プロローグ:「人生で一番良くて一番悪い日」
人生の絶頂を迎えた直後に死んだ俺は、なぜかボロボロの病院で赤ん坊として転生していた。言葉も通じず、環境も最悪。これが「二度目の人生」だなんて冗談だろう
ついに、終わった。
私が携わった中で最も大きな病院の竣工式は幕を閉じた。二十ヘクタール以上のコンクリート、ガラス、煉瓦を汗と設計図で積み上げた。鳶や職人、設計仲間たちはまるで全部が自分の手柄かのように私を称えたが、彼らも同じ重さを背負っていたのは分かっている。私にとってそれは別の意味を持っていた。道の終わりであり、これ以上現場で体を壊す言い訳だった。
隣には妻のミラナがいた。笑顔で、疲れていて、誇らしげだった。
「おめでとう、直樹。」病院の理事長がシャンパンの瓶を差し出した。受け取った。あの夜の最後の作り笑いだった。私が本当に欲しかったのは、ただ眠ることだけだった。
車で帰路に着いて十数分もしないうちに、空が崩れ落ちた。黒い雲、雷鳴、松の葉を引き剥がすような雨。家に着き、車を停めた直後、入り口そばの老木に稲妻が落ちた。
衝撃は屋根の一部を粉々にした。火は導火線のように素早く燃え広がった。
「くそ、マジか?」
ガレージへ走った。工具でも救えれば……。乱雑さを呪った。シャベル、ハンマー、斧が山積みになっている。二度目の稲妻は容赦しなかった。松が再び倒れ、半分の棚を引きずり落とした。一本の斧が飛んできて、私の首めがけて一直線に迫った。
世界は黒くなった。最後に見えたのは、私の名を叫びながら駆け寄るミラナの姿だった。
暗闇。かすかな声。機械の唸り。生きているのか?ありえない。説明のつかない一種の意識の揺らぎが起き、そのあと手袋をした手が私をしっかり掴んだ。
必死で目を開けると、身なりの乱れた女性が私を抱えていた。周囲は薄暗く、荒れた古い病院だった。声を出そうとしたが、口から出たのは甲高い泣き声だけだった。
恐る恐る手を見る。小さく、濡れていて、もろい。
その女性は分からない言葉で何かを呟いた。
「――今、俺は…生まれ変わったのか?」
廃れた病院、知らない言語、小さな体。
これはまずそうだ。