8「この物語は大体が後付設定で構成されている………にゃん」「取ってつけたようなその語尾があざとい」
「魔法部ってさ、基本的に来客者が来ないと仕事無くないか?」
そんなことを呟く俺。
あれから3日が経った。気が付けば、いつも通りの生活に戻っている。いや、誰が攻めて来ようと、元の生活は崩れやしない。
「いやいや、それは僕たちが従来の仕事を怠慢しているから起こる現象であって、本当は修行とかしたりしなくちゃいけないんじゃない」
と、ギザ。
「それはつまり、そんなことしなくても俺たちは最強だ―――ってこと?」
「そういう考えが、敗北の原因になるんじゃないかな」
会話に割って入ってきたのはソグだ。
「ああ、ソグか。というかソグ、話は変わるけれど、ソグってなんだか特徴ないよな」
「どうしたのいきなり。新手のセクハラかと思ったよ。身体的特徴のことを言っているのならこの話は聞かないけれど、それはどういうこと?」
「ああ、誤解されるようなこと言っちまったな。いやいや、ギザもそうだけれど、どうしても俺たち個性薄いじゃん?だから個性的なところをもう少しアピールしていこうよ、っていうようなこと」
暇な時の話は脈絡がない。
「え、僕もそんなに没個性的なの?」
「いやいや本当にその通りだよ。辛うじて一人称と語尾で誰が誰だかわかるような感じだ」
「声でわかってくれよ」
それはそうかもしれないけれど。
「まあ、確かに私たち3人は嗾に比べたら個性が薄いわね…」
「いや、それは嗾の個性が強すぎるだけの話じゃないか?」
「本当にその通りだよ。キャラが濃い。ものははっきり言って、誰よりも強くて、それでいてお嬢様語。なんだか全部掻っ攫っていったようなキャラをしているぜ」
「私がなんですって?」
ドアを開ける音とともにあきれた目をした嗾が部室に入ってきた。
「いえ…なんでもないです。」
「で、個性をつけようという話なんだよ。僻んでいる場合ではないんだよ!」
「え、その話に戻ってくるんだ…。一回区切りがついたから違う話に移行すると思っていたのに!」
「そう簡単に移行してたまるものか!」
「そこは移行するところじゃないの」
「と、いう訳で、自己紹介も兼ねて個性アピールをどうぞ!」
「私はソグ。もう本名とかはいいや。魔法属性は電気属性だよ。」
「え、普通だな」
「いや、まあ実際こういう事をやれって言われても意外と難しいところがあるわね」
「そうかもしれないけれど、それにしては個性が無さすぎるよ。もっと…こう、なんというか・・・・・・・・・・・・語尾に『にゃん』とつけるとか」
「……悩んだ末にそれなんだ。というか、それはやり古されている気がする。まさに、後付設定の象徴みたいな」
「現にこれは後付設定だし」
「後付だったらなんでもいいと思わないで!」
「でも俺は後付には後付の良さがあると思うんだ」
「急に後付に対するフォローに回ったよ…」
「さて、それはそれとして今からソグは語尾に『にゃん』をつけること!」
ソグは、少々いやそうな顔をしてから、小声で、「暇だし、仕方がないか」とつぶやいて、承諾してくれた。なかなか、冗談が通じる奴でもある。
「しかしまあ、この語尾は本当に誰特なのかしら…にゃん」
「個性をつけるのに、特も何もあるのかよ?」
「でも、これは完全に狙ってつけているでしょ。『にゃん』とか、あざとすぎるにゃん」
なんだか、しっくりこなくもない。後ろで、ギザが声を殺して笑っている。ソグからしてみると、その位置は死角だ。
「いざ言ってみると、恥ずかしいものがあるにゃん」
「仲間内とはいえ、こんなことを言えるとか、ソグは少しどうかしていると思う」
「いきなり真顔で言わないで!言われた瞬間から恥ずかしくなってきた!」
ソグは耳まで赤くなっている。
「にゃん、は?」
「あなたがその恥ずかしさを指摘したのに、まだ続行しろというのにゃん!?」
ちゃんと乗ってくれる。こういうところで優しさがにじみ出てきている。
「あの二人、よくやるよなあ」
「本当ね。まあ、確かに没個性的であるということはあなたも含めて否めないけれど」
後ろで話しているのはギザと嗾だ。
「もうちょっとまじめな個性のつけ方とかないかなぁ」
「個性というものは、その人の本来のものだから、つけようとなんてしても、それは一過性のものであって、結局は個性というものは変わらない、っていうのが落ちなんだけれど。まあ、せいぜい癖になるというのが着地点でしょうね」
「癖、か…。それも十分個性と言えるとは言えなくもない気がするけどね」
「そうだね。確かにそれでも十分個性―――個性というか、キャラが濃くなったということは出来るね。ギザもやってみるかな、キャラ補正?」
「キャラ補正って、とうとう言っちゃったよ…」
そう俺が嘆いているのは知らぬ顔で、向こうは着々と話が進んでいく。
「そうだね。熱血漢で、自分を犠牲にするのが大好きだとか」
「おい、ギザ。いくら相手が嗾だからとはいっても話半分に聞いておいたほうがいいぞ」
ギザは――ソグもそうだが――嗾の信者と言っていいくらいに尊敬、崇拝している。彼女が言ったことは全て本当だ、と信じる節があるため、嗾の迂闊な冗談を本気にしてしまう。嗾はそれを見て遊んでいる節もあるのだが。
「あとは―――そうね。自傷行為が大好きで、それから地べたに這いつくばるのが日常茶飯事。そして通常の姿勢が土下座よ」
「やり尽くされている…訳が無い。そんなキャラがいてたまるか。」
そういって、ソグを見ると、すでに地べたに這いつくばっていた。
これは、犬だ。そう思った。
「移動するときも常に土下座の姿勢を崩さずに動き、あらゆる手段を使ってその体勢を崩そうとしてくるのがライバルね」
「ライバルはいい奴だ!」
「でも、そんなギザはそのライバル――仮にトバリとしましょうか。トバリをボロボロに、それはもう滅茶苦茶に倒すというストーリーね。主人公であるギザが勝って大団円ね。まあ、その時ですら土下座は崩さないけれど」
「そんな新連載ははじめないぞ。そしてなぜ俺の名前を出した」
「そして現るは第二の敵、まあ、ソグでいいかしら。ソグは逆に土下座で対抗。相手の下に潜り込もうとして頭の低さを競い合うの」
「卑屈すぎる!」
「そして、最終的には二人で深さを求めて海に沈んでいくのよ」
「酷過ぎる!」
「そして大団円」
「大団円になってない!」
首を戻し、正面を向くと、ソグが土下座をしていた。
「お前にはプライドというものがないのか」
「ワン…にゃん」
もう処理しきれない…。
犬という物にそういうイメージが根付いてしまったのは、まず人間のせいなんだけれど、しかしそういうことを抜きにしても、体勢と言い、なんだかそっくりだ。
「さて、自己紹介でもするか」
「トバリ、あなたの頭の中には暇になったら自然と自己紹介を促すようなプログラムでも組まれているのかしら?」
「でも、個性もついて、いいタイミングだろ?」
「あんまり同意しかねるけれど…」
自己紹介――――――――――――
トバリ…主人公。平凡。
ギザ…平凡。
ソグ…語尾に「にゃん」と付く。
嗾…言葉遣いが丁寧で、この学校で最強。それから考えが聡明で、皆に人気がある。
「ねえ、僕の自己紹介まんまトバリと被っているんだけれど」
「これは酷いな…というか、嗾がどうしても目立つ。完全にキャラの立て方が偏っている」
「さっきの土下座の話はなかったことになっているけれど、私の語尾の話は継続なんだ!」
「もう消えているじゃん…」
「あんな恥ずかしいこともう二度と言わないわよ!」
「私はソグが『にゃん』って言っているのは可愛いと思ったわよ」
「そ、そうかにゃん…?」
ちょ・・・チョロい。
「さすがに可哀想だからやめさせてあげて…嗾」
「えー、でも本当に可哀いわよ?」
「漢字が『哀』なんだけれど…」
「仕方がないですね。ソグ、さっきのは嘘よ。実際に見てみると、いくらあなたの容姿がいくら可愛くてもさすがにその語尾はないですね。あまりにも酷すぎます」
「極端だな!」
「たまには練習試合しようぜ」
事の発端は俺が放った暇つぶしの一言だった。
「は?」
「いや、そんな首を230度傾げる勢いでこちらを見なくても…、練習試合だよ、練習試合」
「は?」
「おなじリアクションを続けないでくれないでくれるかな。こちらの心が折れる」
「なんでまたいきなり練習試合をしようと思ったんだ?」
「最近してないじゃん。体がなまっちゃいけねえなと思ってな。どうせ今日も暇だろ。何もすることなしにここでぐうたら過ごすよりは魔法場に行って体動かそうぜ」
皆が怪訝な顔をする。あれ、これデジャヴ?
「で、ここで俺が提案するのは、いつも見たな――というか、いつもやっていないけれど、ほかの部活とか、生徒会とかとの練習試合じゃなくて、俺たち4人が2対2になって争うという身内同士での勝負。これなら、勝敗が圧倒的すぎないで飽きないぞ」
「ああ、それならいいかもな」
珍しく、ギザが乗ってきた。
「いつもの4人での対戦のときは嗾の独り勝ちだもんな」
「それトランプとか人生ゲームとかそういうゲームの話だろ」
絶対嗾は人の心が読める、ってくらいの勝率。大抵一人勝ちする。その勝率すらも操っているんじゃないだろうかと疑いたくなるくらいだ。あまりにも勝ちすぎると不審に思われるからたまには負けておこう、とか。
「でも、それは嗾がいるほうが勝つんじゃない?」
「いや、存外そうでもない。ここで味噌となるのが2対2というところだ。2対2の良い所はお互いに足を引っ張り合う可能性があるということだ。協力プレイに必要なのはチームワーク力。独断力ではなく、結託力。だから、この勝負はどれだけ統率のとれたチームであるかによって勝敗が決定されるということ。だから、いくら一人が強くても勝つことは出来ない。相手が自分を信じているか、自分が相手を信じているかにかかっているのだから」
実戦では役にはあまりたたないんだけれどね。基本4人だから。
「たまには、そういうイベントもいいですわね。もうそろそろ魔法部決定戦も控えている訳ですから」
「あ!!」
ソグが大声を上げる。今の「あ」は忘れていた時の声だろうな…。さすがにそのくらい俺でもわかる。
「大丈夫だよ。俺たちの魔法部入部は次年度も決定されているんだから」
ここで説明。魔法部決定戦とは?
魔法部は学校で最強の組織であり、魔法部が敗れると、今の体制が傾く恐れがある。だから、魔法部は常に最強の人員をそろえていなければならない。そして始まったのは魔法部決定戦。まあ、魔法勝負のトーナメント戦だ。上位4名が新しく魔法部に加入することができる。もちろん、これには現役の俺たちも参加するわけで、一度入ったものは最終学年まで魔法部に居られるんだけれども、このトーナメントを荒らすことが恒例になっている。
それほど義務感のあるものではないけれど。
「まあ、ソグくらいの実力ならベスト100は堅いだろ」
「ベスト100て。今魔法部にいるんだからベスト4には入っていたにゃん」
「さすがにそれは冗談として、今回も4人でベスト4になるんじゃないかというのが俺の予想だな」
「そうね…わざわざプレッシャーを気にする必要もないにゃんね」
「大丈夫だって」
そう励まして、僕たちは魔法場に向かう。油断大敵という言葉はあるのだけれど、しかし一回勝っていると、心に余裕ができてしまう。余裕大敵だ。
魔法場。ほかの部活動が魔法部に注目しだした。
「まあ、三日前の発光もあるし、当たり前かもしれないわね。」
「そうだな。今回は目立ってもいいけれど。むしろ、魔法部の強さをアピールする絶好のチャンスじゃないか」
「アピールしてどうするのよ。特に何の得もないにゃん」
「ルールは2対2、なんでもありで、明らかに決着がついたと見て取れる場合、それから相手のギブアップのみゲーム終了の合図とする」
「OK。で、肝心のチーム分けはどうするにゃん?」
「まあ、これは公平公正にじゃんけんで決めるというのはどうかしら」
そう嗾が提案する。圧倒的に嗾が強いうというバランスができている今、嗾以外の強さは大して変わらないということを考えてみるとそれは確かに正しい判断かもしれない。属性の関係もあるけれど、嗾の前では等しく歯が立たない。
そこまで考えたところで、この勝負に意味がないように見える。しかしさっきも言った通り、ダブルバトル。いくら一方が強くても、そこには穴がある。なにせ、連携が重要だ。連携したほうが勝つ!