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天才軍師、顔の良い生首を拾う。~孔明じゃない諸葛さんは怪異の知識で無双する~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志
二章

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一、呉の都 "建業"


 鬼は完全に消えたわけではなかったが、それでも朱桓は少しずつ正気を取り戻していった。

 戦が近づいてきたからか、諸葛恪の対処が功を奏したためか、それはよくわからない。

 酒も完全に辞められたわけではなかったみたいだが、孫権からの書状を居間に飾り、量を少しずつ減らす努力はしているらしい。


 朱桓にしか見えない鬼であった。そうなると諸葛恪としても手の施しようがない。

 であれば朱桓がどうにかするしかない。幸い、悪鬼とは言えど直接的に害を及ぼしていたわけでもなかったのだ。

 まずは鬼が何たるかを知り、知識と儀式で不安を除き、地味で地道な対策を講じる。

 "鬼退治"と言ってしまうと聞こえは派手だが、その実は子供騙しであり、得てして怪異対策の多くはこういうものであった。


「町の人々の間ではご主人様の話題で持ちきりですよ。悪鬼を祓って将軍を救った、仙人の如き天才だって!」

「暢気なもんだ。別に今回、俺は何もしてない。馬鹿にそこらへんで買った変な衣装を着させて、下手な踊りを踊らせただけなのに」

「ひ、ひどい!僕なりに一生懸命だったのに!」


 今、諸葛恪らは宿舎にある私物をまとめていた。もう濡須口に用はなく、都である"建業"に帰るからである。

 とはいえ人員も少ない中せっせと荷物をまとめているのは楊甜くらいであり、諸葛恪はのんびりと茶を啜りつつ書を読んでいた。


 良い天気である。

 絶好の読書日和であると、中庭に置いた座椅子に腰を掛け大きく伸びをした。


「ここに既にあったものは持ち帰らずとも良いが、書簡は全て俺のものだ。綺麗にまとめろよ」

「ひぃ、ひぃ、箱にまとめると重いぃ」

「そういえば楊甜、お前これからどうするんだ」

「どうするって、え、かかか解雇ですか!?」

「あー、うるさいうるさい。そんなこと言ってないだろ。お前は姉を探しに濡須口へ来た。そしてその姉を見つけた今、どうするのかって聞いてんだ」


 以前まで朱桓の屋敷で働いていた楊燕だったが、落頭民であることがバレてしまい解雇されることになってしまった。

 なんでも夜中に首だけで屋敷から外に飛び、楊甜の様子を見に行こうとしたところを朱桓に目撃されてしまったのだとか。

 それでも取り立てて騒ぐことなく穏便に解雇するに留めたのは、朱桓のせめてもの恩情だったのだろう。


「えーっと、姉さん共々ここで働かせてもらうのは…」

「うちにはもう素性明らかな信頼に足る料理番は居るし女手も足りている。いらん」

「あわわ、どっ、どうしよう」

「別に行く当ても頼れる先もないんだな。だったらお前が養えばいいだろ」

「え、僕が?ですか?」

「お前はうちの従者(家臣・郎党)なんだから俸禄も出る。姉一人を養うくらいは出来るはずだ」

「僕に、俸禄が。本当に…?」


 堰が決壊するように涙を溢れさせ、何度目になるかも分からないがまたびえびえと楊甜は泣きだした。

 ただその時に抱えていた箱をゴトッと床に落としてしまい、諸葛恪にけたぐられてしまうことになるのだが、それはまた別の話である。


 こうして諸葛恪の一行は濡須口から引き上げた。目指すは呉の都、建業である。

 荷物を載せた船で長江を渡る。呉はこの長江に沿って築かれた国であり、多くの舟が行き交っていた。

 そしてこの長江を渡って北に広がる平野が"魏"の勢力域であり、長江を遡った先に"蜀漢"がある。

 この穏やかな長江も間もなく、多くの人の死骸の浮くことになるのだろう。諸葛恪は出来るだけこの穏やかな風景を覚えておこうと思った。


「さぁ、ついたぞ。ここが"建業"だ」

「うわぁ…!」


 楊甜は目を丸く見開き、太陽を反射する湖面の様に輝く表情を浮かべていた。

 長江から支流に入るとたちまち民家が増え、人の往来も多くなる。土地の全てに活気が満ちているかのようであった。

 また建業には街を囲む城郭が無く、あっても竹や丸太の柵くらいで、壁というよりは区画の仕切りに近い。

 唯一、建業の西門に聳える"石頭城"だけが、この地の主要な防衛施設と言えた。


「建業は長江の下流に位置する都だ。故に上流からあらゆる物産がここに集中し、豊かさを築き上げているわけだ」

「ここが、呉の都かぁ…」

「楊甜、お前は他の従者らと共に俺の宿舎に入れ。お前のことは既に伝えてある。しばらくは楊燕もお前の部屋に置いて構わん」

「後は僕が働いて、家を買って、そこに姉さんと移ればいいんですよね!よし、よぉーし!!」

「勿論、失態を侵せば解雇だ。死に物狂いで学び、働くことだな」

「はい!!」

「それじゃあ俺は用事があるから、ここで別れるぞ」


 諸葛恪は馬と共に船を降り、楊甜らを見送る。

 行く先は石頭城。諸葛恪は主君である皇太子"孫登"に、帰還の旨を告げないといけなかった。

 

面白いと思っていただけましたら、レビュー、評価など、よろしくお願いします。

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