表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

4.使い捨てのペン-ザン視点☆

これ書いててめっちゃ楽しかった

 北部の風は寒いが、胸のうちは熱い。

 今日から俺はここの兵士、ザンだ。

 誰も俺が陛下の目であることを疑いはしないだろう。


 公爵家が積み上げてきたものを、この手ですべて灰にしてやる。

 あの二人の先輩方は『慎重に』なんて言うが、慎重すぎて機を逃しちゃ意味がない。

 あの人たちは家の中でコソコソ動くしかないが、俺は兵士だ。

 武力も情報も直接扱える、実効性の高い成果を出すのは俺の役目だ。

 俺が兵士として内部の警備体制を掌握し、あの猛毒を最も効果的な場所に届けてやるんだ。

 

 新入り扱いされるのは最初だけだ。

 作戦が始まれば、俺の立ち回りが一番重要になるはずだ。

 一年後、俺は英雄として王都に帰る。

 見ていろ、俺はあいつらとは違う。

 この任務は、俺が成功させてみせる。




 事前準備として山中の池に植えた種は無事に芽を出した。

 あれは北部の環境にも適応できるようだ。

 公爵領まで来たのが無駄足にならなくて良かったぜ。


 それにしても爆発的な増え方だ。

 俺は植物なんぞに詳しくないが、さすがに異常な成長力だとわかる。

 こいつが兵器として使えるようになれば、バストホルム王家は向かうところ敵なしになる。

 銀と兵器、この二つの力で王家は世界を手に入れるんだ。

 王家の覇道、そのさきがけを担うのがこの俺だ。

 これ以上の光栄があるだろうか。

 

 これは、ついに俺の時代が来たんじゃないか?

 ここで公爵家を揺るがす功績を立てれば、王都に戻ったときには叙勲されるかもしれない。

 陛下が見ておられるんだ、しっかりと期待に応えなくては。




 ついに計画を始める時が来た!

 まずは第一段階として、この葉を兵舎裏の井戸に投げ込んでやるんだ。

 先輩から『毒がしみだしやすくなるよう、葉を傷つけろ』と言われたが、いちいちうるせぇな、言われなくても分かってる!


 それにしても、この数枚の葉が、傲慢な公爵領を地獄に変えるのか…。

 これが成功すれば戦争が変わるぞ。

 何も知らずに公爵に仕える愚か者たちは、自分たちの身に何が起きたか分からないまま、苦しんで死ぬんだろう。

 これは王家のためだ、公爵の勢力を削ぐことは、国を一つにするための必要な犠牲だ。

 あのいけ好かない公爵は、変わり果てた領地を見て絶望するんだろうな。

 いい気味だ、王家に反発すれば地獄を見るとハッキリ分からせてやる!




 チッ、思わぬ誤算が起きた。

 汚染された井戸水を使った数人が体調不良になった。

 もう少し葉から毒をしみ出させる計画だったが、あのバカ兵士ども、予定よりも早く井戸を使いやがった!

 計画通りに動かないクズの無能どもめ!


 ……まぁ、いいだろう、どうせあいつらも死ぬんだ。

 それよりも小さな井戸とはいえ、たった数枚の葉を短時間入れただけで、軽く中毒を起こすくらい汚染できることが分かった。

 これを参考にいろいろ試して、さまざまな事例を陛下に報告すれば、俺の価値が上がるんじゃないか?

 

 そうだ、それがいい!

 今後、バストホルム王家は多くの街に葉を使うことになるんだ。

 枚数の調整が必要になることもあるはず。

 その時のために俺がここで実験しておけば、のちのちの王家の役にも立つだろう。

 これは功績になるぞ、さっそく計画を立てなければ!




 しかしシューリスで実験を始める前に、問題が起こった。

 よりにもよって俺が門番をしている時に、公爵の妹が帰ってきたのだ。

 護衛の男が馬車を通せと言っているが、俺の頭は混乱していた。


 どういうことだ、あの女が王都を出たなんて連絡は来てないぞ?

 秘かに王都を出た?何のため?

 そうだ、馬車に家紋が付いていない、きっと本人じゃないはずだ。

 第一、公爵家に動きがあれば、王家の監視が知らせてくれるはずだろ!

 王都の連中は何やってるんだ!

 どうする、この時期に来るなんて、計画を知っているかのようじゃないか。

 まさか知っているのか?なら味方か?

 王家は女を引き込んだのか?

 しかし敵だったら…いや、こう考えよう。

 俺が妹本人か確かめるんだ。

 この女が敵だったら、帰ってきたことを王家は知らないかもしれない。

 それを報告すれば俺の功績になるぞ。

 もし王家が把握していても、王都からの連絡ミスを報告すれば、俺の印象はきっと良くなるだろう。

 よし、それだ!何としても本人か確認しなければ…。

 銀のカトラリー?そんなもの知るか!


「ご令嬢の来訪を知らされておりません!馬車の中を確認します!」

「お前じゃ話にならない!衛兵隊長を呼んで来い!」

「今は俺が門番です!馬車の扉を開けてください!」


 護衛ごときが、調子に乗りやがって!

 俺は本来、王都の騎士だぞ!?田舎の兵士が邪魔をするな!


 しかし男を殴りつけようとした直前で、騒ぎを聞きつけたのか衛兵隊長がやってきた。


「大変申し訳ございません!すぐにお通り下さい!」

「衛兵隊長!新入りの教育不足だ!その者と教育係を詰所で待機させておけ!」


 くそっ…もう少しだったんだが、衛兵隊長が馬車を通してしまった。


 衛兵隊長によって、俺と俺の教育係の兵士が詰所に押し込まれる。

 公爵の妹を逃したことに、思わず歯ぎしりするような悔しさを感じていると、あの腹の立つ護衛がやってきた。


「お前!貴人の馬車に言いがかりをつけるとは、死にたいのか!もし他家の方が乗っていらしたら、その場で首を切り落としていたぞ!」

「くっ…!申し訳ございません…ですが不審な馬車を入れてしまっては、城内の治安にも影響が…」

「言い訳は無用!判断できないなら、最初から上に指示を仰げばよかったんだ!なぜ一人で解決しようとした!」

「…隊長に手間をかけさせるべきではないと考え……」

「その結果、大きな問題になっただろうが!!一体何を考えているんだ、その頭の中身は空なのか!?」


 クソックソックソッ!!

 なぜ栄えある騎士の俺が、田舎の兵士ごときに!

 王都に帰ったら!いや、この地でこいつを殺してやる!




 歯ぎしりしながら屈辱に耐えていると、男は満足したのか詰所から出て行った。

 衛兵隊長と教育係がため息をついている。


「君さぁ…叱られてるのに反抗的な態度を取っちゃいけないよ。見た目だけでもしおらしくしなきゃ」

「隊長…すみません、私の教育不足です」

「いやまぁ、君は良いんだけど…。ああ、さっきの人はお嬢様が気に入ってる護衛だから、目をつけられないように気を付けてね。出世なくなるよ?もう遅いけど」

「ぐっ…申し訳、ございません」

「はぁぁぁ…この調子じゃ今日は働けないでしょ。この後は非番にしておくから、大人しく休みなさい」


 クソッ!どいつもこいつもコケにしやがって!

 今に見てろ!全員、地獄の中でもがき苦しみやがれ!


 黙ってうつむいていると、衛兵隊長が教育係を連れて出て行った。




 その後、スキを見計らって居住区域の近くまで忍び込み、使用人としてもぐりこむ先輩と接触した。

 しかし2人もあの女の帰りを聞かされていなかったらしい。

 怒りの余り先輩方への言葉が強くなってしまったが、一番被害にあったのは俺なのだから許してもらおう。


 先輩方の話によると、あの女は王太子殿下から婚約を破棄されて、公爵領に帰ってきたようだ。

 今はショックで部屋に引きこもっているらしい。

 どうせくだらないことを言って殿下の怒りを買ったのだろう、いい気味だ!


 しかし、あの女が帰ってきたことで、計画をどうするのか王都に確認することになった。

 それまで俺は待機を命じられた。

 『決して余計な事をするな』なんて大きなお世話だ!

 お前らより俺の方が陛下の役に立っていることが分からないのか!?

 クソッ!最近、上手くいかないことばかりだ!


 仕方ない、あの男をどうやって殺すか考えながら耐えるとしよう。




 休憩中、兵舎の近くで人だかりができていた。

 なんだ?何かあるのか?

 近寄ってみれば、何かを燃やす準備をしており、今にも火がつけられるところだった。

 近くにいた兵士に聞いてみる。


「なあ、これは何をしているんだ?」

「ん?ああ、この間、兵舎裏の井戸を使った連中が大変なことになっただろ?だから井戸が汚染されてるんじゃないかって、水を抜いて掃除したんだよ。で、何が原因か分からないから、井戸の中にあったゴミを燃やして処分しようってことらしい」

「は!?」

「掃除したやつの話によれば、植物の葉だの枝だのが結構たまってたらしいぜ。ほら、あれを燃やすんだと」


 兵士が置いてある麻袋を指さす。

 待て、まさか、その中には…俺が投げ込んだ葉も入っているんじゃないか!?


「危険じゃないのか!?よく分からないものを燃やした煙を吸ったら…!」

「いや、燃やすんだし大丈夫だろ?」


 まずい!あの植物の毒は煙にも移るんだ!

 このままじゃ俺まで巻き込まれる!


 その時、ゴウッと風が吹き、煙がこちらへ流れてきた。 

 急いで風上へ行かなければ!それか建物の中へ!




「助かった…。ここなら煙は…」

 

 荒い息を吐きながら建物の中に逃げ込んだ。

 窓を閉め、扉に背を預けてへたり込む。

 

 外では俺が仕掛けた葉が燃やされている。

 煙を吸えば一たまりもないのだ、危ないところだった。

 さすがの俺も、自分で育てた兵器に飲まれるのは嫌だ。


「あらあら、そんなに慌ててどうしたのかしら?」


 鈴を転がすような、しかし氷のように冷ややかな声が降ってきた。

 顔を上げると、そこには豪華なドレスを纏った女が立っていた。

 扇子で口元を隠し、退屈そうに俺を見下ろしている。

 間違いない、公爵の妹、ヴィオラだ。


「公爵令嬢…!?なぜここに…」

「それはこちらのセリフよ、新入りの兵士さん。それともネズミさんと呼びましょうか?」


 心臓が跳ねた。バレている。


 だが、俺はまだ負けていない。

 懐にはまだあの種がある、これを盾にすれば…!

 立ち上がろうとした瞬間、視界が激しく揺れた。


「がはっ…!?」

 

 横から飛んできた硬い何かが、俺の脇腹を強く打った。

 ヴィニーと呼ばれていた護衛の男が、鞘に収めたままの剣で俺を地面に叩き伏せたのだ。


「お嬢様の前だ。その薄汚い膝をついていろ」

 

 肺の空気が押し出され、声も出ない。

 地面に顔を押し付けられる屈辱。

 俺は王都の騎士だぞ、こんな田舎の兵士に…!


「…くそっ、離せ!俺を誰だと思っている!俺を殺せば、バストホルム王家が黙っていないぞ!この地は俺が育てた猛毒で地獄に変わるんだ!」

 

 叫ぶ俺を、ヴィオラは心底おかしそうに、クスクスと笑い飛ばした。


「猛毒?地獄?うふふふ…ねえヴィニー、聞いた?こいつ、あの程度の雑草を猛毒だなんて言っているのよ」

「まったく、笑えますね。おかげでうちの兵士が数人、腹痛でトイレに籠りきりですよ…。後始末が面倒でかないません」


 腹痛…?何を言っている。

 あれは、吸うだけで命を奪う死の兵器のはずだ。


「嘘だ!陛下は、あの種こそが世界を制する力だと…!」

「陛下?ああ、あの方ね。はぁ…知らないのね…。残念だけど、あなたのその熱意、まるっきり無駄だったみたいよ。私がいた頃の王都でも、そんな雑草を『兵器』にするなんて話は一度も聞いたことがないもの」

 

 ヴィオラがゆっくりと歩み寄り、扇子で俺の顎を強引に持ち上げた。

 至近距離で見つめる彼女の瞳には、怒りすらない。

 あるのは、道端のゴミを見るような、純粋な無関心だ。


「いい?お前が大切に育てていたのは、ただの『品種改良に失敗した観賞用植物』よ。確かに毒性はあるけれど、井戸に放り込んだところで、せいぜいお腹を壊すのが関の山なのよね。陛下がそんなものを本気で頼りにしているとお思いなのかしら?お前はただの失敗作を掴まされただけよ」

「そんな…まさか…」

「信じたくない?じゃあ、お前の頼みの綱の先輩方がなんて言っていたか、教えてあげましょうか」

 

 ヴィオラが指を鳴らすと、ヴィニーが一枚の紙を俺の目の前に叩きつけた。

 そこには先輩方の署名と、殴り書きのような報告が記されていた。


『工作員ザンの単独行動により、計画の継続は困難。…なお当該工作員は思慮が浅く、攪乱のための囮として残置する。我々はこれより撤退する』


「…お、囮…?残置…?」

「そう。彼らはとっくに私たちに捕まったわ。そして命の惜しさにお前を売ったのよ。『あいつは目立ちたがりの無能だから、適当におだてておけば勝手に騒ぎを起こして時間を稼いでくれる』ってね」


 頭の中が真っ白になった。

 俺は英雄になるはずだった、陛下に認められ、叙勲されるはずだった。

 なのに俺が信じていたのは、ただの雑草で。

 俺が仲間だと思っていたのは、俺を捨て駒にする連中で。


「…へ、陛下は…。陛下だけは、俺の働きを見ておられる…!」

 

 最後の希望にすがる俺に、ヴィオラは慈悲のない最後の一撃を振り下ろした。


「王太子殿下の婚約者だった私が教えてあげるわ。城の連中にとって、お前みたいな末端の工作員は、ただの『使い捨てのペン』よ」

「……ペン?」

「そう。インクが出なくなったらゴミ箱に捨てる、ただの道具ね。陛下がお前の名前を覚えていると思うのかしら?…いいえ、あの方はお前の『番号』すらご存知ないわ。お前がここで無様に死んでも、王都では誰一人として気にも留めない。…ねえお前、自分が何者かになれると思っていたの?ただの汚らしいネズミのくせに」

 

 パキリ、と。

 俺の中で何かが折れる音がした。

 英雄への道、輝かしい未来、俺の存在意義。

 そのすべてがヴィオラの嘲笑混じりの言葉によって、泥水の中に沈められていく。

 

 俺は何のために、こんな寒い北部まで来たんだ?

 何のために、あの草を大切に育てたんだ?

 …そうだ。俺は踊らされていただけだ。

 無能だと笑われながら、死ぬまで使い潰されるためだけに、ここに送られたんだ。

 

 力が抜け、視界が涙でにじむ。

 もう反論する言葉すら見つからなかった。

 俺の人生は何の実りもないまま、この冷たい床の上で終わるのだ。


「…殺してくれ…。もう、どうでもいい…俺を、殺せ……」

「殺す? あら、そんな勿体ないことしないわよ」

 

 ヴィオラが、まるで使い道のあるゴミを見つけたような、残酷に美しい笑みを浮かべた。


「あなたは私の領地に泥を塗ったのよ。なら、その代償は身体で払ってもらわなくちゃならないわ。幸い、あなたは王都の事情を少しは知っているようだもの…。これから私のために、そのインクが枯れるまで働いてもらうわね?」

 

 拒絶する自由すら、今の俺には残っていなかった。

 俺は絶望の中で、彼女の靴の先を見つめることしかできなかった。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!!」


と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします!


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです!


なにとぞよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ