3話「モヤモヤ」
【横浜律】
昨日、能代と話して、あのときの船橋の言葉を思い出してしまった。
「もう勝手に家きたりしないから。明日学校でな。」
優しい声だった。
嫌なことを言ったのは私なのに、彼は最後まで優しかった。
別に特別な意味なんてない。
ただ、それを思い出すたびに、なぜか息が詰まる。
ちょっとぐらい心を許してもいいのかな…
そんなことを考えているうちに、いつのまにか校門が見えてきた。
そのとき
「律!よかったきた!」と無邪気な声が後ろから聞こえた。
彩芽の声だ。正直ちょっと気まずい。
私が何か言う前に間髪入れずに「一昨日はほんとにごめんね。私も無理にでも船橋を断ればよかったのに仲良くなって貰えると思って…」と甲高い声で言う。
私は彩芽のこの声が好きだ。すごく明るくて聞くと元気になる。
「私こそごめんね。ほんとは『帰って』なんて思ってないのに船橋が来ると思ってなくて少しパニックになっちゃった」私は彩芽に頭を下げた。
彩芽がニコッとして「全然いいよ。船橋とか、他のクラスメイトとか、ちょっとずつ慣れていこ。」と私の顔を覗き込んで言う。
私はうなずいて、少し迷いながら言った。「そのことなんだけど、昨日色々あって能代と話して…」と言葉に詰まると
「え?なんで?」と彩芽が言った。
そりゃそうだ。彩芽からすればなんで学校を休んで連絡先も知らない能代と話してるということになる。
私は昨日あったことや船橋と勇気を出して仲良くしたいということを打ち明けた。
彩芽はまたニコニコしながら「そんなことなら私に任せろ!」と言った。
彩芽と話すとモヤモヤが解けていった。
小学4年生のころ、両親が離婚して、苗字が変わった。
それだけならよくある話だったかもしれない。
でも、クラスの中心にいる男子が「お前、お父さんいなくて片親なんだろ?」とバカにして笑ってきた。
それを聞いた周りの人たちも、同調して笑ってきた。
私は怒ることも泣くこともできなくて、ただ俯いて過ごすことしか出来なかった。
その日から何をするにも人の目が怖くなった。
体育の着替えでは父親から受けた虐待の傷跡を見られてあることないこと言われたり、ストレスで少しずつ抜けていく髪の毛を見て笑う人もいた。
そんな生活が嫌で、中学では母親に頼み込み、隣町の中学校に行かせてもらった。
でも、結局中学校に行っても友達はできなくて基本1人で行動してた。
中学2年生にあがると、彩芽が転校してきた。その後どうやって仲良くなったかは、また別のお話。
気づいたらもう教室の前に着いていた。私は1度深呼吸する。吸って吐こうとしたその瞬間、「あ!横浜、ちゃんと来たじゃん!今日もサボると思ってた!」昨日も聞いた声がした。
なんでこいつは予期せぬときに現れるんだよ…
その正体はトイレから戻ってきた能代だった。
「もう!うるさい!もっと静かにできないわけ!?」
私はつい怒鳴ってしまった。
なんで私はこうすぐに人を拒絶しちゃうんだ…
そう思っていると私の声が聞こえたのか船橋が教室からでてきた。
私が慌てて頭を下げようとすると、私よりも先に船橋が頭を下げてきた。「ほんっっっとにごめん!そ、そりゃその日席がとな、隣になっただけの奴が突然家に来ったら嫌だよな。これから距離感ちゃんと考え、考えて接するから許してくれないか?」と気持ちが先行しすぎてるのか言葉があまりまとまってない。
あまりにも噛み噛みで私はクスッと笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ」船橋が驚いた顔で言う。
「だって、真剣な顔で噛み噛みなんだもん、そりゃ笑うよ」と含み笑いで私は言った。
船橋は不服そうな顔をして、頬をかいた。
すると横にいた彩芽が笑顔で言った。「なんだよ律。私が何もしなくても仲良くなれてるじゃん」
私はこれって仲良くなれてるのか?と思ったがまぁいっかという気持ちで教室に入った。
3話!書き終わりました!律と律儀の関係にだいぶ進展のある回になりました。4話は明日更新されます!次回もよろしくお願いします!




