢わせてくれたのですから。


 今度は私がハルをここで待ちたいのです。




……あっという間です。



 ハルが人生を終えるあと13年なんて……




 ベランダにトンボが飛んできました。



「ねぇ、あなたには今の私がどう見えるの?」






(すべてのモノは夢を見ている)

拙い文章力でお恥ずかしい限りですが、お読み下さった方に感謝です。ほんの少しでも不思議な気分になって頂けたら嬉しいのですが……

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― 新着の感想 ―
[一言] こう言う話は大好きです。 物語に浸らせていただきました。 私も人の事など言えない拙い文章を書いております。これは自分自身に言い聞かせている事なのですが、 文章の力を自分自身が納得できなかっ…
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