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魔法部!~学校の頂点に集う最強集団~  作者: 桜幹 神久呂
第一話「魔法部の日常とは言えない何か」
2/16

2「動き出さない」

 2



 全部で4席あったパイプ椅子が埋まった。部員は全員揃ったが、相も変わらず部活動は動き出す素振りを見せない。


「で、今日は何を始めるんだ?いつものように雑談して終わりだろ?」

 静寂な空間と化していたこの部室の空気に痺れを切らし、最初に話し始めたのはギザ。右腕をだらんと長机につけて、その上で寝るかのようなだらしのない体勢になっている。

 決して話すような体勢ではないが、特講の疲れが溜まっているのだろう。それとは対照的に、嗾は背筋を伸ばして深く腰掛けて座っている。


「そんな消極的な考えばかりだから、結局いつも何もしないんだろ。だから、今日はそういうことを一切考えずに、魔法的活動をしていこうと思う」


 俺の何の考えもない発言に、半分寝ているような恰好のソグが反論してきた。


「魔法的活動?何それ。そんな言葉は聞いたときもないわよ」


 魔法的活動、それは魔法の鍛錬や修練のことを指す一般総称のことである。


「なにちゃっかりナレーションで補完しようとしてるんだよ。そもそも、その声はお前の心の声だから僕たちには聞こえないんだよ」


「だったらなんでさっきから反応してるんだよ!」


「トバリが考えていることなんてすぐにわかるということじゃないのかな」

 ソグが純粋な笑顔を浮かべて残酷な言葉を仕向けてくる。そんなに俺は単純か?


「そもそも、そんな言葉はないし、造語をさもあったかのように言わないでいただきたいですね…」


 そういえば、これが嗾のお嬢様的口調。なんだか一人だけキャラが突出しているような気がしてならない。


「僕の名前は 鷺鍵 帳。みんなからはサギって呼ばれている。基本突っ込みに回ることが多い」


「なんだ、そのいきなりの自己紹介は。さっきもしていなかったか?そして突っ込みという紹介は芸人のプロフィールに書かれていそうな紹介だな」


「彼は通称ギザ。別にギザじゃないけれど、名前の響きからなぜかそうなった。ちなみに、俺としてはこの名前に断固反対だが、皆が使っているので、仕方なくだ」


「あ、このあだ名に反対だったんだ…。というかそれは僕が決めることじゃないのか?」


「そしてなぜかさっきから大人しいソグ。基本大人しくない」


「失礼な!」


 呆れ顔で僕を見ていたソグが顔を起こして突っ込みを入れた。しかし、戸惑いが顔に見え隠れしている。表情が顔に出やすく、もしかしたら僕よりも心が読みやすいかもしれない。


 この間、ソグがショートカットにヘアーチェンジしたために、男子と間違えてしまうという大失態を犯していらい、話しにくい雰囲気が続いていた。そんな中でのコレだ。


「ふふふ…」


「どうしたんだ、嗾?いきなり笑い出して…」

 そしてこちらがけしか。彼女は、不思議ちゃんという訳ではないが、しかし人と比べて何を考えているのかは分かり難いというのは確かだ。こちらは、ロングストレートヘアーなので、だれとも見間違えたりしない。


「いや、そんなことがあったんですねー、って思って」


「そんな細かく心の中って覗けたっけ!?」

 彼女はもしかしたらエスパーかもしれない。



 計四名で、この部活動は回っている。4人でも部活動と認められているのは、ここが由緒正しき伝統ある部活であるということに他ならない。ちなみに、本来部活動として承認されるためには、部員が5人ほど必要だ。


「しかしそれでも、たまにはこの昔の大先輩に倣って魔法を修練してみるというのも悪くはないんじゃないのかしら」


「そんなに昔ではないのだが…」

 そのニュアンスだと、200年前くらいの偉人みたいだ。


「他、異議のあるものは何か代替案を出してくれ」


 代替案というと、すぐには反論は出てこない。そしてそのままのスピードで決議に持っていくという俺なりの議長スキルを使い、強引に見えないように強制的に決定する。

 実際にこういうことをやってしまうと、政治でいうところの王政のようになってしまい、支持率が落ちてしまうので多用はしないが。



「じゃあ、早速魔法部、始動だ!!」

 残りの二人ギザとソグはなんだか納得いかないような面持ちだったけれど、決定したところで、どうでもよくなったかのような表情を浮かべて、納得してくれた。


「しかし今更いつも使っている魔法を持ち出してどうしようというのかしら」

 いつも使っているという言葉には首を傾げざるを得ない。嗾はいつも使っているのだろうか。


「それは全くだけれど、でも魔法っていうのは以外にも奥が深いんだぜ。それこそ、歩くことのように」


「歩くことの奥深さは存じ上げませんけれども、しかし魔法に奥も手前もあるのでしょうか」


 嗾はいつもそうだが、丁寧な物言いをする。しかし、みんな同じ高校二年生だ。

 去年、ソグが高校二年生になれるかなれないかみたいなことはあったけれど、しかし何とか進級することができた。(そのことは本人の口から聞いただけで、俺は現場に居合わせたわけじゃないから実際のところはわからないけれど)


 嗾という漢字を見ると、真っ先に思いつくのがけしかけるという言葉だが、しかしそんなことをするような性格でもなければ、温厚で柔和で優しいといういい人に限りなく近い性格だ。


 表面は。


「いま魔学(魔法学校)で習得しているのが高等魔法、あるいは高等呪文だろう」

 高等魔法というのは、言葉の通り、高等な魔法。ただ、この高等というのは、言葉で分けるためのものでしかなく実際はそれほど高等でなかったりはする。

 しかし、魔法という物の使用率が低い現代では、高等魔法を使えない人も少なくはない。これは、魔法という言葉だけではなく、呪文という言葉にも当てはまる。



 机で談義している中、神妙な顔つきで彼彼女らを見まわし、俺の雰囲気を3人が察し静まり返ったところで、前後左右の確認をする。


 このジェスチャーは、秘密を教えるときの物に他ならない。

 長机が2つ並んでいる中心に向かって、体を乗り出す。ほかのメンバーも、これが密話だということを理解して、体を中心に寄せる。

 顔と顔が近づき、そんな中俺は小声で話し始める。


「でも、さらにその上、神教魔法というものがあるということを噂で見たんだ」


「……ソースは?」

「祖父の書物庫」


 ガタッ、と、パイプ椅子が動く音がした。

「それは本物じゃない!!?」


 みんなが疑うように俺のことを見ていたが、その眼がいきなり興味の目に変わった。どれだけの信憑性を持っているんだよ、俺の爺さんの書物庫。

 ちなみに、俺の爺さんは魔法学者だ。これは周知の事実でもある。


「それで、その書物を借りてきた」


「それは…無断で、とかじゃないよな」

「…」の間に、唾を飲み込む音が聞こえた。顔もが近いから、こういう音がじかに聞こえて生々しい。どうやら、ギザも初めて知るみたいだ。俺だって昨日書物庫で始めて見たぐらいだからな。


「いやいや、そんなに信憑性が高いものじゃないぜ。それに祖父の書物庫というキーワードを信用し過ぎだ。そういう信用はいつか崩れ落ちる運命にあるっていうのが定石だろ」

 そういって、保険をかけておく。


「なに言ってんの、トバリ。祖父の~とか言ったら、おばあちゃんの知恵袋と同じくらいの信用度を持つキーワードじゃないの」

 お前の頭には花畑でもあるのかよ、と、つい言いたくなる。そんなんじゃ、すぐ詐欺に引っかかるぞ。


「まあ、話を戻すが、それを昨日俺は読んできた」


「おお!」

 一同から驚嘆の声が上がる。


「熟読してきたんだよ!」

「おお!!」


 二回言っても同じような反応が返ってくるとは思ってもいなかったが。まあ、大事なことだったから。


「そして…」

「さっきから溜めていますけれど、それをやめていただけないかしら?」

「あ、ハイ…」


 嗾は感情が非常に読みにくいけれど、しかし起こっている時だけは分かり易い。それは彼女自身が相手に伝えるときにコントロールしているのだと思うけれど。

 嗾の「~かしら?」は若干イラッときたとき。「~でしょうか?」は素直に相手に要求するとき。それを、俺は彼女と会ってからの1年間と3か月ちょいで学んだ。感情をほぼコントロールしていることも、同時に分かった。


「まあ、昨日興味本位に見つけて、借りて、読んでみたんだよ。でさ、そしたら、載っていたんだ、神教魔法」


「話の腰を折るようでなんだか申し訳ないのですが、神教魔法、とは?」


「そうか、3人はこの魔法のこと、聞いたことが無いんだったっけ。神教魔法、この本によれば、その名の通り神に教わることによって使えるようになる魔法のこと。ポケ○ンで例えるならば伝説級のモンスターだぜ」


「それはポケ○ンで例えなくても伝説級じゃないの…?」


「まあ、それもそうだな。ファイ○ル・ファン○ジーでいうところのアルテマだな」


「だからなんで例えるんだよ。分かり易いっちゃ分かり易いけれど、しかしそういうゲームの類とかを全く以てやったことのなさそうな嗾が意味がわからなそうに首をかしげているぞ」


「ああ…ごめん。後でファイ○ル・ファン○ジーⅢ貸してあげるよ…」

 こういう物って、伝わる人には伝わるけれど、伝わらない人には全く伝わらないんだよなあ。っていうか、ファイ○ル・ファン○ジーⅢの時点でアルテマって出てたっけ?よくわかんね。


「最初のほうの50ページには歴史とか成り行きとかいろいろな文献が載っていた。読み飛ばそうとも思ったけれど、なんだか本を書いた人に申し訳ないなと思ったのと、それに時間もあったから、気が付いたら全部読んだのだけれど――」


「全部読んだのか…」


「全部、余すところなく読んだ。もう、それはもう。で、そうして読み進めていくうちに究極魔法にかかわる文書があったんだな。いや、本のタイトルから『やればできる 神教魔法』だから全部それに関する文書だということは言えるんだけれどさ」


「やればできるんだ!?」



「まあ、こういうキャッチコピーは大抵嘘だけどな」


「それはトバリがやらなかったからなんじゃないの?」


「痛いところを突かれた気がする。まるで弁慶の泣き所を蹴られたようだ」


「さっきからたとえ過ぎだろ」


「まあ、ギザから突っ込みを入れたところでようやく本題に戻るけれども――」

「さっきから全然進んでいない気がする」



「あれ、本当だ。なんでだろ…」


 俺の言葉を遮るようにしてソグから怒りともとらえることができる言葉が割り込んできた。

「それはトバリがこういう言葉にいちいち反応するからだろ。スルースキルを身に着けたらどうだ」


「それもそうだ。じゃあ、これからは若干スピーディに進行するよ。こんな雑談だけで時間を食っていたら、こんな大発見をしたというのに、いつもとやっていることが全く変わらないという大失態を犯すことになる」


「大失態を犯してばかりですね」


「そうだな。そもそも、この展開が大失態フラグなんじゃなかろうか」


「どうしたんです?いきなり」


「いやいや、だって、そりゃあ偶然かもしれないけれど、夏休み初日に伝説の魔法とか、偶然が色々重なってはいないか?」


「そりゃまあ偶然ですもの、重なりますよ」


「っていうか、どうしてトバリはそんなに怪しんでいるのよ。こんなの世紀の大発見といっても過言ではないようなものじゃない」



「だからお前は楽観的すぎる。こういうおいしい話には大体副作用または死亡フラグが付きものなんだよ!」

 というか、世紀の大発見レベルだからこそ、普通に怪しいんじゃないか。こんな一般民家で世紀の大発見が見つかってしまっていいのか!?

 そんなときもあるんだろうけれど。


「それにしてもさすがにトバリは怪しがり過ぎだぜ。少しは信じてみようぜ、この本を。もし何かあったら、その時はその時。致し方無いこともあるんじゃないか」

 みんなの後押しにつられて、厚さは10センチもあるんじゃないだろうかという本を渋々開く。


 パタン、という開いたときの音と言い、古めかしい書物のにおいと言い、分厚い本を額たときの地面と表紙の間にある空気が押し出された時の風と言い、何もかもがそれらしく感じる。



「これが、その神教魔法の伝説技『コーラル・デヴォルブ』だ。これは一番初めに載っているというだけで、ほかにも俺が確認しただけで少なくとも50種くらいはあった」


「コーラル・デヴォルブ…一見するに、属性とは関係ありそうだね。それに、呪文で言ったら、比較的短いほうだね。しかし、これは私たちが知らない呪文でもある。確かに、これは落書きの可能性も出てきたかも」


「いやいや、でも一応、試してみようぜ。とりあえず、何でもやってみないとわからない。これはどんなことにも共通して言えることじゃないか」

 リスクを考えないのかお前は。


 まあ、落書きという可能性もあるし、な…。ここでそのままにしておくというのは、確かにもうここまで来たらそんな選択肢はないもんな。


 持ってきた時点で、そんな選択肢はなかった。

「……まあ、やってみるか」



2014/9/1改稿。

9/25修正

10/4スペースを追加、読み難さ改善

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