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天才軍師、顔の良い生首を拾う。~孔明じゃない諸葛さんは怪異の知識で無双する~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
五章

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十二、言うは易く行うは難し


 騎馬隊の突撃で戦線は押し戻すことが出来た。

 しかしこれは一瞬のことだ。それは分かっていた。


「だったら…っ!!」


 即座に馬首を返し、もう一度。今度は足を止めない。

 なまくら刀で肉を押し切るかのように、それは泥臭くも強引な突貫であった。


 名門生まれの頭の大きい官僚だと思われている諸葛恪であったが、その性格は呉人らしく苛烈。

 難しく危険な任務でも自ら進んで志願するし、たとえ臣下筆頭の重臣"張昭"や皇帝"孫権"が相手でも物怖じしない胆力があった。

 それは戦場でも同様である。危地の中に活路を見出す、猛将の類の人物だった。


「来い、馬宗!」

「ぶっ殺してやる!!」


 敵中で下馬し、剣を振るい笑う諸葛恪に、馬宗は槍を構えて突進した。

 太く、重い槍だった。両手で柄を握って槍を叩き落す。その衝撃は両腕の感覚が一瞬吹き飛ぶほどであった。

 穂先は地に刺さり、土ごと跳ね上げる。体を後ろに倒してそれを躱すが、舞い上がった土が視界を邪魔していた。

 全身全霊をかけた命のやり取り。

 研ぎ澄まされた感覚で反射的に右手に飛び、転がる。自分が立っていた場所にはその槍が叩きつけられていた。


「降伏しろ馬宗、この諸葛恪が取り立ててやるぞ!」

「呉人は殺す!俺達を舐めるな!!」

「俺はお前らを殺さん!」


 雨が降り始めていた。

 突き、払い、まるで竹竿でも振るうかのような剛腕。ますます惜しい。諸葛恪は口角を上げる。

 それが気に入らないのか馬宗の攻撃は更に激しさを増し、その攻防は周囲の目をいつしか釘づけにして一騎打ちの様相を呈していた。


 だが、呉は武の国。

 偉くなるには武功が必要で、諸葛恪はそんな国で"大将軍"の父を持つ名門の生まれ。

 そして呉国の誇る当代随一の天才である。


「素直に構えてたら、間合いが分かりやすいだろ」

「っ!?」


 馬宗が槍を突き出した瞬間、諸葛恪はその穂先を剣の腹に滑らせて踏み込んだ。

 そのまま槍の柄を踏みつけて地に落とし、思い切り馬宗の腹を蹴り飛ばす。

 そこからは両者殴り合いであった。掴み合いになれば馬宗に分があるように見えたが、最後にその巨躯を小柄の男が組み伏せた。


「勝負は決した!武器を捨てて降伏せよ!殺しはせん、罪は全てこの諸葛恪が許す!」


 ちなみに川岸の戦いでは、陳表は敵に橋頭保の確保を許さず踏み止まり、敵は攻勢限界に達していた。

 つまり勝ったのだ。勝鬨が挙がり、山越の兵は馬宗を置いてまた山中へと逃げ出していく。

 追撃は禁じていた。これで終わりだ。安堵のため息が漏れる。


「…殺せ、頼む、殺してくれ」

「また会おう、馬宗」


 縄を解き、戸惑っている周囲の兵を率いて、諸葛恪は痣と泥だらけの姿で要塞に戻っていった。

 取り残された馬宗は地を掻き、嗚咽を漏らし、涙を流す。

 しばらくすると雨が上がっていた。

 泣きはらした目で馬宗が空を見上げると、鰻にも見える間抜けな顔をした蛇が、四枚の小さな羽根を忙しなく羽ばたかせながら飛んでいたのであった。


 こうして決戦は諸葛恪軍の勝利で幕を閉じた。結果で言えば大勝である。

 万全の準備を施し、優位な地に敵を誘引したのがやはり大きく、敵の狂気的な勢いを殺すべく手を打っていた諸葛恪の戦略が光ったと言える。

 勿論、兵の指揮をしていた陳表、軍政を司った顧承、皆が皆よく働いた結果である。

 その後も山越は抵抗を続けたのだが、明らかにその勢いは弱まった。

 そしてついに、とある一団が山を下り、降伏を申し出ることとなった。


「ご主人様、前線から山越の人達が降伏を申し出てきたとの伝令が。およそ百名ほどの人達です」

「行くぞ」

「はい!」


 ついに敵の士気が折れた。先の決戦の敗走、兵糧攻め、そして例の小細工。

 その積み重ねでようやく、ほんの僅かにだが、彼らの怨恨が解れたのだ。

 諸葛恪は楊甜と共に涇県へと向かい、その一団と直接面会することとなった。

 その百名の者達は皆、痩せて顔色も悪く青白い女性や子供ばかりであり、病にかかっている者も相当数いるらしい。


「貴殿が代表者か。心配するな、この諸葛恪の名のもとにあなた方の安全は保障する」

「ありがとうございます、諸葛将軍」


 ひどく痩せた女性であった。

 彼女は涙を流して頭を下げ、諸葛恪は地に伏せようとする彼女の体を起き上らせる。


「あの、諸葛将軍」

「なんだ」

「こちらを、夫から預かっております。将軍に渡すように、と」


 彼女が懐から取り出したのは地と泥に汚れた紙であり、慎重にそれを開くとそこには「四枚の翼をもつ蛇」が描かれていた。


「その旦那は」


 女性は首を横に振る。諸葛恪はそうかと頷き、そこで面会を切り上げた。

 皆が退出した後、諸葛恪はしばらく自分の描いたその下手な絵をぼんやりと眺めていた。

 楊甜は机の上に暖かな茶を置き、静かにその傍らに立つ。


「なんだお前、用が無いなら仕事しろ」

「ご主人様がずっとここから出ないので、この広間の掃除が出来ません」

「ケッ」

「…これからもっと多くの人達が山を下りてくるでしょうね」

「そうだと良いがな。だが、肝心なのはこの後だ。それを誤れば再び、この怨嗟は繰り返される」

「どうなさるおつもりですか?」


 山に居るのは数十万の不服従民。勿論、諸葛恪が一人で養えるはずもない。

 共に生きる。それは口で言うには易く、行うにはあまりにも困難な道のりである。


「陛下の勅命と法の執行力で、呉人に山越を受け入れさせる」

「違いますよね?」

「…言ってみただけだ」


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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