1話 「船橋律儀」
【横浜律】
高二の6月、私は学校が終わり、コンビニバイトの真っ最中だった。
今日も気だるげにレジに立っていると地毛茶髪の男子がお店に入ってきた。
私は思わず「げっ」と声が出る。
入ってきたのは同じクラスの船橋律儀。根っからの陽キャで話したこともないし話したくもない。
私は彼とは正反対の性格であまり社交的ではない。
彼はクラスの色んな人と話してるのをよく見るが、私は親友が1人いるだけだ。
どうか気づかれませんように。私はそう願った。
彼は雑誌と缶コーラを持ってレジに来た。
「横のレジ行ってくれよ…」と思ったが普通に私のレジに来る。
私の顔を見るやいなや、「あれ、横浜?」と言われた。
最悪だ。気づいても気づいてないふりしてほしかった。
「人違いです」と即答したが「いや、無理あるだろ」と笑われた。
さすがに無理か…
船橋に「うちバイト禁止よな?」と言われる。
私はすぐに「そうだね」と答えた。
そんなこと改めて聞いてどうするんだと思ったら船橋は閃いたかのように言った。「お前頭良かったよな?この前のテストも学年トップで張り出されてたじゃん!」と言われた。
なんでそんなこと把握してるんだよと思いながら「いや、気のせいじゃない?」と言ったが食い気味で「バイトのこと黙ってやるから俺に勉強教えてくんね?追試落ちたら補習なんよ俺」と言われた。
なんだよそれ、弱みを握って私を上手く使いたいのか?
すぐに私は「嫌だ。別にバイトのことなんか好きにチクったらいいよ。他のバイト探すし。」と彼を突き放した。
ちょっと嫌な言い回しにはなったが、これぐらい言わないと冗談だと思われる気がした。
すると彼は驚いたように「ごめん、バイトのこと黙っとくよ。」と言って商品を受け取って去っていった。
放課後まで学校の人となんか会いたくない。それにバイトと自分の勉強、家事で精一杯だ。
次の日、私は学校に向かっていた。
すると後ろから「横浜!」と声をかけられた。
振り返ると船橋が近づいてきた。
なんで絡んでくるんだよぉ…と思いながら「何?」と聞くと「昨日は悪かった。金沢からお前の家の事いろいろ聞いて」と言われた。
なんで余計なこと話すかなぁ。私はまた突き放すように
「そのことはもういいから放っといてよ」と答えた。
大して知らない人に家のことに首突っ込んで欲しくは無い。
すると彼は「わかった。でもなんかあったら頼ってくれていいから。」と言った。
悪い奴ではないんだろうけど彼への苦手意識はなくならない。
『お前の家の事』とは私の家庭環境についてだろう。
うちは父親のDVや虐待で両親が離婚して、母と私と小学生の弟である湊と3人で暮らしている。
母は夜中まで仕事をして、私のアルバイトと合わせて何とか生活できている。
ちなみに金沢とは金沢彩芽と言って、私の数少ない心を許している友達だ。
彼女には私の家庭のことも言ってあり、時々うちに来て湊の宿題を見たり世話をしてくれる。
学校についたら丁度チャイムが鳴った。
ホームルームが始まり、長岡先生が話し始めた。「今日の一限のロングホームルームで席替えするから、机の中や横にかけてあるものを出して、朝のうちに準備しとけよー」と言った。
今は席が彩芽と前後ろなので正直席替えはしたくない。
めちゃくちゃ悲しい気持ちを押し殺して、彩芽とお別れのハイタッチをして準備を始めた。
しばらくして一限が始まり、席順が貼られて、自分の席を見るとアリーナ席だった。
終わった…と思いながら席を移動する。
そして隣を見た私は絶望した。まさかの船橋の隣だった。
船橋は「よろしくなー」とお気楽そうに挨拶してきた。私は適当に頷いた。
すると彼は「あからさまに嫌な顔すんなよ!泣くぞ!」と言ってきた。
そんな顔に出てた?と思いながら無視してると
「船橋あんま律にちょっかいだすなよー」と斜め後ろから女神のような声が聞こえた。
そう、私の斜め後ろ、船橋の後ろの席は彩芽だった。私はとっさに「奇跡!大好き!愛してる!」と彩芽に言った。
2回連続で彩芽と近くの席なんてこれ以上ない幸せだ。
彩芽は母親のような表情で「落ち着け律」と言って私を落ち着かせた。
そして私の後ろに誰かが座った。
後ろの席は船橋の友達の能代流星だった。
能代が呑気そうに「船橋モテていいなぁ」と言う。
誰がこんな奴を…と思っていると船橋は「これはモテてるんじゃない。嫌われてるんだ」と言った。
よくわかってんじゃんと思いながら私が黙ってると船橋が「お前に黙られると本当に嫌われてるみたいじゃん」と言ってきた。
いや実際嫌いだしとは口に出さずスルーした。
斜め後ろで彩芽が笑いを堪えていた。
放課後、私はすぐに家に帰った。
今日は彩芽が湊の世話を見にうちにきてくれる日だ。楽しみに夕飯を作りながら待っているとピンポーンと鳴った。
インターホンから「鍵空いてるから入っていいよー」と言うと玄関からガチャッと音が鳴る。
廊下を渡って歩いてくる足音が二重になって聞こえた。
2人いる…?気のせいかと思ったがリビングへの扉が空いたのを見て驚いた。
なぜか彩芽の隣に船橋がいたのだ。
漫画がめちゃくちゃ好きで、漫画を描きたいと思ったんですが、絵がド下手なので小説になりました。書いてるうちに楽しくて止まらなくなったので今週中に2話出せると思います。




