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1.公爵領の異変

2話は12時前くらいに投稿します

 王城を出た私は、そのまま公爵家が所有する邸宅に向かった。

 そのまま着替えもせずに、公爵である兄、ザカライアスの執務室へ足を運ぶ。


「お兄様、失礼します。お時間をいただけますか?」

「ああ、座ってくれ。これに署名したら話を聞こう」


 白い髪に薄い水色の瞳を持つ兄は、一見すると病人にも見えるわね。

 この大陸では北に行くほど髪や目などの色素が薄くなる傾向があるわ。

 ちなみに私はプラチナブロンドと明るい青の瞳という、北部ではよく見かける色合いよ。


「待たせたな。今日はずいぶん早い帰りじゃないか。どうしたんだ?」


 そんなことを考えていたら、仕事を切り上げた兄が対面に座った。

 また王太子のせいで兄に苦労をかけることになるわね。


「実は本日、王太子から婚約を破棄されましたわ。王都周辺の土壌改良計画も中止だと言われました」

「…おおよそ予想は付くが、何があったんだ」


 そうよね、私も何となくこうなると思っていたもの。

 王城での一件を順を追って話すと、兄の眉間のシワが深くなった。


「馬鹿だろう、あいつ」

「おほほ、お兄様。誰に聞かれているか分かりませんのよ?あのような王太子でも、こき下ろしてはいけませんわ」

「君こそ敬称をつけていないだろう。…それにしても、王家は完全にこちらを切り捨てるつもりのようだな」

「どうしましょうか?」

「向こうがその気なら、こちらも行動するだけだ。まあ『前兆』が現れるまでは静かにしているが」


 記録では『白の5年』が訪れる5年前から、前兆として大陸の北側にある山々を白い光のカーテンが覆ったのよね。

 とても神秘的な光景のようで、この国よりももっと南の土地からでも見えたのだそう。

 お兄様としては王家に目をつけられても面倒だし、それが現れるまでは水面下で準備を進めるという方針というね。


「では、私の今後についてはお兄様がお決めになってください。政略結婚でもなんでも構いません。婚約を破棄されてしまいましたが、当家とつながりを持ちたい方はいるでしょう」


 ズルズルと結婚を引き延ばされていたけれど、10歳の時からずっと王太子の婚約者だったのよね。

 自分中心・話を聞かない・配慮が無いの三大魅力なし男に付き合わされるのは、思った以上に大変だったわ。

 世間体としては悪印象だけど、婚約を破棄されて良かったと思っているの。

 そう言えば、他人を見下すような目も気に入らないと言われたわね。

 思い出したら腹が立ってきたわ、今度お会いしたら泣かせましょうか。


「…逆に婚約が無くなり、良かったかもしれないな」


 兄は机の上にあった報告書を手に取り私に手渡した。

 受け取った報告書には、当家が治めるリーヴィス公爵領で発見された水辺の植物について記されていた。


「最近、領地で見慣れぬ植物が確認された。『光浮き草』と名付けられたんだが、これが生えると池の水が汚染されることが分かった。だから君には現場責任者として調査を頼みたい」

「これは…『未知の植物が爆発的に増殖、山中の池を覆いつくす』だなんて…」

「発見されたのは一月前、そこから爆発的に増殖したようだ。この国の植物では無い以上、外から持ち込まれたのだろう」

「周辺の水辺では確認されていないのですか?」

「確認された被害は一か所だけだ。人通りの少ない山中だから良かったものの、今後領民たちが使う水源に発生したら目も当てられん」


 兄は頭が痛いとばかりにため息をついた。

 私も頭痛がしてきそうだわ。

 

 もし人里で光浮き草が広がったら、私たちの生活は根底から崩壊する。

 まず、飲み水がなくなる。

 私たちは普段、生水を避けてエールを仕込んだり、ハーブを煮出したりして水分を摂る。

 けれど元となる水に毒が溶け込んでしまえば、その全てが死の飲み物に変わるからだ。

 

 かといって、水を沸騰させれば安全かといえばそうでもない。

 報告書には『燃やすと煙に毒が残る』とある。

 もし知らずにこの草が混ざった水を沸騰させれば、台所に充満した蒸気や煙を吸い込んだだけで、家族全員が呼吸困難に陥りかねない。

 料理も洗濯も、水を使う家事のすべてが命がけの行為になってしまう。

 

 それに、被害は人間だけじゃない。

 川の水を飲んだ牛や馬は、心臓を止めて即死するという。

 貴重な家畜が全滅すれば、畑を耕す手立ても、冬を越すための肉や乳も失われる。

 水辺を制圧し、水を毒に変え、燃やそうとすれば毒ガスを撒き散らす…。

 

 これはただの雑草じゃない。

 村を一つ滅ぼすための、悪意ある兵器そのものよ。


 それにしても、何かが引っかかるわ。

 さきほどから頭の片隅に違和感がある。

 もしかして私は、この植物を知っている…?

 

 しかし必死に記憶を探っても、何も出てこない。


「お兄様、期待させたくはないのですが…もしかしたら、光浮き草をどこかで見たことがあるかもしれません」

「本当か」

「記憶違いかもしれません…ですが直接目にすれば、何か思い出せそうな気がします」

「そうか…当てが外れても気にすることは無い。焦らなくていいから、状況に合わせて対応してくれ」

「…そうですね、分かりました」


 たしかに焦っても仕方ないわ。

 違和感については追って考えましょう。


「現地ではアイザックが調査を続けている。雇っておいて正解だったな、彼のことは好きに使ってくれ」

「植物の研究者ですからね、頼りになりますわ」


 アイザックは何かと都合がいいというか、便利な人間なのよね。

 私とも面識があるし存分に働いてもらいましょう。


「では明日にでも出発したいと思います。私のスキルを使用しても良いでしょうか?」

「ああ、人目に付かなければ使っても構わない」

「それならば、連れていくのは私のスキルを知っているヴィニーと、侍女のマライアだけにします。いつもの場所から領地へ向かいますね」

「分かった。ではよろしく頼む」


 兄に礼をして執務室を後にする。

 そして急いで準備を整え、翌日の早朝に私たちは領地へと向かった。


実はモチーフの植物がある光浮き草。

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おかげさまで夏場にピンクの花を見かけるとドキッとするようになりますた。
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