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5.王家の狙い

続きは明日のお昼ごろー

「片付いて良かったわぁ、やっと自由に動き回れるのね」


 婚約破棄されてショックを受けたフリのために、ずっと部屋に引きこもっていたのだもの。

 やっと本格的に光浮き草の調査に乗り出せるのよね。

 それにしても、一仕事をした後に飲むティザンヌが身体にしみるわ。

 まだまだやることもあるし、エールは夜食まで我慢よ。


「ネズミは3人とも見張りを付けて別々の地下牢に入れてあります。しかしザンなどと名乗る兵士もどきは、看守の指示に従順なようで…。これなら尋問の手間も省けます。さすがはお嬢様、やはりご兄妹ですな」

「別に大したことはしていないわよ。お兄様は、ほら、ねぇ…」


 容赦なさ過ぎて吸血鬼疑惑が出ている兄と並べられるのは心外よ。

 乾いた笑いを浮かべていると、アイザックが疑問を口にする。


「なぜあの男は嘘を信じたのでしょうか。お嬢様は具体的なことを口になさいませんでしたし、少し考えれば分かりますよね?」

「ああ~、あれね。だって彼、若いし人生経験がないでしょう?私が先ぶれもなく家紋を付けていない馬車で帰ってきたくらいで、焦って騒ぎを起こすくらいだもの。その時に気付いたのよね、『この人弱いな』って」

「弱い、でしょうか?とてもそうは見えませんでしたが…」

「余裕がないというか、情報の受け皿が少ないのでしょうね。だからすぐに焦って下手なことをしてしまうの。もう少し経験を重ねれば、自力でさまざまなことに対応できるかもしれないけれど。平常心を保てない人間を送り込んだ王家は人選を間違えたわね」


 きっと自分の想定外のことに対処できないタイプなのでしょう。

 だからヴィニーに屈辱感を与えてもらって、正常に物事を考えられないようにしたの。

 おかげで、少しつつくだけで落ちてくれたわ。


「ずっと疑問なのですが、王家の狙いは何でしょうか?自国内で光浮き草を試す理由が分かりません」


 アイザックのつぶやきを聞き、私とダリウスは目を合わせた。

 ダリウスは王家の狙いに見当がついているようだ。


「そうねぇ…。光浮き草の調査をしてもらっているし、アイザックには話してもいいかしら。簡単に言うとね、王家は北部が邪魔になったのよ」

「…王家が、自国の民を邪魔など……」

「…南部で銀山の開拓が成功し、国の財源が安定し始めた頃、北部貴族が農地改革を支援する法律を作ろうとしたのは知っているかしら?」

「…話だけなら聞いたことがあります。生産効率化のために補助金の制度を整えるものだったと」

「ええ、でも王家は許さなかったわ。貧乏な北部が補助金なんて言葉を盾に、国庫から金をむしり取ろうとしているって、そう決めつけたのよ」

「そんなの、言いがかりじゃないですか!」


 アイザックが身を乗り出して声を荒げる。

 それが自然な反応よね、私も昔はそう感じたわ。

 今は…もう王家に対して何も感じないわね。


「もちろん言いがかりよ。お兄様も『金銭的に余裕がある今こそ国内に投資すべきだ』と、北部を代表して何度も申し立てたわ。結局、聞き入れてもらえなかったけれどね」

「……言葉もありません。そこまで北部の声は、王家にとって軽かったというわけですか」

「そうね。そして、北部の訴えを無視してまで彼らが守りたかったのは、王城の私室のすみずみを銀箔で飾る贅沢だったのよ。…便所の壁まで銀色に輝かせるのが、彼らの言う国庫の守り方なんですって」

「もはや……正気ではありませんよ、吐き気がします…」


 いきなり大量の銀を手に入れて、足元が浮ついていたものねぇ。

 他国からいらっしゃった客人も呆気に取られていたわ。

 王家と南部の皆さんだけが、ひそかに周辺国から『成金国家』と呼ばれているのを知らないのよね。


「自分たちの愚かさを指摘する北部は、彼らにとってさぞ目障りなものだったはずよ。だからこそ、その筆頭である我が公爵家への攻撃につながったのでしょうね」


 アイザックは言葉を失ったように、しばらく私を見つめていた。

 白くなるほどこぶしを握り締めてしまって。

 怒ってくれる気持ちは嬉しいけれど、怪我をしないか心配だわ。


「…王家にとって北部がどうなろうと、知ったことではないというわけですか…。だからこそ光浮き草のような得体の知れないものを、平然と投げ込める…。これは明確な、北部への敵意なのですね」

「おほほ、まあ今回の件でハッキリしたわ。向こうがその気なら、こちらも対処するだけよ」


 私はふっと笑みを消し、改めて皆の顔を見回した。

 返ってきたのは、力強い頷き。


「我が公爵家を筆頭に、北部はバストホルム王国から独立します。お兄様はすでに着々と準備を進めているわ。…皆もこの時を境に、そのつもりでいてちょうだい」


 部屋に、しんと静まり返るような沈黙が落ちた。

 独立とは今の王家に対する、明白な反逆を意味する。

 けれど、誰一人として怯える者はいなかった。


「……御意(ぎょい)。この命、公爵家と北部の未来のために捧げる覚悟です」


 ダリウスが真っ先に、深々と頭を下げる。

 それに続くように、アイザックもまだ震える拳を胸に当てて私を見上げた。


「……私たちを苦しめる国など、こちらから捨ててやりましょう。私の知識も、光浮き草の調査結果も、すべて独立のための武器にしてみせます」


 アイザックが声を震わせて誓うと、それまで壁際で控えていたヴィニーが、重々しく一歩前へ出た。

 無言のまま胸に手を当て、私を守る盾となる覚悟を示す。

 私のすぐ傍らにいた侍女のマライアも、静かに、けれど力強く頷いた。


「お嬢様がどこへ向かおうと、私が退くことはございません」

 

 あら、皆があまりに真っ直ぐなものだから、かえって茶化したくなってしまうわね。


「うふふ、そんなに怖い顔をしないでちょうだい。これでは、どちらが悪役なのか分からないわよ?」


 私がわざとらしく扇子を広げて笑うと、室内の緊張した空気がわずかにゆるんだ。


「さて、やがて来る将来の話をしてしまったけれど、私たちにはやらなければならないことがあるわ。今は目の前の問題である光浮き草に集中しましょう。何か、追加の情報はあるかしら?」


 空気感を変えるためにわざと明るく言うと、アイザックが頷いて書類を取り出した。


「はい、お嬢様。光浮き草の毒性について、新たに判明したことがあります。こちらのデータをご覧ください」

「あら、続けて?」

「この草の毒には、他の生物を拒絶する力があるようです。周囲の植物の成長を阻害し、水源を独占しようとする性質があります。光浮き草に汚染された水辺では、他の草花はことごとく姿を消し、やがてはこの不気味な緑がすべてを埋め尽くします」

「あら、他を枯らして自分だけが懐を肥やそうだなんて、どこかの国の王族そっくりの性質だこと。聞いているだけで反吐が出るわ」


 私が冷ややかに言葉にすると、室内の温度がわずかに下がったような気がした。

 いけないわね、皆に気負わせてしまうわ。

 あんな王家のことは置いておいて、話に集中することにしましょう。


「話を聞く限り、すぐに光浮き草を取り除かなければならないと思うのだけれど…。この毒への対処法はあるのかしら?」

「方法は一つだけあります。この毒は強火で一気に焼き尽くすことで、煙に毒を逃がさず消滅させられることが分かりました。ただし普通の焚き火では火力が足りず、かえって有毒な煙をまき散らすことになります。まずはこの草を徹底的に乾燥させ、一瞬で燃やし尽くせるよう準備を整えることが先決かと」

「なるほどね…。それなら乾燥させられる広い場所が必要だわ。ダリウス、この近くにあるかしら?」


 私が目を向けると、ダリウスは少し考えた後、簡素な地図を取り出した。


「池の北側にそびえる山の中腹はいかがでしょう。あそこは高地ゆえに湿り気が少なく、常に乾いた風が吹き抜ける場所です。この岩場に広げておけば、火を放つ準備もすぐに整うかと存じます」

「ちょうどいい距離ね。移動は私のスキルで済ませるけれど、乾かしている間に散らばってしまっては困るわ。兵士たちを派遣して、縄や重石で固定させましょう。ダリウス、お願いね」

「はっ!」

「そして高温の炎ね…。技術者たちに、あの岩場を上手く使って炉を組めないか相談してちょうだい。そして鍛冶場で使うような『ふいご』を運び込んで、火力を底上げするのよ。木炭と松脂、それに職人の知恵を合わせれば、きっと焼き尽くせるはずだわ」


 考えられることはこれくらいかしら。

 あとは実際に光浮き草を見てみないと分からないわね。

 一気に移動させられるのか検討しないといけないし、下見に行きましょうか。


「今からでは日が暮れてしまうわ…。明日、私とアイザックで光浮き草が生えている池に行きましょう。護衛はヴィニーに任せるわ。マライアにはスキルで光浮き草を記憶してほしいの。…それでは皆、頼りにしているわよ。この厄介な草を克服してみせましょう」


ちなみにティザンヌはハーブティーのようなものです

某大手お茶会社さんも販売してるよ



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