10「第四の属性」(第二話プロローグ)
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時は巡って、暫く程前。彼女の周りには常に強風が吹き荒れる。道端に飄々と佇む緑色に茂った椛の葉も、彼女が通った後には、まるで冬の様に舞い散ってしまう。
彼女の名前は、儚銛氣翳。その属性は――――『風』。
世間一般では、「ユニーク属性」と評されるその属性は、ほかに類を見ない。火を吹き飛ばすかのように風を巻き起こし、水を弾き飛ばすかのように風を巻き起こし、電気を撒き散らすかのように風を巻き起こす。
その圧倒的な―――意外的な能力の前に、人々は皆、跪く。そして、それ諸共、吹き飛ばす。蝋燭の火でも消すかの如く、華麗に、美麗に、吹き飛ばす。
「私の前には、誰一人として、立たせやしない。みんなまとめて、吹き飛ばしてやる!」
挑戦心に満ち溢れた彼女の心は、怒りと、絶望の2色で染まっていた。否、これは挑戦心ではなく、復讐心。
その実力で、彼女は何人もの猛者を打ちのめしてきた。風という、特殊極まりない属性も確かに作用したけれど、しかし彼女を支える真髄は何よりも強かった。屈強で、頑丈で、増大。心の闇は、計り知れない。その属性と、そして天性に恵まれた反射神経で、彼女は、風が通り過ぎるくらいの速さで敵を薙倒して、そのうちいつしか『烈風殺戮』なんていう二つ名までつけられていた。
彼女がいた町は、既に廃墟と化していて、暗闇の吹き溜まりだ。そんな吹き溜まりすらも、吹き飛ばしてしまう。
何があったかなんて、もう今更分からない。過去なんて記憶から消し飛んでしまった。私がいくら風に愛されていようとも、私は風を好きにはなれない。この憎悪の気持ちだけは、どんなに私の心の中で風が吹き荒れようとも、消えやしない。荒んでいく一方だ。
誰が悪いのかと言われると、答えは一つ、『私』。
私がすべて悪い。だから、この心にある復讐心の求める先は、「私への復讐」。
しかし、私にとって、私がいくら憎かろうとも、私のことを本当に責められない。誰だって自分が可愛くて、自愛の心で満ち溢れている。
だから、他人を責める。責任転嫁を、推し進める。
そして、他人の否定。他人の、根絶。根絶やし。
こうなるまでは紆余曲折があったのだろう。しかし、結果は結果、覆らない。覆るほど、彼女の心の闇は薄くない。
そして、彼女は今日も廃墟を歩く。強いと言われる者がいる所へ、向かってゆく。次のターゲットは、風に流れて噂されていた、『嗾』。
服が靡き、追い風に包まれるようにして、彼女は、行く。
この話のみ文体を変えてみました