3「属性」
3
属性について。考えるところのポケ○ンだけれど。
俺たちが住んでいるこの世界には『水』『熱』『電気』という三種類の属性が主流になっている。こんなものは生まれつき付属している属性でしかないのだけれど、それによって今後――否、人生が変わるというのも、なかなか残念な話だ。
簡潔に、分かり易く言うのなら、文系、理系、体育会系に生まれつき分かれている――みたいなところだろうか。いやいや、魔法世界ではそんなんじゃないけれど。
遺伝子の中に存在する劣性によって、『ユニーク魔法』を使える人もいるとかいないとか。500万人に一人確認されているらしいよ。俺は知らないし、見たこともないけれど。
部室内。
あれから10分経ち、未だ部室内での協議が行われていた。というか、やってみるとは言ったものの、いざやるとなったら、どうしても怖気づいてしまうという意気地のない者たちによる小休止が行われていた。
「そもそも、属性に関係ある呪文だと思うんだよ」
と、俺は提案する。いや、さっき少しソグが言っていたことを言い直したものだ。
「呪文によっては、属性を持っている奴じゃないと使えない呪文――まあ、例外はあるけれど――とか、そういう物があるじゃないか。だから、この呪文だってきっとそういう何かがあると思うんだ」
「確かに、その通りよね。この語を見る感じ、『コーラル』という単語が『サンゴ』を表していることくらいしか、今の私には判らないけれど、何かほかに、または『デヴォルブ』について知っている人いる?」
何も返答はない。誰も答えない。それは、知らないことを暗に証明している訳で。辺りを見渡しても、首を横に振る人の姿のみだ。
「まあ、サンゴというだけあって、水属性の魔法なんじゃないかしら」
嗾が言った、至極まっとうな意見。
「水属性ねえ…ってことは、つまりギザか」
ギザ。この部活の優等生。優等生はギザ以外にも、嗾がいるんだけれど、それでも群を抜いて魔法ができる、否、魔法力が強い。
「なんだその眼は。みんなして僕にその魔法を使えと言わんばかりの眼じゃないか。そもそも、この魔法以外にも、ほかの魔法があるじゃないか。というかもっとちゃんと見ろよ!!」
指名された瞬間、急におどおどした態度に変わって、怖気づいてしまった。
「まあ、それもそうだね。確かに、よく見てから挑むことにしようか」
そういって、ソグが諦めの色を見せた途端、俺は指を横に振り、
「チッチッチ。なにも読んでいないかと思ったか。言っただろう一番初めに。熟読したと」
おおっ!と、皆から声が上がる。
「余すことなく読んだと!」
おおおっ!!!声が上がると同時に、ギザの顔色がどんどん青くなっていく。
「そう――つまり、俺は読んでいる。まあ、読んだ上でのコレは悪戯かもしれないという意見なんだけれども、しかしすべてを読んでいるのでいろいろわかっている。さあ、早速やってみよう!」
気が付いたら、俺はしぶしぶ実行するという立場にいたのにも拘らず、推進する立場にいた。
「この本には、『とても強大な魔法力が発生します。用法、用量に気を付けて、被害が出ないようなところで、安全にお使いください。』という注意事項が書かれている。だから、とりあえず、注意事項にしたがって、広い場所へ行こう」
この部室は12畳くらいのスペースしかない。大きいわけでもなく、小さいわけでもない、微妙な大きさ。ちょうどいい大きさなのかもしれないけれど。
と、いう訳で、魔法場。
魔法学校に備わる施設の中で、一番力を入れている施設だと思われる。その実態は、円形のドームで、観客収納数は20000を超えるとか。全校生徒超えるじゃん。
地面には、人工芝が植えつけられてあって、黒いチップが時々見える。広さとしては、軽く300㎡はあるだろう。
そんなドーム――魔法場の中には、その広い面積を利用して、サッカー、バスケット、バレー、魔法陸上、魔法投射、魔力弾部など、さまざま部活が活用している。
所々で、魔法の形跡と思われる放射の跡や、色とりどりの光が見受けられる。
「なんだか、たくさんの部活が練習してますね~」
「そうだね…こんなところで、強大な魔力を起こしていいものなのかな?」
魔法場とは、魔法用特別スペースのことである。そこは、要は巨大トレーニングルームの役割も果たしていて、個人の魔力に負荷をかけることができる。
そして、そんな広大な魔法場の片隅に、今、俺たちは立っている。
奥が見えねぇ…。
「とりあえず、書いてある手順通りに進めていこう。『魔法陣を書いて、呪文を唱えましょう。するとたちまち、魔法が発生!!』」
「大丈夫かよその本…。なんだか初歩的なことが書いてある分、とても不安になるのだが」
「気にしない、気にしない。あ、ソグ、ちょっと魔法抑制力をギザに対して最大出力に設定してきて」
「おいおい、随分本格的なものをじゃねえか。普通そこまでの出力はかけないぞ」
「なに言ってるんだ。普通じゃなくて、伝説級だろ。超高校級に収まる範囲じゃねえんだよ。出力最大の100000分の1倍なんて、使う奴を見たことねえけど」
100000分の1。水属性の魔法で、水を100リットル空気中から抽出できる能力(上級魔法)を持つ人物がいたとする。そして、その魔法を使ってみると、威力は百万分の一。100リットルをミリリットルに直すこと100000ミリリットル。負荷をかけると――1ミリリットルと、あまりにも抑え込みが激しい力だ。
ちなみに、というか、あくまで補足だが、水を1L出せるのは初歩魔法だけれど、100L出せるとかいう膨大な量を出すことになった場合は上級魔法となる。その日の湿度にもよるけれど。
ソグの手には、抑制力調節リモコンという、小型の機械が握りしめられていた。そのリモコンについている『対象』ボタンを相手の右手に向けて押すと、その人のデータベースが表示される。そこから、(抑制の)威力や効果持続時間などを設定し、魔力を封じ込めることができるという優れものだ。ただ、魔法場以外では、その効果が発揮されない。
「準備おっけー。出力最大、百万分の一、完了」
普通の人ならば、何もできない。いや、たとえどんな素晴らしい魔法使いでも、これではほとんど何もできないだろう。もしかしたらこの威力は、不審者が現れたときのための防衛策なのかもしれない。
A2くらいのサイズの紙を人工芝の上に敷き、魔法陣を書き始める。さまざまな記号を組み合わせてよくわからない陣を書いている。何らかの衝撃で飛ばされたりしないよう、4方を魔法の力で止めておく。これは、嗾が使う熱魔法で芝と接着しておいてもらった。
魔法陣を書くための特殊な筆があるわけではないけれど、書き終えた部分が、青白く光を放ち始めた。正確に言うならば、外側の書き終えて繋がった円から順に光りだした。ま
「魔法陣は描いたな。さあ、呪文を唱えるんだ、ギザ!」
「頑張って、ギザ君」
ギザは大きな溜息を吐いた。
「あーあ、ここまで来たら、もうやめるなんて言う選択肢はもこされていないんだろうなあ。あーあ、仕方がない。」
最後の、あーあ、仕方がない。は自分の中で覚悟を決めるために言い聞かせているようだった。
「ちょっとした部活なはずで、それは今だって変わっていないはずなのに、なんだか急に大事のようなことになってしまいましたわね」
「本当だな。周りから見れば、一応この部は歴史ある部活とは言えども、今となってははぐれ物の集いのようだし、何が悲しくてそんなに負荷をかけているんだろうか、と思われていそうだな」
「いやいや、全くもってその通りだよ。なにが悲しくてこんなに魔法を制限されなければいけないんだよ」
「ちょっとギザ、今使える最高出力の魔法を使ってみて。魔法陣使ってもいいから」
実際問題魔法陣が無くても魔法は放てるが、あると威力はその何倍にも膨れ上がる。実践なんてしたことはないし、この平和な世の中あまり必要なものでもない。スポーツなどの競技としてならば盛んに使用されているけれども、それ以外の用途があまり見当たらない。空を飛べるとか、瞬間移動できるとか、そういう物ならまだしも、使える魔法が『熱』『水』『電気』の三種類だとな…。
水属性は4人の中でギザだけ。嗾と俺は『熱』、ソグは『電気』。もし何かが起こったら、熱を使ってどうにかしよう。
ちなみに、相当の魔法の使い手となると、熱から火を生み出すこともできる。そんなに需要があるわけでもないから、使える人なんてあまりいないのだけれど、しかしながら才能というか努力の成果というべきか、俺の隣にいる嗾は呪文を唱えるだけで火を放てる。いや、もしかしたら呪文を唱えなくてもいけるかもしれない。なんにせよ、嗾の底力は未知数だ。
若干思考が逸れてきた気がするが、ついでに重要なところに触れておく。この魔法という能力、明らかに熱属性が弱いのだ。その理由はズバリ、三すくみで無いところにある。どういうことかというと、ポケ○ンでは、草タイプというものがあり、きちんと三種がそれぞれ弱く、それぞれ強い属性がある訳だけれど、しかし熱属性だけ何に対しても強くないのだ。じゃんけんで出すと、絶対に負ける、あるいは引き分け、のようなもの。
水は熱に強く、電気は水に強く、熱は電気に強くない。むしろ電気を帯びると、若干熱が入るため、電気属性の人たちは熱魔法を少しだけ使えるという。明らかに不平等だ。
そんな世の中でも、特に何の差別や事件が起きないのは、その魔法の用途の無さに起因するわけだけれど、そこまでは触れなくていい。とりあえず伝えたかったのは…
「なんで熱属性だけちょっと弱いんだよ!!」
リモコンを持ちながらぼうっとしていたソグがびくっとなって反応する。
「おいどうした。いきなり叫びやがって。今から魔法使うぞ、魔法陣書き終わったし」
「お、おう」
僕の生返事は気にも留めずにさっきから遠目で傍観していた嗾がいいきなり近づいてきて俺に言った。
「熱は弱くないですよ。むしろ一番実用性があります」
「え、あ、うん。実用性の問題に関しては、ね」
ギザは魔法陣に向かって手を向けて、呪文を言い放つ。
「ナビウナオウ(水の)・フォガイアポ(超放出)!」
すると、魔法陣は青白い光をさらに増し、いつの間にか魔法陣から出る光は光ととらえていいのかどうかわからないくらいの濃い青色が中心から伸びてきた。そしてそこから齎される光は、直立しているギザの右手に向かって伸びてゆく。そして、ギザの手と、その魔方陣から伸び行くか細く、かつ濃い光が繋がったとき、そこには―――――
水が、3滴ほど、滴り落ちた。
「やっぱ、このくらいが限界だな。」
「このくらい――って、水3滴って、これは百万分の一の負荷だから――いち、じゅう、ひゃく、せん…約300000ミリリットルも放出できるのか!?」
300000ミリリットル=300リットル。
「全力を出す機会なんてそうそうないからな。もてる力の最大限を使わせてもらった。学校での魔力レベル最高者の冠号は伊達じゃなかっただろう。さすがに――いや別に侮ったりしている訳ではないのだけれど、しかし神教魔法とは、伝説の魔法とは言えども、これほどまでの出力は早々ないぞ」
普通は、1リットル、出せてもせいぜい10リットルが限界だというのに…とんでもない才能を見せてきやがった。
「ギザ、そんな最高等の魔法を使って、疲れてないのか?普通なら10リットル出すだけでも疲れるとか、聞いたことがあるぞ。いや、俺は熱属性だからよくわからないけれど」
「いや、魔法陣のおかげだ。なんだかあんまり疲れていない。まあ、負荷もかかっているし、実際に出てきたのは水3滴。体から生じる魔法能力は水3滴分しか消費していないんじゃないか?」
「まあ、そうかもしれない。そもそも、ここに来るのは何年振りだろう、ってくらいここに来ていないからな」
いつの間にか芝の上に寝転んでいたソグがしびれを切らしたのか
「お~い~。ギザの魔法自慢とかいいからとっととその神教魔法とかを使ってみようよ。純粋にすごいと思うけれど、属性が違うからどうしてもその凄さが分からないんだよね」
そういう見方もできるだろうけれど、ここはもう少し褒めてあげようぜ。常人にはできない、もはや超人レベルなんだから。
「まあ、分かったよ。確かに、気になるところではあるもんな。魔法陣は使いまわせるから、このまますぐに初めていいのか?」
使いまわせる、と言っても、光が切れないうちは、だ。光が途切れてしまった瞬間、魔法陣の効力は全て損失する。
一回目より、明らかに光は輝きを失っているけれど、比較しなければ、まだ十分輝いているので、そのまま続行することにした。
「ソグ、始めるぞ」
俺がそう呼びかけると、ソグは「よっと」と言って、寝転んでいた状態から足しか使わずに即座に立ち上がり、駆け付けてきた。気が付くと、嗾も俺の隣にいる。
「準備万端だそうだ。始めてくれ」
そう俺が言った後、ギザは深呼吸して整っていた息をさらに整える。まあ、神教魔法という30分前までは知らなかった伝説級と言われる魔法に挑むんだ。緊張しているのも、当然のことだろう。
「『コーラル・デヴォルブ』!!」
そうギザが言うと、魔法陣が反応して、さっきと同じように一筋の、今度はか細くない強大な光の筋が伸びてきた。それが、ギザの手とつながったとき――――――――
10/4スペースの追加、改稿、文書の初めの文字下げ等、読みやすさを改善