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天才軍師、顔の良い生首を拾う。~孔明じゃない諸葛さんは怪異の知識で無双する~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
一章

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七、鬼の住む屋敷


 奇麗に髪を整えてまとめ、頭巾ではなく冠を被り、香を焚く。

 これは朝廷に参内する用の正装であるが、本日、諸葛恪は別に朝廷に参内する予定はない。


 そして楊甜はというと全身が真白の衣服に身を包んでおり、顔も薄く透けた布で覆われていた。

 また化粧を施した上に頬や額には黄色の顔料で模様が描かれ、何とも異様な雰囲気を漂わせる。


「あの、ご主人様、これは一体?」

「今日のお前は巫女だ。髪も後で解く」

「いや僕は巫女じゃないです」

「いいやお前は巫女だ。二度も言わせるな。殺すぞ」

「ひぃ、言葉が強ぃぃ」


 楊甜に化粧を施すのは姉の楊燕であり、なんだか鼻息荒くやけに気合が入っているようにも見える。

 ただ確かに化粧を施した楊甜は傾国を思わせる美女そのものであり、化粧の施しがいもある素材なのだろう。


「楊燕殿、同僚には話を通してくれたか?」

「はい。私は同行できませんが、左輔都尉をお通しするよう約束しました」

「ようやくだな」


 居住まいを正し、すでに門戸の外で待っている馬にふわりと飛び乗った。

 心なしか馬の顔つきも凛々しく、楊甜も小さな歩幅でその横にピタリとついていく。

 そんな二人の姿が見えなくなるまで、楊燕は願い請うように頭を下げ続けていた。

 

「ご主人様、あのぉ、僕は何をすればいいんですか?」

「巫女なんだから鬼を祓うに決まってるだろう」

「え、僕が?鬼を?ややややったことないですよそんなこと!?」

「それでもやるんだよ。これは命令だ」

「そんなぁ…」


 楊燕からの話では、鬼は朱桓にしか見えないし聞こえないとのことであった。

 そんな鬼をどうやって祓うというのだ。

 それよりも問題の本質はもっと違うところにあるかもしれない。諸葛恪はそう踏んでいた。


 こうして再び朱桓の屋敷の前を訪れる。諸葛恪は馬から降りて帯を締め直し、その門を叩いた。

 相変わらずのどかな場所である。しかし隣の楊甜はなぜだか少し騒々しそうな表情を浮かべていた。


「…少し、嫌な感じがします。空気が腐っているような」


 すると内側より門が開かれ、先日と同じ女性が顔を出して頭を下げた。

 どうやら彼女が楊燕を匿っているという人物らしかった。


「左輔都尉ですね、楊燕より話は聞いております」

「如何にも。これは諸葛家の抱える巫女だ」

「将軍を、よろしくお願いします」


 門が開かれると、そこには掃除もまばらで人気のない屋敷が広がっていた。

 朱桓の容態が思わしくないせいで辞めたり逃げる人も増え、色々と行き届いていないのだとか。


「私は呉郡呉県の朱家に仕える故吏の出身です。なので最後まで将軍をお支えしないとなりません」

「その傷や痣は、将軍が」

「…はい。でも勘違いしてほしくないのは、将軍もわざとではなく、これは病のせいなのです」


 ここから先、外縁を回ると中庭に出ます。そこに将軍の居室があります。

 使用人の女性はそう言って頭を下げた。諸葛恪は厩舎に馬を繋ぎ、了承をして彼女と別れる。


「楊甜、気をつけろ。将軍の容態が思わしくなければ殺されるやもしれん」

「だだだ大丈夫です!頑張ります!」

「そういえばさっき何か言っていたな。空気が腐っているとかなんとか」

「はい、"瘴気"というものですかね?なんとなくですが、それを感じるのです」


 これも落頭民と人間の差なのか。知識では埋めがたい感覚の違いなのだろう。

 また「朱桓は水面や鏡面に鬼の姿をよく見る」と楊燕が話していたことを思い出した。

 古くより「水面」は"あの世"と"この世"の境界であると考えられ、水面に死者が映ったりする話は多い。


 辺りを見渡せば、あちこちの水瓶にはすべて木の蓋が置かれており、水面を見ないように注意が払われていた。

 諸葛恪はおもむろに近くの水瓶みずがめの一つを開ける。

 そこには藻やボウフラが浮いており、明らかに水が腐っていることが分かった。


「これが瘴気か」

「あ、はい、だいたいそんな感じの嫌な気配です」


 そして別に水面に死者の顔が浮かんだりはしていない。楊甜も同様の反応であった。

 ひとまず水瓶の蓋を戻し、中庭に向けて歩みを進める。


 まだ昼にもなっていない時間帯だった。空気はどんよりと重く、空は明るいのに不思議と暗さを感じる。

 更に異様なまでに静かであり、張り詰めた緊張感がここにはあった。

 中庭も荒れていた。池の水は抜かれており、草花も枯れ、戸も破れ、破れた先に見える部屋の様子も泥棒が入ったかのようである。


「"朱"前将軍はいずこ!」


 諸葛恪の声が響く。しかし返答はない。

 楊甜はその不気味な静けさに身をかがめ、じりじりと諸葛恪に身を寄せた。


 その瞬間だった。

 突如として殺気を感じ、諸葛格は楊甜を強く蹴り飛ばす。


「──離れろ楊甜!」


 左面の戸を突き抜けるように一人の軍人が飛び出し、小さな諸葛恪の体を組み伏せる。

 鎧に身を包み、見える肌には幾重もの戦傷。その目は明らかに血走っており、むせかえるほどの酒の臭いがした。


面白いと思っていただけましたら、レビュー、評価など、よろしくお願いします。

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