ある少年Bの噺
返してよ、ねえ返してよ。
僕の居場所を奪わないで、
暖かさを奪わないで さみしいよ、ねえ。
望んだのがいけないの?
愛したことがいけないの?
欲したことがいけないの?
掴んだことがいけないの?
お願いお願い、神様なんてこれっぽっちも信じちゃいないけど、
お願い、どうかあの人達を返して。
むわり、草原の香り
さざめく銀の風
駆ける子供
微笑む大人
家から漏れだす優しい思い
手を伸ばしたのは、
どうしてこぼれ落ちるのか、
いくら強く抑えても 溢れ出しそうなこの心
やめて、やめてよなんでなの
どうしてこっちに笑いかけるの
お願いやめて、嫌なんだ
失うことが怖いんだ
向けられる温かさに慣れてしまった
向けられる笑顔に絆されてしまった
嗚呼、なんて滑稽、莫迦らしい。
救済なんて あるはずがないのに。
求めたって求めたって
刺さる嘲笑 悪意の刃。
まって、まって、おいてかないで
はたき落とされた手の向こうに
見えたのは二人が見知る見知らぬ子供
嗚呼、嗚呼、嗚呼、
届かないか細い声でなく。
嗚呼、嗚呼、嗚呼、
がらんどうの巣の中でなく。
嗚呼、嗚呼、嗚呼、
置いて行かれたんだとないている。
翼はとうに 腐って落ちた。
与えられたアイを飲み干して、
貰った愛を飲み込んだ。
今は、今はと願った幸福。
寄るな、寄るなとはじいた不幸。
カミサマはなんて理不尽で、
強く、
気高く、
優しく、
温かく、
甘く。
甘美な言葉をかけてくる
赤い、紅い、朱い色が
全部、全部を塗りつぶし
かすかに開いたその瞳
濁って空は見えなかった
アカにまみれたこの両手
誰もを助けられなかった証だった
たすけてたすけて ないたって
言葉を返す者も居ず
駆けて、駆けて、希ったよ
お願い神様、助けてください
名も知らない神様に 頼んで縋って崩れて泣いて
返してよ、ねえ返してよ
僕の居場所を奪わないで
×××を奪わないで さみしいよ、ねえ
愛を、
人を、
光を、
希望を、
寂しいよ、独りは
置いて、いかないで
ねえ、どうしようとね
寂しいことには変わりなくてさ
ならば温かいこの人の隣
そっと刃を手にとって――――――――――――――――