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魔法部!~学校の頂点に集う最強集団~  作者: 桜幹 神久呂
第一話「魔法部の日常とは言えない何か」
1/16

0・1「魔法部」

 0



 魔法が蔓延るこの世界。

 退屈だなんて思ったことは一度としてないけれど、変えてみたいと思ったことは幾度もある。

 たった一人の力では、何も変えることは出来ないけれど、それが一人でないのなら―――。




 1

 


「さて、今日も始めていきましょうか!」


 俺は、ドアを開け、そしていつもの如く呼びかける。

 12畳くらいの部室には、パイプ椅子が4脚と、長細いテーブルが2つ、中央に向かい合うかのように置かれている。それ以外には、飾り気のない壁時計と、テレビ台のような高さの収納と、そして窓しかない。収納には、下にロッカーのようなものがあるにもかかわらず、部室に来ていた先客が台の上にスクールバッグを置いている。


「始めるって何を始めようっていうのよ」

 先に部室に来ていた人物は、青と白の装飾を施された学校指定の制服を見事に着こなしていた。パイプ椅子に腰を掛け、靴を脱いで長机に足をかけ、椅子の前足パイプかを浮かせてバランスを取り、だらしなく座って本を読んでいた。

 

その生徒は、不満そうに本を読むのを中断し、こちらに鋭い目を向けて睨む。


しかしそんな睨みに臆しもせず、俺は堂々と言い切る。


「何って、ここに来てやることは唯一つ!部活だよ、ぶ・か・つ」

 場所は学校の角部屋。角部屋なので、二面に窓があり、とても開放的な空間だ。太陽はまだ沈んでいないが、先ほど4時を知らせるための鐘が聞こえた。そんな昼下がりと言っていいのかどうか微妙な時間。


 学生の唯一のお楽しみ、部活の時間だ。


「部活、って言っても、大概することなんて雑談しかないじゃない」

 そういって、目線を本に戻す。


「いやいや、いつもはそうだけれど、本来はもっとするべきことがあるだろ!ほら、ちゃんとこの部活の名前を言ってみろよ!」


 鬱陶しいなぁ、とでも言わんばかりのクールなテンションで呟くように椅子に座っている彼女は言った。


「魔法部…」


「そうだよ、魔法部だぜ、魔法部。どんどん魔法を使っていこうぜ」



「何をいまさら。魔法があることなんて当たり前。そんな当たり前をいまさら掲げてどうするのよ」



 さっきから俺と話しているのは疎杙そぐい 仁香きみか。部員からは、ソグと呼ばれている。何故、ソグと呼ばれているのかは、あだ名から察する通りだ。

いつからか、「ソグって響きが、削ぐとか殺ぐっていうマイナスイメージにしか聞こえないのよねえ」とか言い始めたのだけれど、一度定着したあだ名はなかなか取れない。


 ソグはきっとこのまま本でも読んでいたいのだろうが、それを感じ取りつつも俺は話し続ける。

「なんだ、不満でもあるのかよ。いいじゃないか。有意義に使っていこうぜ」




 この部活は魔法部。正式には、『魔法練習修練部』なんていう大層な名前が付いていたりする。


 本来はその名の通り、魔法を練習したり修練したりするような部活だった。今となっては、俺たち4人の溜り場となっているだけで、そんな昔の跡形も残ってはいないのだが。


 俺たち四人―――今、俺の話し相手になってくれているソグ、そして俺、その他二名がこの部活に属している。


 俺――こと鷺鍵さぎかぎ とばり。仲間内にはサギと呼ばれている。呼ばれて…いる?あれ、そういえば、呼ばれてたっけ?


 そして、その他A、軌陸きりく 戯挫ぎざ、その他B、砥折とぎおり けしか


 この部活に所属している唯一の四名だ。




「唯一の四名って、いったいどんな表現よ」

 心の声だったはずのモノローグに厳しい突っ込みを入れてくるソグ。


「いや、これはたったこれだけしかいないよ、っていう意味の…」


「だからと言って、さすがにそれはどうだろう・・」


 話しながら、僕は肩にかけていたスクールバッグをソグと同じ様に壁の近くにある微妙な高さの台の上に置く。


「そういえば、今日はギザとけしかはどこなの?」

 ギザ=その他A、嗾=その他B。どちらも同じ部活メイトだ。


「ああ、あいつらはこの時間だと特講だろうな。そうか・・・そういえば、今日からになるのか」


 今日は夏休み初日。この部活には、これと言ってすることもないが、家に居てもすることもないので集まってくるという現象が毎回休日になるたびに起こる。魔法部とは言えども、魔法を練習したりすることなんてほとんどない。

 そもそも、練習することの意味を俺は見出していない。


 世界には、魔法という能力がある。大まかに説明すると、熱、電気、水の三種類に分類され、使い道等を持て余している。

 空を飛ぶとか、そういう便利な魔法はないものかとも思うけれど、あるのはこれだけ。

 基本的に、使わなくても生きていけるし、使う機会がない。修練したところで、使えるのはこういう道の大会だけだ。


 暫く間をおいて、ソグが言う。「悲しい人たちだ―――なんて、思ったら負けよ」

「そこまで心を読まれているということに、この時点で完敗だよ」



 特講とは、特別上級講座の略で特講。難しい授業を追加で学習をする、というこの学校独自のスタディ・システムだ。

 決して、あの二人の頭が悪いとか、魔法ができないとかじゃなくて、むしろ頭がよすぎるからあんな講座に行かなければならない、なんて目に逢う。


「特講って決して悪いわけじゃあないわよね。むしろ、期待されているからの特講というべきかしら―――羨ましいような、そうでもないような」


「でも、特講なんて、いざ自分がやるとなったらさんさら御免だね」

 手振り身振りをつけていやそうに首を振る。


「特講なんてするくらいだったら、ここで雑談でもしていたほうが十分ましだよな」

 そう言って、俺は本を読んでいるソグの真正面に座る。


「それは勉強するなら遊ぶほうがましだよな、なんて当たり前のことを言っているように聞こえるのだけれど」

 ソグは、それを受けて、パタンと本を閉じ、俺と話す体制を整えてくれた。


「全くその通りだよ。何故そこまでして勉強勉強と、そんなに人生に必要なスキルかね」


「そりゃあそうでしょう…」







 少なくとも『魔法』よりかは。小声で、彼女はそういった。



8/28改稿

9/25タイトル調整

10/4スペース追加

12/31 スペース調整   

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