第67話 天真爛漫な
《配信が開始されました》
「やっほーー! ゼミル連邦代表、エリザでーすっ!」
配信が始まると同時に、画面いっぱいに飛び込んできたのは、満面の笑顔と大きなリアクション。
ツインテールがふわっと跳ね、全身から「元気」があふれている。
「今日はねー、雑談オンリーってことで、ぜーんぶ素でいくよ!」
「でも、素って言っても……アタシの素って、たぶんちょっと“うるさい”かも? ま、気にしない気にしないっ!」
> 《冒頭10秒でテンションにやられたw》
> 《いつもの元気すぎて逆に安心する》
> 《うるさいけど不思議と心地いいんだよな》
背景はシンプルな白壁と、ナチュラルカラーのソファ。
装飾も何もない。けれど、彼女が映るだけで画面がにぎやかに見える。
「えーっとね、最初の話題は……“失敗配信ベスト3”いっちゃおうかなっ!」
> 《それ昨日の前フリ通りかw》
> 《定番だけど気になるw》
「第3位はー……カメラ逆さ事件っ!」
「当時まだ配信始めたばっかで、セッティングもよく分かんなくて!」
「気づいたら、顔がずっと上下逆で固定されてたの!」
> 《天井かわいいw》
> 《あの回で逆にファン増えたやつ》
「いやほんと、コメントで“新しい演出だと思った”とか言われて、ガチで泣きそうだったからね!?」
彼女は身振り手振りも交えて、テンポよく話し続ける。
言葉の間がとにかく気持ちよくて、視聴者の反応と噛み合っていく感じが、もう“ライブ感”の塊。
「第2位はねー、“声が出なかった日”!」
「風邪じゃなくて、寝起きでマジで声がカッスカス!」
> 《あーあったw》
> 《逆にASMRっぽくなってたやつw》
> 《ガラガラなのに元気はあったの草》
「“今日どうしたの?”ってコメントばっかりで、うっかり“声出ない~”って書き込んじゃったくらい!」
「自分で自分の配信にコメするなって言われた! 反省した!」
> 《可愛いは正義》
> 《でもそういうとこも含めて好き》
「そして……栄えある(?)第1位は……“寝落ち配信”!」
「っていうか、配信開始ボタン押してから布団入って、数分後にはもう夢の中でした! えへっ☆」
> 《はいアウトw》
> 《逆に寝息助かるってやつ》
> 《あれで登録者伸びたの意味わかんない》
「いやもう! “寝息フェチ向け”とか勝手にタグついててマジ恥ずかしかったんだから!」
(……すごい)
(話題自体はよくある“失敗談”なのに、間の取り方、表情の使い方、そしてコメントとのキャッチボール……全部が“エリザの空気”になってる)
(こういうのが、“喋るだけで魅せる”ってことなのか……)
控え室のモニター越しに、私は思わず見入っていた。
「じゃあ次は、“初配信で泣いた話”いっちゃおうかなー!」
> 《またエモ方面きた》
> 《急に感情揺さぶってくるな》
> 《ギャップで殺す気か》
エリザはそこで、ふっと一瞬だけ息を吸う。
それまでのテンションを少しだけ緩めて、穏やかな声で語り始めた。
「最初の配信ね、ほんとは誰も来ないと思ってたの」
「ただの一般人だったし、話すことも下手で、誰にも届かないって思ってた」
「でも……1人、コメントくれたんだ。“こんばんは”ってだけの」
> 《エモい……》
> 《初心って大事だよね》
> 《なんか泣きそうなんだけど》
「たった一言だったのに、画面の向こうに誰かがいるってわかって……声、震えて、気づいたら泣いてた」
「だから今も、こうやって“話す”ことを続けてるのかも」
コメント欄が一気に静まり、じんわりとした空気が画面を包む。
それでもエリザは、変わらず笑っていた。
「……そんな話でしたーっ!」
「さーて、まだまだ三時間あるからね! 次の話題は、“ゼミル連邦あるある”いってみよー!」
一転して明るく跳ねる声と動き。
感情の切り替えがスムーズすぎて、視聴者たちの心がそのまま揺さぶられていく。
(この子、強いな)
(飾らないけど、真っ直ぐで、ちゃんと“伝える力”がある)
私は、配信者としての目線で、そう思った。
まだラウンド1は始まったばかり。
だけど、いきなり“ハードル”が見えてしまった気がする。
トップバッター、エリザの雑談配信は——今もなお、絶賛進行中だ。
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