第9話 ひとりでも、ちゃんと届いてる気がした
「――魔導通信、起動。配信スタート」
緊張で、指先が少し震えていた。
スタジオじゃない。コラボ相手もいない。
今日は完全に“ひとり”。
ギルドの裏にある静かな丘で、私は空を背景にカメラを構えた。
「えーと……どうも、リオナです。ひとりで配信するの、実はこれが初めてです」
言葉がぎこちない。テンションも不安定。
でも、昨日レオンと話してて思った。
“無理して作った自分”じゃなくてもいい。
そのままの自分で、伝えていけばいい。
「……まあ、誰も見てないかもだけど。今日は軽く雑談します」
草を踏む音と、風の音だけがマイクに乗る。
魔導石のウィンドウに、何も映らない。
コメント欄も、無反応。
(……やっぱ、こんなもんだよね)
前世でも最初はそうだった。
ゼロ人に向かって話すあの空虚な時間。
だけど。
数分後、ふっとコメント欄に文字が浮かんだ。
> 《また耳ピクの子だ!》
> 《昨日のコラボの子でしょ?》
> 《ひとり配信、緊張してる?》
「……えっ」
思わず声が漏れた。
コメント、来てる。
しかも、知ってる人たちだ。
「う、うん、ちょっとだけ緊張してます……でも、がんばってます……!」
打てば響くように、またコメントが返ってくる。
> 《そのままでいいよー》
> 《耳の動きだけで10点》
> 《レオンのとこで見たけど、単独でもいけそうじゃん》
「……ありがとうございます」
たった数人。
でも、ちゃんと“ここ”にいる。
目の前にいなくても、
向こうで見てくれて、返してくれる。
それが――配信だ。
私は草の上に腰を下ろして、カメラに向かって笑った。
「今日の話題は、そうだな……“スライムから逃げる時、どの方向に走れば安全か”について……」
> 《またその話w》
> 《逃走配信系V》
> 《まずは武器持とう?》
「いやホント、それはそう」
笑いながら、私はしゃべり続けた。
話題は脱線しまくったけど、それでも配信は続いた。
1時間後、魔導石の通知が光る。
フォロワー:89人。
同時接続:9人。
コメント数:48。
思ったより、多かった。
「今日は来てくれてありがとうございました。
また……できたら、やります。ひとりでも、けっこう楽しかったので」
配信を切って、私は空を見上げた。
青い空に、浮かぶホログラムの広告が風に揺れている。
誰かが私を見てる世界。
その事実だけで――少しだけ、胸が温かくなった。
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