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2.「一緒に遊ぼう」

エンドバール国には二人の王子がいる。


一人が私の夫となった第2王子のロバート様。歳は私と同じ18歳だ。性格はとにかく明るく気さくで誰とでもすぐに打ち解けることができる。態度も言葉づかいも王子らしさが見当たらないので、彼のお父様である国王様はロブが王位を継承することに少しの不安を抱いているようだ。けれど、私はロブは絶対に良い国王になれると信じている。だってロブはその持ち前の明るさで国民や家臣たちからとても人気で信頼もされているから。


そんなロブとは正反対なのが兄であり第1王子のフィル様。性格は真面目で実直、あまり多くを語らないような人だ。歳は私とロブより7つ上の25歳。そして彼こそが私の長年の想い人……。


二人の王子は兄弟なのにまったく似ていない。と、幼い頃から彼らを良く知る私は思う。


兄のフィル様は国王様であるお父様とよく似た容姿をしていて、黒色の髪、切れ長のやや鋭い目が印象的だ。背は高く、筋肉質な逞しい体格をしている。


一方の弟のロブは王妃様であるお母様とよく似た容姿をしていて、ブロンドの髪に、透き通るような白い肌。爽やかな印象を受けるそんな見た目はまさに【王子様】という言葉がぴったりだ。


そんな見た目も性格も似ていない二人だけれど、唯一同じものがあるとすれば瞳の色だ。二人とも国王様似のエメラルドグリーンの美しい瞳をしている。


私は幼い頃からよくお父様に連れられて王宮へと来ていた。そして同い年のロブや兄のフィル様とよく遊んでいた。いわゆる幼馴染というものだ。


幼い私とロブが王宮の庭ではしゃぎまわる様子を7つ年上のフィル様はまるで保護者のように見守っていた。「一緒に遊ぼう」と誘う私とロブにフィル様はいつも困ったように笑い、「俺はここにいるから二人で遊びな」と決して冷たい言い方ではなくやんわりと告げるフィル様はあのときから真面目な人だった。


私はいつからフィル様が好きだったのだろう。思い出せないくらい小さな頃から私の心の中はもうフィル様でいっぱいだった。大きくなったらフィル様のお嫁様になることが私の夢だったし、実はそうなれることを私は知っていた。


なぜなら、フィル様のお父様である国王様と私のお父様との間で子供たちの結婚を約束していたからだ。政略家婚?というのだろうか。私はエンドバール国の次期国王様のもとへ嫁ぐことが小さいときから決められていた。


次期国王は第1王子であり王位継承権第1位のフィル様だったから、私は将来フィル様と結婚をすることができる。父親たちが勝手に決めた結婚だけれど、私にはとても嬉しいものだった。

親の決めた相手と結婚をすることはこの世界ではとても当たり前なことで、結婚相手は自分では決められない。望まない結婚をする人が多い中で私はとても恵まれている。だって結婚を決められた相手のことを私は好きなのだから。こんなに嬉しい結婚はない。このまま大きくなれば憧れのフィル様のお嫁様になることができる。私は早く大人になりたかった。


けれど、そううまくはいかなかった。


フィル様は15歳のときに王位継承権を放棄し、王子の地位を捨ててしまった―――。


そして現在、フィル様は王子ではなく王国騎士団の総騎士長という立場にある。騎士として生きる道を選び、同時に一生妻をとらないことを決意された。


10歳の頃からフィル様は剣術を習い始めたのだけれど、本格的にその道へ進みたくなり王子であることをやめて15歳のときに王国騎士団へ入団した。国王の道ではなく騎士の道を選んだのだ。そして25歳になった現在は王国の全騎士を束ねる総騎士長を任されている。


王族だからその役目を任されているのではなく、フィル様はそれに相当する実力があった。誰よりも強い剣技と冷静沈着な判断力がかわれ、今から5年前、フィル様が20歳のときに前総騎士長により新しく総騎士長を任命された。


フィル様が王位継承権を放棄された知らせはすぐに我がミラース家にも届いた。そのとき私は10歳だった。その知らせにお父様は特に顔色を変えてはいなかった。私が今まで通り次期国王様のもとへ嫁ぐことに変わりはなく、その相手がフィル様ではなく新しく王位継承権1位となったロブへと変わっただけだからだ。


けれど、私にはそれはとても衝撃的な知らせだった。ずっと大好きなフィル様のお嫁様になれると思っていたのに突然それが変わってしまったのだから。


あのときはただひたすら部屋で泣いていた。私はずっとフィル様のお嫁様になることを夢見ていたのに、そうなれるはずだったのに。ロブのことは嫌いじゃない。好きだ。けれど、フィル様に抱く好きとは違う。


それまではこの結婚を喜んで賛成していた私だけれど、断りたいという思いが生まれた。けれど勇気のない私はそれをお父様に伝えることができなかった。好きではない人と結婚をする。この世界ではとても当たり前なこと。わがままを言ってはいけない。


と、同時に私は気が付いてしまった。ロブと結婚をすれば私は王宮へ行くことができる。王宮には騎士としてフィル様が常にいる。フィル様のそばにいることができる。そばでその姿を見ることができる。


そうして私は父親たちの約束のもと、18歳になった今年、ロブと結婚をして王宮へとやって来た。

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