第63話 他の出場者、強すぎる
(……ま、眩しっ!?)
魔導端末の画面を見た瞬間、思わず目を細めた。
映っていたのは、ファレノ国代表――マール=シェリの告知配信。
でも、それは告知というより、もはや“魔法仕掛けのステージショー”。
「きらめく風に乗って~♪ 本日も、ごきげんよう~♪」
透き通る歌声に合わせて、小鳥型の魔物たちがぴょこぴょこと飛び交い、
背景には魔導エフェクトで演出された幻想的な森が広がっていた。
その中を、マールさんがドレスの裾をふわりと揺らしてステップを踏んでいる。
> 《今日も癒された~♪》
> 《背景が大会モード!》
> 《この編成、歌と動物多めなのアツいな……》
> 《告知なのに普通に完成度高いのすご》
(……なるほど、こういう配信スタイルだったんだ)
(たしかに“動物と歌う癒し系”って聞いてたけど、想像よりはるかに完成されてる……!)
「ストリーマーカップ、どんな大会になるのかはまだわかんないけど~。
ノルディア代表のリオナちゃんと、一緒にがんばれるの楽しみにしてるねっ♪」
うわっ、名前出された――!
パニック気味に画面を見ると、コメントもこちらに言及していた。
> 《ノルディアってリオナちゃんか》
> 《この子と一緒の大会ってすごくね》
> 《絡み見てみたい……》
(いやいやいやいや! そんな余裕ないから!)
(今ので一気に胃に来たから!)
画面がフェードアウトして、マールの配信が終了する。
私はそのまま、ソファに座り込んだ。
「……すごすぎるって」
内容そのものは、たぶんマールさんの“いつも通り”なんだろう。
でも、細部まで調整された演出やタグの仕込み、カメラワークの滑らかさ――
全てが、ちゃんと“大会モード”になってた。
(同じ告知配信のはずなのに、完成度が違いすぎる……)
(私は、ただ言葉を絞り出すだけで精一杯だったのに)
落ちかけたテンションを持ち直すように、次の配信記録を再生する。
映し出されたのは、ゼミル連邦代表――ヴァルト=イクス。
相変わらず、帽子を深くかぶって無言。
ただ、静かに剣を構えて――
その背後には、廃墟フィールドの映像。おそらく撮り下ろしの実地素材。
魔導字幕が、淡く浮かぶ。
《大会、出る》
《相変わらずだけど、楽しみにしてろ》
> 《いつも通りのスタート助かる》
> 《でも背景、凝ってんな》
> 《戦場ロケかこれ?》
> 《字幕で全部伝えてくるの好き》
(こっちはこっちで“らしさ”がすごい……!)
実況しない実況者――そんなニックネームがついてるって聞いたけど、納得した。
言葉がなくても伝わる存在感。
あれはもう一つの“完成形”だ。
(みんな、自分の武器、ちゃんと持ってるんだな)
(そして、それを“どう見せるか”も分かってる)
私は、魔導端末を抱えたまま立ち上がった。
頭ではわかってたはずなのに、実際に映像を見たら思った以上に心がざわつく。
演出力、構成力、魅せ方、余裕。
今の自分に足りないものが、次々と突きつけられる。
「……比べたってしょうがないのに」
言い聞かせるように呟いてみても、胸のあたりがじわっと痛い。
(でも、逃げたらもっとダメ)
(せっかく出られる大会なんだ。ちゃんと自分の形、見つけないと)
ソファに腰を下ろし、もう一度端末を開く。
明日は、リオス王国代表――エスティア=グランツの配信。
その名前を見るだけで、背筋がピンと伸びるような感覚になる。
(どんな内容になるんだろう)
(でも、ちゃんと見よう。ちゃんと向き合おう)
私はそっと画面を閉じて、深く息を吸った。
そして、心の中で小さく呟く。
(まだ負けてない)
(ここから――やり返すんだ)
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