第71話 ビートに乗せて、しゃべるだけ!
《配信が開始されました》
「おっしゃー! ノルディア代表! ザン=サラウィア、いくぜ!」
最初のひと声からテンポ全開。
映像には、サングラスをかけた黒髪の男――ザンが、リズムを取るように椅子に座っていた。
片足で軽くテンポを刻みながら、マイクに向かって語りかける。
「3時間の雑談タイマンバトルだってよ? え、余裕じゃね?」
> 《テンポがザンで草》
> 《いつも通りで安心する》
> 《この軽さが逆に怖い説》
「まあでも、せっかくの大会っしょ。普段通りっつっても、少しはちゃんと語ってみっか」
「今日はリズムは使わねぇ。言葉だけでいく。言葉だけで、音作るから」
そう宣言した彼の目が、ふとモニターのコメントを捉える。
> 《いつもと違う!?》
> 《え、歌わないの?》
> 《まさかのノー音楽構成》
「いや、あのな。オレの音楽ってのは、曲流さなきゃ始まんねぇってもんじゃねぇんだわ」
「話し方、間、ノリ。全部がリズム。それでどこまで魅せられるか――試してみるって話!」
◆◇◆
「でさ、最初の話題。やっぱ“出身”についてかな?」
「ノルディア出身。だけど昔はぜーんぜん日の目見てなかった」
「今みたいに、音と喋りで勝負するなんて、誰にも理解されなくてよ」
「“踊ってるだけでうるさい”とか、“戦闘向きじゃない”とか――ま、ボロカスよね」
> 《わかる、昔から知ってる》
> 《今でこそだけどなあ……》
> 《でもザンの配信、刺さる人にはめっちゃ刺さるのよ》
「でもさ、そこで腐らなかったんよ」
「むしろ逆。だったら“自分のやり方で戦える方法”を作っちまえばいい、ってな」
「試行錯誤して、自分で組んだんだ。“魔導マイク”ってやつを」
「音波を魔力で干渉して、攻撃に変える。リズムで空間に魔法のエフェクトを乗せて、観客と敵の両方に響かせる。そういう理屈でな」
> 《自作かよ!?》
> 《まさかの技術者系》
> 《戦闘魔導具開発してたとかガチすぎる》
「魔導工房の知り合いにちょっとだけ手伝ってもらったけど、設計も調整もぜんぶオレだ」
「“音で戦う”ってコンセプトを、ガチで形にしたんだよな」
◆◇◆
「で、今日はその音を封印して喋ってんだけどな!」
> 《説得力えぐい》
> 《喋りがもう“グルーヴ”なの草》
> 《音使いが喋っても音使い》
「そいやさ、質問いい? この大会で、勝ちたいと思ってるヤツってどれくらいいんだろ」
コメントがざわつく。
> 《そりゃみんな勝ちたいでしょ》
> 《でもそれぞれ目的違うよな》
> 《ザンはどうなの?》
「オレか? そりゃ勝てたら嬉しいけどさ――ぶっちゃけ“音”で誰かに届いたら、それだけで勝ちみてぇなとこあるよ」
「今回みたいな“喋り勝負”でも、それが伝わるんなら上等だろ?」
「……あとは、そうだな。リオナちゃんにちょっとでも刺激になったらいいなーとか」
不意に投げられたその名前に、コメントが少しだけ沸く。
> 《リオナ!?》
> 《おおおお》
> 《これは推せる……!》
「ま、言っちゃったからにはがっつり見ててくれよな、リオナちゃん」
「オレの“音”はまだ封印してっけど、喋りの“ノリ”なら全開だから!」
◆◇◆
「そろそろ時間か。3時間って言われて“喋るだけとかムリだろ”って思ったけど……」
「案外、話し出すと止まらねぇんだな。喋りも音だって、ホントに思えたわ」
「ってなわけで! ここまで見てくれたみんな、ありがとな!」
「ノルディア代表、ザン=サラウィアでした!」
> 《お疲れ!!》
> 《めっちゃノリよかった!》
> 《普通に感動したのズルい》
魔導字幕に“配信終了”の文字が浮かび、画面が静かに暗転する。
次なるリズムを――誰かが引き継ぐそのときまで。
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