4「伝説の魔法」
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俺は、その瞬間を見るまで、この魔法は質の高い落書き或いはイタズラで、実際は神教魔法なんていうものはないものだと思っていた。
だが、それが目の前で起こってしまった以上、信じる以外の道はなかった。心の底で、自分が今まで知らなかった魔法の存在を認めたくなかったのかもしれないし、そんな事実があるはずないと今までの概念に縛られていたのかもしれない。
楕円形の魔法場の隅っこで、途轍もない魔法制御の負荷をかけられながらも、強大な魔法を放つギザの姿がそこにはあった。
それは、決して落書きなどではなく、本物の魔導書で、その呪文は悪戯などではなく、実在の神教呪文だった。
しかし、俺たちが想像していた水属性の魔法という予想は大きく外れて、ギザの手中、そして魔法陣からは溢れんばかりの光が輝き始めた。
「これは、光!!」
途轍もない水が出てくるのかと思っていた俺は、嗾とともにもしものことを考えて熱魔法をいつでも使えるようにと待機していたのが、光を見た瞬間、その眩しさに咄嗟に目を瞑ってしまった。
電気魔法にも光は伴う。しかしそれは付加効果の光であって、魔法抑制力によってもちろん負荷がかかる。光は遠くまで飛ばず、近くで消えてしまう。つまりは、輝力が落ちてしまう。
「眩しい!!!」
誰かが近くでそういった。この光は、魔力の負荷が最大出力でかかっている筈だ。なのにも拘らず、眩い光は強大なまでの魔力というだけあって、魔法抑制が何の効果も成していないのではないかと疑ってしまう。
それは目を閉じていても光が放出されているのが分かるといった具合だった。そんな眩しい光の中、俺はギザの様子を窺おうと恐る恐る目を開ける。光に目をやられるかと思ったが、その光の中心でギザはまるで眩しくないかのように大きく目を見開いてその光を、魔法をただただ見ていた。
それから暫くして、魔力(光)放出が終わった後、嗾とソグが目を開く。ソグは目がくらんだのか腰が抜けたのかわからないけれども、へたりと地面に腰をついた。
「なんなんだ…これ」
光の放出が終わって、パニックになりそうな自分を自制するように、自分に言い聞かせるように俺はそうつぶやいた。
何も理解できないし、意味が分からない。
皆何も喋れなかった。結構広い魔法場なのに、その中の誰もが喋らなかったといっても過言ではないくらい静まり返った。
練習中の他の部活が普段通常している動きを一斉にやめ、まるで時間が止まったかのようにこちらを凝視している。こんなに眩しい光がいきなり放出されたというのだから、それも当たり前のことだろう。
「とりあえず、なんだか騒ぎになってしまいそうね。まずは部室に戻りましょう。状況の把握はそれからにしましょう」
嗾の冷静な一言により、俺たちは正気を取り戻し、そそくさと退散することができた。
魔法場の端を、そそくさとまるで何事もなかったかのように自然と退散してきた。その後は、全力で猛ダッシュして、魔法部の部室内に戻ってきた。
部室は本校舎の3階の角部屋。3階に着くころには、皆の口から息を漏らす音が聞こえるほどだった。
俺も内心誰かに声を掛けられるのではないかとどぎまぎしていたが、しかし誰にも声を掛けられることもなく戻ってくることが出来た。
そして、なんとなく状況はつかめてきた。
要するに、あれは神教魔法の効果で、あの光は神教魔法そのものあった、ということ。それ以外に考えられないのだから、そう考えるのが普通なはずなんだが。しかし、今までの常識と魔法場の魔法力の出力制度システムを考えると、それも否定しそうになる。
俺は今まで16年間、魔法を当たり前のように使って生きてきた。
(使える所はないと言ってはいたけれど、しかし使ってないわけでもない。)
だから、それに違和感を感じてしょうがない。
「あの魔法は―――なんだったのかしら。あの光、もしかして、電気魔法なのかな?」
「え、電気魔法はお前の領分だろ?ソグ。だったら、お前が一番わかるんじゃないのか?」
「なんで疑問を呈した人にそのまま同じ疑問を返すのよ」
「それもそうだな―――いや、今分からないことだらけで、正直パニックだ」
パニックというか、息が上がっているというほうが大きいが。息が上がっていて、正常な判断ができない。
「しかしそれにしても僕が使ったあの魔法の、魔力が大きかった。僕の魔力も確かにその大きさに起因していたけれど、それでもあの魔法は異常だ。あれは1000000分の一という魔法抑制を掛けられていながらもあの魔力、あの光…。普通に放ったら、どんな効力になるんだろうか」
ギザはちょっとずつ、自分の魔力自慢を挟んでくる。
「そうだな…それにしても、ギザはあれを見て、眩しくなかったのか?俺たちは目がくらむくらいの光だったけれど、その中でもギザはずっとそれを直視していたじゃないか」
ほかの二人は、サギはあの中で目を開けていたの?とでも言いたいかのような怪訝な目をしてこちらを見てくる。
「確かに、光があるのは分かったけど、そんなに眩しくはなかった。魔法使用者だけはこうなるとか、そういう物なんじゃないか?」
現に、熱魔法を使うときに、魔法使用者だけはその暑さを感じないという様な一般概念がある。
「しかし、どちらにしてもその本が本物だということはこれで証明されましたわね…」
この魔法部の机に置かれた一冊の古びた茶色い本。この本は、いったいなんなんだろう…。
俺たちは、しばらくその魔法の魔力の大きさに驚愕していたけれど、時間がたつにつれて、その魔法の魅力を見出すようになっていた。恐ろしく、慄くべきだと思っていたその魔法は、今までに類を見ない強い魔法だとしか認識されないようになり、危機感が訪れることはなくなってしまった…。
その日の5時過ぎ。
「しかしすごいな。これは世紀の大発見かもしれない。」
そう俺が言うと、嗾は顔を少しだけ顰めた。
「でも、これはこの本が書かれた時には既にこの魔法はかんせ…」
ガララララッ
嗾が意見を言っている最中に、思わぬ部外者がドアを開けて侵入してきた。
10/4文章壱文字下げ、スペース追加など、読み難さ改善