7「所謂蛇足ってやつだな」
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魔法部に言われ続けてきた言葉。
『改革者に慈悲は不要』
あれからしばらくして―――――
「向當君、あなたは今回負けてしまったけれど、というかきっと次回はないのだろうけれども、それでも一応私達には聞いておく義務があるわ。あなたは私たちを倒して、いったい何がしたかったの?」
魔法部の部室に積まれた机の上に、彼は横たわっている。俺達4人はそれを取り囲むように見ている。俺たちの代表として、嗾が彼と話をしている。
向當君は、無表情で嗾と話している。
「俺は、この魔法学園を変えてやろうと思ったんだ…。俺は、やっぱり強くない。こんな強くなれないような学園なら、この学園の制度を変えてしまえばいい。そう思って、魔法部に攻め込んだんだよ」
「ふうん。あまりにも普遍的で自己的な理由ね。」
冷たく、突き飛ばすように言う。こういう時の嗾は怖い。
そして、向當君。そんなに細かく言わなくてもいいんだぜ。結局、どんな方法でも、最終的に吐かせることになるのだけれど、でも、自らそんなに話す必要はない!自らの首を絞める必要など―――――。
「この学園の生徒会長となって、僕は学園のトップに立つ。まあ、君たちに負けた今となっては、そんなものは唯の夢物語に成り下がってしまったけれどね。」
「普通の方法で目指せばいいじゃない」
「そうだね。まあ、君たちを倒すほうが手っ取り早いと思ってここに来ただけさ。秋の生徒会選挙で頑張るとするよ」
「ふふ…そうね。それじゃあね」
「ああ、もう帰っていいのかい。じゃあ、また、今度会うときは、手を組む形で逢いたいね」
そういって、この部室から去って行った。
「かわいそうに…」
「それを言うな、トバリ。それは禁句だ。『改革者に慈悲は不要』さ」
「ああ、そうだな…そうだったな…」
仕方がないことだと言えども、あまりにも無慈悲だ。
暫く経って、皆がさっきの勝負から立ち直り―――
「さて、じゃあ、早速作戦会議と行くわよ!」
ソグがとても元気になった。俺も空元気で「おー」とか言ってみる。
「彼の希望をすべて打ち砕くための!」
魔法部に挑戦するということは、決してノーリスク・ハイリターンではない。ハイリスク・ハイリターンな挑戦だ。魔法部が定めた独自のルールだ。
魔法部に挑戦して、失敗した場合、魔法部によって『挑戦者』の『希望』を粉々に打ち砕かれる。そういうリスクが待ち構えている。もちろん、本意はあるのだけれど。
「彼は、生徒会長になりたいと言っていたよな。だったら、生徒会長に彼がならないよう、後ろで立ち振る舞うしかないな。さて、後始末を始めようか」
ギザがそう言った。しかし、それはあまりにも情けが無さすぎる。古い伝統を受け継ぐのは確かに大事かもしれないけれど、俺はどうにもその伝統は気に入らない。確かに、攻め入ってくるなんて、尋常じゃない事態だけれど、しかもそれが自分勝手な行動であったこともあるけれど、さすがに希望を打ち砕くというのは、少々やりすぎなんじゃないのかな…。
俺がそう考えていることとは関係なしに、早速部員たちの根回しが始まった。選挙管理委員への協力、先生方への手伝いの申し込み。それから、生徒会の皆さんへのお知らせ。
とにかく、いろいろな根回しをする。今までも、こういうことを散々してきたけれど、しかし毎回骨の折れる作業だ。
俺も、皆に「さすがにやり過ぎなのではないか」という意見は話してみた。しかし、
「これは、魔法部に逆らったらこうなるということの見せしめでもあって、こういう奴が次々現れないようにするための防御策なんだよ」と、それっぽく言われてしまった。確かに、正論なのかもしれないけれど。
ソグとギザが暗躍している中、俺達――トバリと嗾は部室で談話をしていた。
「まあ、何度も攻め込まれて来たら、それはそれで困るよなあ」
「その通りですね。少なくとも、同じ人が二回くるなんて、そういう悪夢のようなことは避けたいですわね。まあ、あんなのは私たちの足元にも及びませんが。」
「確かに、その通りなんだけれど…」
「どうやら、最近の様子を見る限り、あなたはその判決が厳しすぎると思っているのかもしれませんけれど、しかし、私たちは挑戦者からの復讐を恐れて挑戦者本人にはこの情報を伝えていないけどね」
「…あれ、でも、それじゃああんまり効果が無いんじゃないのか?」
「確かに、本人自身に知らせないと、もう一度挑戦してくるかもしれない。でも、それをさせないくらいの圧倒的な強さを見せつける、そうすることが本来の魔法部の姿であると私は思います」
嗾も、いろいろと考えているみたいだ。俺は、そのことを改めて思い知った。
「そして、本人はその事実を知らないまま、希望を持っていられるんです。これは、挑戦者にとっても、唯一の救いなんじゃないんでしょうか」
でも、でも、そんなみのらない希望を持たせるくらいなら――――。
「だったら、そもそも、この希望を打ち砕く必要なんてないんじゃないのか?」
「そうですね。確かに、そうとも言えます。実際問題、これは、この慣習は先人の腹いせのようにも思えます。ムカついたから、やり返す。こういう構えがヒートアップして、伝わってきてしまったんじゃないでしょうか。だから、これは胸八分のところがありますね」
「そんな適当な伝承だったんだ!」
「いやいや私がその時代にいたわけじゃないからあくまで予測だということを念頭に置いておいてよ。それにしても、こういう物って温故知新の精神に則り変えていってもいいようなものなんじゃないでしょうか」
「そう思った時点で、現代は俺たちなんだから、変えられるところは変えていくべきじゃないのかな。昨日攻めてきた彼も、俺たちが彼の希望を打ち砕きたい、と思っているほど憎んでいる訳でもないしな」
「憎んでいる奴でもない限り、そんな過酷なことはしなくてもいいと思うんだ。だから、彼に対するこの制裁を解いて来ようと思う!」
「そんなに急いじゃ駄目ですよ、トバリ。思い立ったらすぐ行動、というスタンスもいいのですが、さすがに早すぎます。それとも、昔の自分に感情移入しちゃいましたかね」
「そんな過去はないよ。この部活に入ってきたのが一番遅い嗾にそんなことは分からない」
「そうですね。そして、制裁を解くというのは、今からではさすがに無理があります。その代り、代替案を用意しましょう」
こうして、僕たちはそんな昔からの風習を断ち切り、なしにした。彼には悪いけれど、彼が最後の犠牲者だ。
数か月後、生徒会長というポストが廃止されることが発表された。これからは、生徒会という組織はまとめ役を持たずに稼働していくことになった。これは、魔法部の暗躍のおかげと言えるのかもしれない。
ご愛読ありがとうございました。
第二話は、また近いうちに更新していきたいと思っております。
その時はまた、どうぞよろしくお願いします。
と、書くにはあまりにも短い連載期間。本当はこれはプロローグだったんだけれど…。