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第69話 暴露と丁寧の境界線

《配信が開始されました》


 


「皆さま、こんばんは。リオス王国から参りました、カリナ=クラウスと申します」


 


静かで、澄んだ声。


丁寧で柔らかく、どこまでも整った語り口に、コメント欄が一瞬でざわつく。


 


> 《きた》

> 《このトーンで暴露くるの、毎回心臓に悪い》

> 《“刺さる”のに“穏やか”なのすごいよな……》


 


「今夜は、“雑談”ということで、皆さまと少しだけ、“最近の話”を共有させていただこうと思います」


 


「もちろん、あくまで“私の見聞きした範囲”での話にすぎませんが――」


 


その前置きだけで、誰もが画面に釘付けになった。


 


 


◆◇◆


 


「まずは、“とある地方都市での無許可コラボ配信”について」


 


> 《うわ……そこから入るんだ》

> 《あれ絶対揉めてたやつじゃん》

> 《名前出してないのに全員分かるの草》


 


「先日、小規模ながら注目を集めたコラボ配信がございました。ですが、その実、事前の同意や合意のない“即興共演”だったというお話を伺っています」


「片方の配信者様は“乗ってきてくれたからノリで続けた”とのことでしたが――」


 


「結果的にその後、関係が断絶したまま修復されていない、というのが現在の状況のようです」


 


> 《仲良くやってると思ってた》

> 《視聴者の前だけだったんか……》

> 《怖すぎるでしょ裏事情》


 


「こういったケースを見ると、つい“視聴者が見たい関係”と“本人たちの関係”とのギャップを意識してしまいますね」


「共演は、“信頼関係”の上にこそ成り立つものだと思います」


 


 


◆◇◆


 


「……さて。ここで少しだけ、紅茶をいただきますね」


 


カリナが手元にあるカップに視線を落とす。ゆったりとした仕草で、ティーカップを傾ける。


その一連の動作もまた、計算されているかのように美しかった。


 


「本日いただいているのは、ローズヒップとカモミールのブレンド。以前、あるストリーマー様が配信中に“大絶賛”されていたもので……」


 


> 《また始まったw》

> 《その話題はアウトではwww》

> 《案件か案件じゃないか、さては》


 


「はい。お察しの通り、あのとき紹介されていた方々のうち、何名かには“事前提供と条件提示”があったようです」


「条件の中に“ネガティブ表現の抑制”が含まれていたかどうか――それについては、明確に記録が残っていないそうですが」


 


「視聴者様が“自然な感想”と思っていた言葉が、果たして本当にそうだったのかどうか……考える余地はあるかもしれませんね」


 


> 《企業案件の闇だ……》

> 《こういうとこマジで信用しなくなるやつ》

> 《ていうかどこから情報拾ってくるのw》


 


「ちなみに、私はこの茶葉を自分で買って試しております。味についての評価は――個人差があると思いますので、差し控えますね」


 


> 《地味に一番怖いやつw》

> 《“言ってない”のに“伝わってる”》

> 《暴露の上品さが段違い》


 


 


◆◇◆


 


「では、少しだけ質問にお答えいたしましょうか」


 


魔導字幕に表示されたリスナーからの質問を、カリナが指差す。


【Q:仲の良いストリーマーさんは誰ですか?】


 


「仲が良い、というのは、少し表現が難しいですね」


 


「“信頼している”という意味で言えば、言葉の選び方が丁寧で、裏でも変わらぬ対応をされる方には、一目置いております」


 


「逆に、表でリスペクトを見せながら、裏で愚痴を吐く方とは、あまり距離を詰めたくはありません」


 


一切名前は出していない。けれど――それでも思い当たる人は、少なくない。


 


> 《あー……あの人かな》

> 《裏と表って、配信者の永遠の課題だよな》

> 《これ言われてる当人、気づいてるのかな……》


 


「繰り返しますが、これはあくまで私の価値観です。どのスタイルが正しい、というわけではありません」


 


 


◆◇◆


 


「最後に、一つだけ……私的な話を」


 


それまでの配信とは、わずかに空気が変わった。


カリナはゆっくりと、伏し目がちに語り始める。


 


「昔、一緒に活動していた方がいらっしゃいました。よくぶつかりもしましたが、互いに高め合える、そんな関係だったと思っています」


 


「けれど、その方はある日、配信をやめてしまいました。前触れもなく、突然に」


 


「連絡も取れなくなって……本当に、姿を消したみたいに」


 


一瞬だけ、間が空いた。


視線が揺れ、少しだけ呼吸が深くなる。


 


「今もどこかで、元気にされていたら。それだけで、私はもう十分です」


 


> 《これガチのやつか……》

> 《最後に刺してくるの、ずるい》

> 《これだけは“本音”なんだろうな……》


 


「本日は、お耳をお貸しいただきありがとうございました」


「リオス王国代表、カリナ=クラウスでした――また、お会いできる日まで」


 


魔導字幕に「配信終了」の文字が浮かび上がり、画面は静かにフェードアウトしていく。


その余韻は、確かに“重く”、しかしどこか“心地よく”残されたまま――。

チャンネル登録ブクマと高評価と感想(コメント)で応援よろしくお願いします!次回配信も読みに来てください!

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