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3.「俺の優しさが悪かった」

「お前、今日ちゃんと笑えるか?」


馬車から手を振っていると、隣に座っていたロブに耳元で囁かれた。私は迷わずに頷いて「大丈夫だよ」と笑ってみせたのだけれど、


「ダメだな、お前」


やっぱりロブには気付かれてしまう。私の笑顔がひきつっていることを。


現在、私とロブは馬車に乗って街の大通りをパレードしている。沿道に集まった国民たちの声援に答えるように手を振りながら。

私は白のドレスに身を包み、アップにした髪にはエンドバール王家が代々受け継ぐ豪華なティアラが輝いている。ロブもまた王族だけが身に着けることのできる白色の礼服に身を包んでいた。


結婚式は昨日、王族関係者と私の親族だけで厳かに行われたのだが、今日は晴れて夫婦となった私とロブの姿をエンドバールの国民にお披露目するため街中をパレードしている。

王子の結婚とあり街中は華やかに飾られ、朝から祝福の大砲が何発もあげられすっかりお祭りムードだ。国民たちは仕事そっちのけで私とロブを乗せた馬車が通る街の大通りへと集まっている。沿道に集まりきれなかった人々が建物の窓から顔を出して手を振っている。


「このあとのパーティーには他の国のお偉いさんたちもたくさん来るし、それに兄貴も来る。兄貴に見惚れてドレスにワインなんてこぼすなよ」

「しないよそんなこと。大丈夫」

「本当かよ。ワインをこぼさなくても、兄貴の姿見て泣くなよ。でもまぁ、どうしても辛くなったら具合が悪いとか言ってどこかに行けばいいさ。後のとこは俺がなんとかするからよ……って、お前もう泣いてるの?」


ロブがぎょっとした表情で私を見る。そんな私の目からはぽろぽろと涙がこぼれていて。


「だってロブが優しいこと言うんだもん」

「ったく、泣き虫なのは昔から変わらねぇな、ルーシーは」


パレードの途中なのに私は手を振るのをやめて涙をぬぐった。そんな私を見ていたロブが胸元のポケットチーフで私の涙をそっとふいてくれる。


「それは俺の優しさが悪かった!もう優しいこと言わないから泣き止めって」


言いながら、私の目元を優しくふいてくれるロブ。すると突然、馬車の外から一際大きな歓声が上がった。


『ロバート様、お優しいわ。お妃様の涙を拭いて差し上げるなんて』

『ええ、素敵。とても絵になる』

『お妃様の涙も感動するわ。きっとこの結婚が心から嬉しくて幸せが溢れて涙になったのよ』

『本当にお幸せそう』

『お似合いな二人だわ』


どうやら沿道に集まる人々から馬車の中にいる私たちの様子が見えて、私の涙をロブがポケットチーフで拭う姿が好評だったらしい。


思いがけない歓声に私とロブは顔を見合わせて思わず笑ってしまった。私の涙を幸せな涙ととらえてもらったことはよかった。私とロブは再び馬車の窓から国民たちに向けて手を振る。


「ロブならもっと素敵なお嫁様ができたのにね…」


私の呟きは歓声でロブには届かないだろうと思ったのだけれど、どうやら届いていたようで。


「言っただろ。俺はお前でいいって」


そう言ったロブの表情は見えなかった。沿道に集まる国民たちに手を振りながら、ロブは何を思っているのだろう。


私は手を振りながら、窓の外へ少しだけ顔を出す。そして、私たちの馬車を先導している馬に乗る人の後姿を見つめた。


今日のパレードは王国騎士団によりしっかりと護衛をされている。その先頭にいるのが総騎士長のフィル様だ。


背筋をピンと伸ばし、たまに周りを確認しながら不審な動きをする者がいないのかを警戒しているのだろう。自分も王族のはずなのに、フィル様はもうすっかり立派な騎士だ。


私は窓から顔をひっこめた。あのままフィル様を見ていたらまた涙が溢れそうだった。


フィル様のお嫁様になれなくてもそばにいられればそれでいい。そう思って、ロブと結婚をして王宮へやって来たのに。フィル様の姿を見るだけで涙がこみあげてくるなんて……。きっと、そばにいることで私のフィル様への想いはずっと消えることがなくて、どんどん大きくなっていくのかもしれない。


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