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1/10000000の純情な感情

作者: NZ.works

本文の前に、作品情報のあらすじからどーぞ。

 7月上旬。

 急雨に見舞われた直後の独りの帰り道。まだ所々で垂れ込めた雷雲がその存在を大気に轟かせていた。

 そんな空模様とは裏腹に、非日常に敏感な僕たちは期末試験が終わった開放感と、間近に迫った本格的な夏の訪れに、羨望と期待感で密かに胸を踊らせていた。

 ところがその帰宅途中、いつもの曲がり角に差し掛かった時だった。

 その光景を目にした途端、僕の足はピタリと止まり、そして、自らの危険信号が一斉に警鐘を鳴らしたのを感じたと同時に浮ついた気持ちが一変した。


「ねぇ〜、ちょっとで良いから俺たちと付き合ってくんね?」


「ホント頼むよぉ〜。お願いだからさ〜」


「いや……あ、あの……」


 僕の目に飛び込んできたのは、ガラの悪さで名の知れた近くの高校の男子数人が、独りの女子生徒に対して執拗に絡んでいる現場だった。

 なんて厄介な現場に遭遇したんだと、自分の不運を呪った。

 しかし、その中の女子生徒を見て僕はハッとする。

 絡まれていたのは同級生の【稲荷いなりカナミ】だったのである。


 彼女は黒髪清楚で素朴な飾らない美少女。それでいてスタイルも良く、他の女子に比べ大人びて見え、密かに好意を寄せる者も少なくない。

 かたや僕はチビで、メガネで、コミュ症で、これといって大した取り柄も無い。そんな境遇から生まれるストレスやフラストレーションを心の拠り所であるSNSや2次元で発散している。まさに陰キャを絵に描いたような社会不適合者予備群に属する。

 当然、自分で自分を悲観して虚しさを覚えるのだが実際そうなのだから仕方がない。

 ただ、そんな正反対な僕とカナミちゃんでも意外にも接点があったりする。

 小さい頃は家が近かった事もあり、良く一緒に遊んだりもした。世間的にいえば幼馴染に当たるのだが……まあ、これは今じゃ何の意味も持たないアドバンテージだ。


 兎に角、地味で平凡で臆病な僕には、いつも画面越しで観ているイカしたヒーローみたいな力や度胸、正義感といったものは持ち合わせていない事は明白で、助けに入ろうなどという発想は無かった。

 それに、関われば自分がどうなる事になるかなんて考えなくとも分かる。きっと痛い目に遭うに決まっているのだ。それで済んだならまだいい。問題はその後。醜態をSNSに晒されたりなんかしたら心の拠り所が無くなる。いや、僕の居場所はこの世にすら無くなってしまうだろう。

 よって、自分が取るべき行動は一択。

 見て見ぬ振りをするに限る……!!

 カナミちゃんには悪いがそもそもこれは他人の単なる不幸だ。

 わざわざ自分から巻き込まれにいく筋合いなんて無いし真っ平御免だ。

 他人がどうこうなんて知ったこっちゃない。

 例え薄情者と呼ばれても僕には関係の無い事だ。

 そう自分に言い聞かし、僕はいつもの曲がり角を曲がらず、現場を避けるようにそのまま直進した……。


「だから言ってるだろぉ? 俺たちと遊ぶだけだって。テストも終わったんでしょ? だったら何の問題もねーじゃん!」


「そうそう! ほらっ! 行こ行こ! 早く行こうぜ!!」


「その……は、離して……離して下さい……」


「なぁ良いだろぉ? なっ? なっ? 少しの間だけでいいからさぁ〜」


 尚も彼女は彼らの要求を必死に拒むが、彼らは一向に引こうとはしない。むしろ強引さは増していく一方。


「助け……て……誰か………助けて……!」


 その瞬間、僕はカナミちゃんの言葉に釣られて思わず振り返ってしまった。

 すると、無理矢理連れ去られようとしているカナミちゃんとバッチリ目が合った。

 その悲哀に満ちた表情は僕の良心に強く訴え掛けるもので、逃避を決めた僕の心に激しい動揺を誘うのだった。

 しかし、カナミちゃんの様子に違和感を感じた男子数人が周りを気にし始めたのを見て、焦った僕は瞬時に視線を戻した。


 "僕は弱い人間だから"


 そう強く自分に言い聞かし、僕は逃げるようにしてその場から立ち去る。

 次第にその場の雰囲気が遠退とおのいていくのを背中で感じつつも、カナミちゃんのあの悲哀に満ちた表情が脳裏にこびり付いて離れず、本当にこれで良かったのかという気持ちで僕の胸は強く締め付けられていた。


 ーーーその時だった!!

 突然、脳天から末端に至るまで灼けるような熱さと痺れを伴う衝撃が走ったのと同時に、僕の視覚と聴覚が奪われた。

 直前に、痛みを伴うほどのまばゆい閃光と、空間が割れるんじゃないかと思うくらいの轟音を耳にした事から察するに、僕は雷の直撃を受けたんだと自覚した。


「あっ…………死んだ」


 僕はシンプルにそう思った。

 何せそんなものをまともに食らったならば、人間誰しも生きてはいられまい。

 ……そういえば何かで聞いたことがある。人間が雷に撃たれる確率は100万分の1らしい。

 そんな万が一にも満たない確率で命を落とす事になるだなんて……もし、この世に神がいるんだとしたら、これはきっと神からの天罰が下ったに違いない。


 そうこうしているうち、段々と奪われていた視覚と聴覚が戻って来た。

 あれだけの自然の脅威を受けたにも拘らず感覚が戻って来ようとは。けれど、この体はもう命辛々(いのちからがら)生き長らえている状態に過ぎない。何せ今、痛みは無いが全身の至る所でピリピリとした鋭い刺激を受けているのだから……。

 そう思っていたのだが、完全に感覚を取り戻したその時、偶然足もとに広がる大きな水溜りに写った自分の姿に、僕は我が目を疑った!!


「なんだ……これ?……すごっ」


 驚いた事に、なぜだか自分の体が青白く発光していたのである!!

 時折、自分の周りに小さな稲妻が走る。ピリピリの正体はこれだった。

 どうやらこの体は雷を帯びている状態らしい。

 僕はてっきり高電圧の雷に焼かれて真っ黒焦げにでもなっているのだとばかり思っていたのに、一体なぜこのような状態になったのか。

 雷に撃たれた影響なのだとしても、こんな理屈に合わない事が起こる筈ないって事は、知性が足りない僕でも分かる。

 敢えて答えるとするならば、こんなのはアニメやゲームの中だけの話という事だ。


「アニメ、ゲームの……中?」


 僕はハッとした。

 この厨二独特の発想が思いのほか的を得ている事に!

 だったらと、一度その考えに乗っかってみるのもアリかと考えたシュンは、早速状況を整理しに掛かる。


 もし仮に、アニメやゲームといった非現実世界で起こるような事がこの現実世界にいる僕にだけに起こったとしよう。


「これって、つまり……か、【覚醒】……!!」


 ああ、なんて厨二心をくすぐる響きなんだ。と、胸にグッとくるものを感じずにはいられなかったが、今は余計なので頭から除外する。

 っていうか、さっきからこの身体に起こっている様々な変化に僕は驚いている。

 というのもマニュアルやチュートリアルみたいなものが自ずと感覚イメージとして伝わってくるのだ!


 どうやら今の僕は、雷に撃たれた影響で体内の電気信号や何やらが変異し、体を構成している全ての細胞を目紛めまぐるしく活性化させているらしい。

 その恩恵としてアニメやゲームにあるような雷を使った攻撃が可能になっている事や、身体能力や動体視力が飛躍的に向上しているの事が理解出来た。

 更には精神面にも作用しているようで、今は冷静でありつつ適度な高揚感を残し、驚くほど自信に満ち溢れている。

 今なら不可能なんて無いとさえ思えるほどに!

 ならばと、とんでもないポテンシャルを秘めている今の僕ならカナミちゃんを助ける事が出来る!!

 そう思い立った時、シュンは理解する。

 これは神が下した【天罰】などではなく、僕に与えた契機チャンス。言わば【贖罪】なのだと……!!




*******




「ビ、ビックリした〜……」


「おい、今そこを曲がった所に雷落ちたんじゃね?」


「そ、相当近かったよなぁ!? やっば!!」


 カナミを連れて行こうとする男子高校生たちは、目と鼻の先で発生した凄まじい落雷について、口々に驚きの声をあげていた。


「ホラっ、こんな所危ねぇからさ、さっさと俺たちと安全なとこ行こうぜ?」


「そうそう! 行こ行こ可愛い子チャン!」


 彼らに気圧され身も心も萎縮してしまっているカナミは、抗う事も出来ず泣く泣く身を委ねるしかなかった。


「ちょっと待って下さいよ先輩方! 彼女、嫌がってるじゃないですか!」


 突然、背後から呼び止められた一同は足を止めて振り返った。すると、曲がり角から一人の少年が姿を現した。


「んだよテメェ? 誰だよ!?」


 少年の言動が癪に触った男子の一人が、少年に対しガンを飛ばした。


「えっ!? シュ、シュン君!?」


 カナミは我が目を疑った!

 何せ、普段の彼からは全く想像できない行動だったからだ。


「そうだよね? カナミちゃん」


 驚きを隠せないままのカナミはシュンの問い掛けに小さく頷いた。


「何ぃ? シュン君? あいつアンタの同級生かよ」


「へぇ〜……君、カナミちゃんって言うんだぁ。名前も可愛いんだね」


 そう言って別の男子はカナミに顔近付けてまじまじと見る。


「や、やめて下さい……」


 カナミは堪らず顔を背けるようにして嫌がる素振りを見せる。


「シュン君って言ったっけ〜? カナミちゃんはこれから俺たちと一緒に遊びに行くの。邪魔しないでくれるかなぁ?」


「でも嫌がってます。嫌がる子を無理矢理連れて行くのは良くないですよ? 離してあげたらどうです?」


「んだよガキが偉そうに! 一丁前に調子こいてんじゃねぇぞ!? ヒーロー気取りかよ!?」


「おい、こんな奴相手にする事ねぇって。放っといて行こうぜ……」


 シュンを邪険にする者たちは仲間の一人に促され、文句を垂れつつ再びカナミの手を強引に引っ張りこの場を後にしようとする。

 どうやら彼らは素直にシュンの要求に応じる気は毛頭ないらしい。


「ほんと、か弱い子に寄ってたかって……みっともないですよ?」


「あぁん!? 何なんだよテメェはさっきからぁ!!」


「っざけんじゃねぇーぞコラァ!!」


 シュンが言い放った挑発的な言葉に、高校生たちは怒りを露わにする!

 それでもシュンは全く意に介する様子も無く、毅然とした態度で不敵に笑っている。


「なんかお前見てっと腹が立つわぁ……」


「ちょっと痛い目見ねぇーとわかんねーらしいな!」


「いいじゃん! やっちまおうぜ!! マジで!」


 両者の間に一触即発の雰囲気が漂う。

 その時、仲間の内の一人がシュンの違和感に気が付いた。


「おい、アイツなんか光ってね?」


「はぁ〜? 何言ってんだよ? んな訳ねぇだろうがよ!」


「いや、ホラっ! 体が青白く……それに、バチって音がしてる」


「んだよ、ビビってんのかぁ?」


「はぁ? あんな陰キャ野郎にビビる訳ねーだろ! ワンパンよ! ワンパン!!」


 男はケラケラ笑いながら握った拳を自分の掌に打ち付ける。


 緊迫した空気に耐えきれなくなったのか、それとも責任感からなのか分からないが、居ても立っても居られなくなったカナミは、いつの間にか拳を握る男の腕を抑えていた。


「や、やめて下さいっ!! 暴力は止めてっ!!……行きますから!! 私、アナタたちについて行きますからっ!!」


「んだよ! 放せよ!!」


 無理矢理放り払おうとする男子の腕を放すまいと、カナミは負けじと必死にしがみ付く!


「カナミちゃん、大丈夫。僕は負けないから!……これが終わったら、一緒に帰ろう」


「シュン君……」


 シュンのその大した自信がどこから来るのか分からないが、信じてみたくなったカナミは、再度振り払われたのを最後にしがみ付くのをやめるのだった。


「あ〜〜……!! ほんとムカつく!! その態度!! まるで俺たちが悪者みてぇじゃねぇか!!」


「マジで調子に乗ってんじゃねぇぞ!! オラァ!! 覚悟しろやーーっ!!」


 男子高校生たちは威勢を撒き散らしながら一斉にシュンのもとへと迫って行く!!


 シュンは静かにゆっくりと息を吐き、意識を集中させて雷の力を発現させると、たちまちシュンの体はバチバチと音を立てながら青白い雷光をまとう。


「ちょっ!? 何だあれ!? ま、眩し……!!」


「マ、マジでどーなってんだっ!?」


 シュンの変貌ぶりを目の当たりにした者たちは皆、同じ事を想像していた。

 あれはまるで【スーパーな戦闘民族】だと……!!

 たじろぐ男子高校生たちの後ろで、カナミも驚きの余り言葉を失っている。


「ほらっ! 俺の見間違いじゃなかったろ!?」


「あいつヤベーって!!」


「ん……んん、んなもん、か、関係ぇねーーーっ!!」


 それでも相手に喧嘩を仕掛けた手前、後には引けなくなった男子は、俺に続けとばかりに先陣を切る!


「……ま、まぁ所詮陰キャだしな!」


「み、見た目が変わったからって、他は何も変わんねーわな!」


「よっしゃあ! やっちまえーーっ!!」


 シュンに向かって来る高校生たちは全員で5人。ほぼ縦1列、順番に迫り来る!!

 シュンは強化された動体視力で状況を瞬時に見極める。

 先頭は拳を振り翳すモヒカンちっくな髪型の男。自分の間合いに入ったところで走って来た勢いを乗せた拳で殴ろうとしている。


「ははぁん? やっぱビビって動けねぇか? 人を殴った事も無ぇ厨二病野郎がぁーーーっ!!」


 だがここでモヒカンちっくよりも先にシュンが仕掛ける!

 今度は強化された身体能力によってモヒカンちっくとの距離を一瞬で詰めて懐に潜り込む!


「……なっ!?」


 モヒカンちっくにとっては、シュンが瞬間移動したように見えただろう。

 シュンはそのままモヒカンちっくの鳩尾みぞおち辺りに手のひらを当てがう。


「厨二病をナメないで下さい! こういうシチュエーションは散々イメージトレーニングしてるんですよーーーーーっ!!」


 バチバチバチッ!!……という激しい電撃音が周囲に鳴り響くとともに青白い閃光が迸る!!

 直後、モヒカンちっくは腹を抱えるようにうずくまる!


「ガハッ!!……痛って……………ぐぅぅぅ!…………痛ってぇ!!……ハァ!、ハァ!……ウッ……!!」


 モヒカンちっくは苦悶の表情を浮かべ、呼吸も満足にままならない様子。

 驚いた事にシュンが与えた電撃は、相手を一撃で行動不能に陥らせた!!


「ええっ!? な、何が起こったんだ!?」


「あいつ、簡単にやられちまった……」


 他の高校生たちは陰キャが引き起こした予想外の出来事によって狼狽うろたえる。

 一方で、カナミは憂いを含んだ顔でシュンを見ていた。

 シュンはカナミが自分を見ているその目がどういう目なのか良く知っていた。


 シュンは思う。

 あれはこれ以上の酷い仕打ちをするのかという前途を危惧する目であり、事の次第では軽蔑へと変わる。胸中はきっと不安で行く末を案じているのだろう。

 でも大丈夫。僕もその辺は心得ている。

 ある有名なキャラクターが言っていたセリフにこんな言葉がある……。

 "力というのは誰かを傷つける為のものではなく、誰かを守る為のもの"だと……!!

 全くその通りだと思う。

 なので見せしめならこれで充分なのだ。


「グゥッ……ハァ、ハァ……お、俺は…………や、やられてなんか……ねぇ……ク、クソッ!!」


 尚も強がりを見せるモヒカンちっく。見兼ねた仲間たちは無念を晴らそうと躍起になる!


「この陰キャ野郎ぉっ!! やりやがったなぁーーっ!!」


「チクショー!! 許さねーーーっ!!」


 残念ながら見せしめにはならなかったようで、やむを得ず沈静化を図る。

 シュンは立てた人差し指を前に突き出すと、迫り来る高校生たちに狙いを定める。


「……熱っつ!!」


 シュンに迫る高校生のうちの一人は、相手の人差し指からアーク溶接時に発生する音とアーク光のような光が見えた途端、左の耳朶みみたぶが一瞬にして熱くなったのを感じ、思わずたじろいだ!


いたっ!!」


「ぐあっ!!」


「うわっ!? 何だ!?」


「あ、熱ちぃ!?」


 それから同様の光が指先から放たれる度、他の男たちも相次いで似たような被害に見舞われる!

 一体、自分たちは何をされたのか。訳も分からぬまま自ずと戦意を喪失してしまうのだった。


「お前……俺たちに何しやがった!!」


 未曾有の恐怖に苛まれながら男の一人がシュンに尋ねた。するとシュンは見下すような態度で口を開いた。


「皆さん弱点が剥き出しなんですよ……」


 そう言ってシュンは彼らが痛みを感じた箇所を順に指し示していく。

 彼らは気付く。熱さや痛みを感じた箇所にはピアスや指輪、ネックレスといった金属製品を身に付けている事に。

 シュンは迫り来る彼らに対し、人差し指の先から電気を放出させて、電気伝導率の高い金属を狙って感電させていったのだ!


「マジでやべぇぞコイツ……!!」


「こんなの……あり得ねぇ!」


 高校生たちは相対した者との圧倒的な力の差を思い知っていた。


「お、俺は……まだ…………このままじゃ……す、済まさねぇ……ぞ……」


 依然、反抗的な態度を見せるのはモヒカンちっくだった。彼は最早もはや意地になっているようであった。


「まだ、わかりませんか」


 ハァ〜……と深い溜め息を吐いたシュンは天に向かって手のひらを掲げた。すると、風が吹き始め瞬く間に激しさを増していくと、今度はポツポツと雨が降り始めた……!


「こ、今度は何だ……?」


「おいおい……嘘だろ!?」


 次第に、上空には真っ黒い雲が渦を巻き始めゴロゴロと雷鳴が轟き、辺り一帯は嵐と化す!!


「シュン君……」


 強い雨風に耐えるカナミは、シュンの動向を固唾を飲んで見守る。


「な、なななななな何を仕出かそうとしてるか知らねぇが、お……俺は諦めてねぇから!! お前をブッ倒して連れて行くからなぁ……!!」


「そうですか。では覚悟して下さい!」


 この期に及んでまだそんな事を言って退ける諦めの悪さに、シュンはしかるべき処置を下す意思を固める!

 すると、シュンの体に纏う青白い雷光はより一層輝きを増す!!


「さぁ、行きますよ。必殺っ……!!」


 シュンのその言葉を聞いた途端、男たちは恐怖の余り身体をすくませる……!!

 しかし、おかしな事に待てど暮らせど何も起こる気配が無く、不思議に思った男たちは恐る恐る目を開けてみる事にした。


「……え〜〜っと、う〜〜〜ん……いや、違うな……」


 見ると、陰キャ野郎はブツブツとボヤきながら何かを決めあぐねている様子だった。


「ど、どした?」


「さぁ?」


 それから途轍もないエネルギー量を維持したまましばらく経った頃だった。


「……あっ、そうだ!」


 シュンは何か思い出したかのような反応を見せると、掲げた手を勢いよく振り下ろした!!


「よーーーしっ!! 必殺っ!! (うえ)(うえ)(した)(した)(ひだり)(みぎ)(ひだり)(みぎ)BビーAエーーーーーッ!!」


「「「「「えぇーーーーーーっ!? ダ、ダッサーーーーーッ!!!」」」」」





 ーーーバリバリッ!! ドォーーーーーーーーンッッッ!!!……





 想像を絶する技名に面食らう高校生たち。だが次の瞬間、"世界が終わる"そう思わざるを得ない一撃が、シュンの手によって彼らのすぐ目の前に落とされた……!!

 今まで味わった事の無い凄まじい閃光と轟音に驚き、堪らず卒倒してしまいそうになる!!

 案の定、しばらくの間高校生たちは放心状態のまま落雷箇所をを見つめていた。

 まるでギリシャ神話の最高神ゼウスが放つとされるいかずちの如き一撃は、地面を深くえぐり、黒く焼け焦げた痕跡を残し、その恐ろしさをまざまざと見せ付けていた。


「さて先輩方。これに懲りたらカナミちゃんに手出ししないで下さいね」


 シュンは彼らに対し微笑みながら語り掛けた。しかし、そのニヒルな笑い方は彼らにとって大層薄気味悪く映る。


「ヒィッ!? なんかもう色々とヤベェよコイツ!!」


「ガ、ガチで相手にしちゃいけねぇ奴だぁ!!」


「逃げろ! 逃げっぞーーー……!!」


 そう言って男子高校生たちは尻尾を巻いて脱兎の如く揃って逃げ出すのだった……。

 そんな彼らを見送るシュンは、フゥと溜め息を吐くと、纏っていた青白い雷光を消し去った。


 厄介者が居なくなり、その場に残されたシュンとカナミの2人……。

 何とも言えない雰囲気が漂い、お互いギクシャクする。

 ……とここでシュンは今になって自分が思いも寄らない事態に直面している事に気付いた。

 何しろシュンは"カナミちゃんを助ける"その一心で事に及んだ手前、後の事など考えていなかったからである。

 唯でさえ疎遠になっていた幼馴染がいきなり理解不能な力で不良たちを圧倒した訳だ。カナミちゃんにとってはシュンの存在は異様な存在に思えて当然だろう。

 シュンは決意する。

 決して信じてくれとは言わないが誤解があれば解かなければと思い、誠心誠意自分に起こった現象について洗いざらいカナミに話した……。


 いつしか空は晴れ渡り、辺り一帯は小暑しょうしょ特有のだるい湿っぽさと初々しい暑熱が混じった独特の賑わいを見せていた。


「……という事なんだ。怖いよね、僕のこと」


 シュンは終始カナミの顔を見て話が出来なかった。話をしているうち自分を見るカナミの目が忌み嫌うようなものを見る目になるんじゃないかと思い怖くなったからだ。


「ううん。怖くないよ……。だって、私を助けてくれたんだもの。…………ありがと! シュン君!」


「……へ?」


 シュンの想いとは裏腹に、カナミの言葉は至って肯定的だった。むしろ感謝までされた。

 その瞬間、シュンの心は立ち所にパァっと明るくなるような気がした。

 報われた。良かった。安心した。嬉しい。

 幸福の余り独り感傷に浸っていると、突然カナミがゆっくりと恥ずかしそうにシュンのもとへと歩み寄って来た。そして、顔を近付けそっと耳打ちをする。


「さっきの必殺技、【ライトニング・デス】の方が良いと思うよ……」


「……えぇっ!!?」


 思いも寄らない出来事に、シュンは脳内は処理が追い付かず時間差で驚嘆した!

 呆気に取られる僕を見て、彼女はフフフと笑う。

 まさに青天の霹靂。

 彼女の真意は分からないが、こうしてまた以前のように話せるようになって良かったと思う事にした。


「じゃあ、帰ろうか」


「……うん!」


 そしてまた、カナミはニッコリと笑った。


 この日、雷に撃たれたのは僕だけではない事は、仄かに赤く染まった彼女の頬を見れば一目瞭然だった。

読んでいただき誠にありがとうございます。

皆さんと貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


NZ.works初の短編作品になります。

この短編を書こうと思ったきっかけは、以前から『俺TUEEE』が書きたいと漠然と考えていたところに、ある日突然プロットが舞い降り、その衝動のまま形にしたって感じです。ですのでタイトルは適当です。(爆)


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