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2.本当のスキル

3話は15時くらいにー

 結局、光浮き草へ感じた違和感の正体がつかめないまま、領地へ向けて出発することになった。

 王都を出るまでには時間がかかる。

 領地に通じる門への道中で朝早くから開いている店を見つけ、新聞を購入した。

 私と王太子の婚約破棄がしっかり載ってるわね…。


「あら、見てマライア。『王太子殿下が土いじり令嬢と婚約破棄』『王家の怒りを買ったリーヴィス公爵家』ですって」

「お嬢様、そのような燃やすゴミ同然のものをお読みにならないでください。御身が汚れてしまいます」


 マライアが青い目を釣りあげながら新聞をにらみつける。

 北部では珍しい綺麗な赤毛と明るい青い目が可愛い子なの。

 数代前に南部から嫁いだ方がいるそうだから、その方の血が濃く出たのね。


「おほほほ、そう悪し様に言うものではないわよ。彼らも仕事なのですもの」

「まったく…その記事を書いた者、来月には仕事が無くなっているでしょうね」

「お兄様ならやりかねないわ。土壌改良を軽んじる人に対して容赦がないのよねぇ…」


 貧しい北部で、やせた土地と向き合い続けてきた人たちを知っているからでしょうね。

 私に対して「土いじりの公爵令嬢」と言った者が社交界から消えたことを思い出しながら、ざっと新聞へ目を通す。

 他に気になる記事はあるかしら。


「あら?大雨で橋が崩落したそうよ。南部では雨が続いていたから、川が増水したのでしょうね」

「南の方は雨が降りやすい時期ですからね。早く復興すると良いのですが…」

「うーん…でも、今年の雨はなんだか長い気がするわ」


 気のせいかしらね。

 でもカヴァデール侯爵領ならお金に困っている様子はないから、問題なく直せるでしょう。

 

 そのようなことを話していると、馬車は王都を出て森の方へ進む。

 しばらくして馬車は森の中に停まった。

 御者台に通じる小窓が開き、短い金髪を持つ青年が顔をのぞかせる。


「お嬢様、監視や後を付けている者はおりません。スキルに合わせて魔法で確認しましたので、間違いないかと」

「ありがとう、ヴィニー。あなたの索敵スキルは優秀ね」

「とんでもございません、ただ目が良いだけですよ」


 謙遜しているけれど、ヴィニーのスキル『第六感』は空気の揺れや音の反響、魔力などを感じ取っているのよね。

 さらに魔法で知覚を強化しているから、彼に気付かれずに近づくことは不可能に近いわ。


「では領地まで飛びましょうか。いつもの森の中に行くわね」

「かしこまりました、お嬢様」

「わかりました。向こうに着き次第、周囲を索敵します」


 二人の返事を聞いて、私はスキルを発動させる。


 人間は生まれつき体内に『魔力器官』を持ち、10歳前後になるとその人の適性に合った『スキル』が一つ発現する。

 鳥が空を飛べるように、人は何らかのスキルを持つのが当たり前なのだ。

 一般人であれば遠くが見えたり火種が出せる程度のスキルだが、血統管理をしている貴族や王族は強力なスキルが発現しやすい。

 だから「スキルが土壌改良である」と公言している私はなめられやすいのよね。


 一方で魔力とは体内にある粘土のようなものね、それをこねて望む形にするのが『魔法』という技術よ。

 燃え盛る炎や堅い壁を作って目の前に投げつければ、それが世界に影響を与えて現実のものとなるの。


 しかし私の本当のスキルは土壌改良ではなく『空間転移』だ。

 物や人間を望んだ場所へ移動させられる便利なもの。

 移動距離や対象の大きさは私の気力次第といったところね。

 

 7歳の頃に、落としたはずのペンが手の中に戻ってきて発覚したの。

 それを報告したら、兄や両親から「絶対に人前でやるな」と念を押されたわ。

 成長した今なら分かるけど、このスキルが知られたら間違いなく大変なことになるものね。


 人間兵器として戦争に駆り出されて、延々と物資を運ばされる姿が目に浮かぶわ。

 荷物だけならまだ良いけれど、使い捨ての騎士たちを敵陣に送り込む事になったら嫌だもの。

 もしくは他国の機密情報を盗み出す工作員にさせられるのかしら。

 いずれにしても、私のスキルが戦争の後押しをする可能性がある以上、あまり知られたくはないのよね。


「着いたわ、索敵をお願い」

「はっ!」


 私たちは馬車ごと一瞬で公爵領の山中にある空地へ移動した。

 すぐさまヴィニーが索敵スキルを展開し、周囲の状況を察知する。


「お嬢様、周囲に人間はおりません。また危険な動物や魔物も存在しません」

「それはなによりね。では街へ向かいましょう」


 人間以外にも体内に魔力器官を持つ生物が存在し、それらは『魔物』と呼ばれている。

 まれに群れからはぐれた個体が村や街を襲うこともあり、騒ぎになるのよね。


 そう言えば『白の5年』が来たら、魔物はどうなるのだろう。

 食料を求めてより活発に人間を襲うようになるのかしらね。

 前回の記録に残っていないか確認するのも良いかもしれないわ。



 馬車は空地を出て細い山道を進み、やがて大きな舗装された道へ合流した。

 そこから領地で一番大きな街であるシューリスまであっという間だ。

 ちなみに、空間転移を使わずに王都から領地まで馬車で移動すると7日はかかる。

 昔はスキルで一気に移動できず、途中の街で一日休んで気力を回復させていたの。

 そう考えると自身の成長を実感できるわね。

 

 シューリスを目指す他の馬車に混ざって、街の外壁に付けられた市門を通過した。

 街の中では馬車が通る道と人間が歩く道を分けており、交通量が多い交差点では交通誘導員を配置している。

 先代公爵であるお父様は街中での事故防止に力を入れていたから、シューリスでは馬車と人間の接触事故が少ないのよね。

 安全な街として他領でも有名な自慢の街よ。


 馬車はやがて街を見渡せる高い丘の上に建てられた城に到着する。

 しかし、いつもならすんなり通れるはずが止められてしまった。

 

「あら?何かあったのかしら」

「…ヴィニーが何か話している声が聞こえます。様子を聞きますか?」

「ええ、そうしてちょうだい」


 マライアが小窓を開けると、ヴィニーが困り切った顔をのぞかせた。


「お嬢様、門番の兵士が馬車を通すことができないと言い張っています」

「どうして?」

「馬車に公爵家の紋が入っていない、またお嬢様の来訪の知らせが来ていないと言っています。馬車の中を確認させろとも」

「ああー…」


 婚約破棄されて逃げるように王都を出たから、家紋入りの馬車ではなく普通の馬車を使っているのよね。

 怪しいと感じるのも理解はできるわ。

 でも馬車の中を見ようとするのはいただけないわね、この兵士は他家の方にも同じような態度なのかしら。

 マライアも瞳に怒りを浮かべている。


「銀のカトラリーは見せたの?見せても同じ態度なら、そうねぇ…」

「見せましたが、何のことか分からないようでした」

「…紛れ込んだわね」


 我が家では信頼できる者に家紋入りの銀のカトラリーを渡している。

 城で働く者なら暗黙の了解で知っているはずだけれど、それを知らないのであれば。


 しかし、すぐに兵士を指揮する衛兵隊長がやってきて平謝りした。


「大変申し訳ございません!すぐにお通り下さい!」

「衛兵隊長!新入りの教育不足だ!その者と教育係を詰所で待機させておけ!」


 ヴィニーの鋭い声を受け、衛兵隊長が冷や汗を浮かべながら頷いた。

 それにしても、少し領地を離れていただけでずいぶん変わったのね。


「光浮き草の調査に来たのに、まずやることがネズミ叩きだなんて」

「うふふ。楽しくなりそうですね、お嬢様」

「まあ、マライアったら」


 そうね、安全圏から高みの見物を決め込んでいる奴らの鼻を明かすのが楽しみだわ。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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