第1章・パート2:『努力を減らすための努力』
この世界で年月を重ねるうちに、その文化と言葉を覚えた。いとこのミライがいろいろ教えてくれて、正直、僕は「年寄りの頭」のおかげで授業ではいつも目立っていた。たぶん僕が注目をさらったせいで、彼女の気分を悪くさせたかもしれないけど、まあ、気にしない。五歳のとき、父に初めて町を案内してもらった。村人たちと少し話したけれど、あまり友好的ではない。ほとんどが僕を無視し、子どもたちも心を閉ざしている。僕らが暮らす貧しさが、みんなを忙しくさせているのだろう。海辺に着くと、鼻を刺す悪臭がした。殺した死体を海に投げ込む匂いだと推測した。実際、父の仕事も目の当たりにした。サメとヒトデを無理やり合わせたような怪物が現れて、村へ向かって歩き出したのだ。到達する前に仕留められたが、そういう連中は「死ぬ」と体の内側から奇妙な光を放ち、それから海へ投げ込まれる。しかも、しばらくすると同じ嫌な怪物がまた出てくるように見える。複数いるのか、海の底で回復して戻ってくるのか。勇気を出して尋ねてみたが、父は以前と同じ説明を繰り返すだけで、結局わからずじまいだった。
この妙な世界の階層も、だいぶ飲み込めてきた。ミライの話では、この星は二つの地点に分かれて五つの区画がある。僕らがいるのはその一つ、陸地の四分の一を占める巨大な島で、四つのレベルに分かれている。僕が見た城壁は、このピラミッドの「段差」の一つというわけだ。レベル1の僕らは最下層。レベル2には下層階級が住み、そこでは母が他人のための衣服を作っているから帰りが遅い。レベル3はいわば東京やニューヨークみたいな場所で、いくらかマシな「上」側の社会。レベル4には金持ちと王族が住む。女王は地球の存在期間ずっと生きていて、すべてを知っているのだと噂される。にわかには信じがたいが、この世界の魔法を思えば、断言もできない。そして最後に、世界の反対側に小さな島がもう一つ。密林に覆われ、別の文明があるらしい。ほとんど別世界だ。ここではあまり評判がよくないように聞こえる。以上が聞かされた大まかな話だ。村人たちの知らない歴史がまだまだあるに違いない。魔法があってディストピアな社会では、大体そうなる。
正直、これは「自室で小説を読んでる午後」に近い。すべてが奇妙で混乱していて、頭が痛くなる。娯楽らしいものも少ない。電球やガスコンロみたいな道具はあるようだが、テレビも携帯もない。あるのかもしれないが、ここでは手が届かないのだろう。結局、天井を見つめて過ごす時間が多い。婚約者のことを考えたり、あの素晴らしいはずだった年金生活のことを思い出したり。きっと別の人生なら、だ。少なくとも今の僕には無理だ。
八歳になったとき、家族がささやかな祝いをしてくれた。この世界では食べたことのない料理が並び、前の人生以来の味がした……日本の料理だろうか。
「お母さんと私で材料を集めて、私が作ったの」
ミライが優しい声でそう言って、僕の頭をくしゃっと撫でた。まるでこれが僕の「日常食」だと知っているみたいに。そんなはずはない、彼女は僕を子どもとして扱っているのだから。それでもごちそうは見事だった。おにぎり、寿司、お好み焼き。全部、僕ひとりで平らげた。少し後ろめたかったが、どうやら儀式の一種らしい。同じことが、あの子が八歳になった誕生日にも起きた。ただ、本音を言えば、単に取り分が足りないだけにも思える。
翌日、父に森へ連れて行かれた。木の本数は少なく、数えるのに時間はかからない。父は僕に魔法の杖を渡した。木の枝の先端に宝石が付いている。宝石はアメジストに見え、枝には金属片で固定されていた。
「よし、魔法を学ぶぞ。簡単だ。これから言うとおりに唱えろ」
必修なのか。断ろうとしたが、選択肢はなかった。そう口にすると、父の顔が威圧的にゆがんだ。僕は父の真似をして杖を構え、言葉を繰り返した。杖を握った瞬間、痺れるような感覚が体を駆け抜け、全身が震えた。
「ニ・ヒョウザン」
杖の先から氷の塊のようなものが勢いよく飛び出し、中くらいの木を粉砕した。幸い、呪文は小学校レベルらしい。短いけれど効果はある。正直、魔法理論には興味があるが……今じゃない。
同じ言葉を繰り返すと、同じ現象が起きた。ただし震えは強くなった。電流が血管という血管を流れる感じだ。いずれ慣れるのかもしれない。呪文を何度か唱えたら、すぐに疲れ果てた。鍛えればましになるのか、それともこの魔法が根本的に非効率なのか。稽古のあと、杖を近接武器に変形させて戦うのを見たことがあると父に言うと、魔法にはいくつかの系統があり、その一つに武器生成があると教えてくれた。もし魔法をやらされるなら、僕はそれを選ぶ。武器には慣れている。前の人生では父に教わり、父が死んだあとは母に教わった。父の遺したものを継ぐのは僕の責任だと言われてきた。今の父も大差ない。ただ、言葉を多く交わすわけでもなく、情はあまり感じない。母のほうが性に合う。少なくとも、この嫌な場所でも彼女のそばだと少しは落ち着ける。
元素魔法の稽古を続けて、いくつか分かったことがある。正直、この世界のシステムは使えない。いわゆる「魔力の器」の成長は、初めはぐっと伸びるのに、すぐ鈍化していく。山に巨大な岩を押し上げるようなものだ。しかも平均的な人間の容量はお世辞にも高くない。見た限りでは、近接魔法がいちばん効率的だ。マナの消費はほとんどなく、生成される武器の切れ味は相当なもの。もちろん呪文によるが。それなのに、なぜか滅多に使われない。大抵はマナ切れや疲労で追い詰められたときの最終手段。専業でやる魔法使いは指で数えるほどしかいない。信じがたい話だ。
だから僕は、独学で近接魔法を学ぶことにした。父は反対した。不要で役に立たないと言われた。間違いなく役に立つことを証明してやる。僕の経験のほうが、父の安っぽい魔法より上だってことも。何より、こっちのほうが疲れにくい。それが目的だ。要は、知っている技に、少し口上を足すだけ。
数か月が過ぎ、火や水といった基本の元素魔法を教わりながら、同時に武器召喚の呪文も探した。ある日、覚えたことを見せることにした。巨大なタツノオトシゴみたいな怪物が現れたとき、僕は杖の魔力から紫色の斧を具現化し、上に跳び乗って、ひと振りで首を落とした。今度は以前のように光らず、その場で息が止まっただけだった。周りは黙って僕を見つめた。父が近づき、驚いた顔で僕を見た。本当にそんなに難しいのか。冗談だと思っていたのに。その日を境に、僕は父と一緒に働くことになった。強制的に。おまけに九歳で。最悪だ。まあ、前と同じことをやるだけだろうし、ここでは他にやることもない。この若い体の余ったエネルギーをどこかにぶつければいい。悪くないかもしれない。しかも月に千ジェンズもらえる。この世界の通貨だ。
「『 Fire!』と言うと、ウナギとタコが融合したような生き物が一瞬で焦げた。その日はタコのフライを食べた。だから毎日食べ物がこんなにまずいんだ。」




