第62話 告知配信って、もう始めなきゃダメですか!?
(どうしよう……全然まとまってないんだけど!?)
私は、ギルド提携の住居施設――いつもの部屋で、ひとり机に向かっていた。
目の前には、点灯待ちの魔導石カメラ。
その隣に、落ち着かない手つきで並べられたメモ書き、マグカップ、謎の付箋メモ……。
まとまりのない“準備”が、逆に焦りを煽ってくる。
(ストリーマーカップ……ついこの前、初顔合わせが終わったばっかりなのに)
(もう“告知配信”!? しかも初手!? マジで私!?)
魔導端末を開くと、ギルドから届いていたスケジュール通知の文字が目に刺さる。
『トップバッター:ノルディア代表 リオナ=アメシス』
「…………やっぱり私かああああああああああ!!!!」
頭を抱えて、ベッドの上にのたうち回る。
誰もいない部屋で、バタバタ音を立てるのがむなしさ倍増。
(いや、わかる。わかるよ。
知名度で言えば私がいちばん“中立”で、変な先入観もないし、会議でも変に尖ってなかったし)
(でもさああああ! こういうの、普通は! もっと場慣れしてる人がやるもんじゃないの!?)
がっくり肩を落としながら、机に戻る。
とりあえず、一度だけ深呼吸。
(やるしかない。もう腹くくるしかない)
(だって、大会に出るって決めたんだから)
端末の通知がぽんっと鳴く。
《From:レオン=ヴェルハルト》
『緊張してるかもだけど、楽しんで。
お前なら大丈夫だ。
“自分の言葉”を信じて、な。』
一瞬、息が詰まった。
それは、たった数行のメッセージだったけど――
なぜか、それだけで肩の力が少し抜けた。
「……ずるいなあ、あの人」
もう迷ってる時間はない。
私はカメラに向かい直して、魔導石の電源を入れた。
青い光が、静かに灯る。
(よし。いくよ)
「――配信、開始します」
* * *
「えっと、みなさんこんばんは! リオナ=アメシスです!」
映像がつながった瞬間、コメント欄が一気に動き出す。
> 《こんばんはー!》
> 《おつかれー!》
> 《なんかテンパってない?》
(……バレてるし)
でも、ありがたい。
こうしてコメントが並ぶだけで、少しだけ気持ちが落ち着く。
「今日はですね、ちょっとお知らせがあって――」
声が震えないように、気をつけながら言葉を選ぶ。
「――このたび、《ストリーマーカップ》に出場することになりました!」
数秒の静寂。
そして――
> 《は!?》
> 《ちょ、マジ!?》
> 《急にどうした!?》
> 《ストリーマーカップってなに!?》
「うん、うん、驚くよね! 私もまだ実感なくて……!」
思わず笑ってしまいそうになるけど、真面目に伝えたい。
「どこまで話していいのか、まだちょっとわかんないんですけど――
今回の大会、主催はレオン=ヴェルハルトさんで。
それで、ありがたいことに……私、ノルディア代表としてお声がけをいただきました」
> 《レオンさんが主催!?》
> 《マジでレオン案件なの!?》
> 《あのレオンとつながってたのか……》
(いや、つながってたわけじゃなくて、ほんと偶然というか……でも、今は関係者だし)
「大会は、三つのラウンドで構成されていて――」
メモをチラ見しながら、続ける。
「まず“雑談配信”。
次に“実況付きの即席チームバトル”。
で、最後が“フリーパフォーマンス”。
配信者として、どれだけ魅せられるかを競う内容になってます!」
> 《雑談配信で勝負とか新しすぎw》
> 《実況バトル!? それ絶対荒れるやつw》
> 《フリーってなんでもアリ?》
> 《ぶっちゃけお祭り感あって楽しそう》
「うん、まさに“お祭り”って感じ。
でも、審査はガチみたいで……コメントの質とか、リアクションとか、ちゃんと見られるらしいです!」
> 《コメントも審査対象!?》
> 《我々にも責任が!?》
> 《熱量を届けるぞ……!》
(……ふふ、やっぱりこの空気、好きだな)
「開催は、二週間後。
明日から順番に、他の代表者さんたちも告知配信をしていく予定です。
今日はその“先陣”ってことで、ちょっと緊張してます」
> 《初手リオナw》
> 《それは緊張するわw》
> 《でも一番目って逆に目立てるチャンスだよね》
「それでですね、告知タグも作ってみました!」
端末のメモを指さしながら、画面に向けて掲げる。
「#リオナ杯出るってよ――ってやつです! 見かけたら気軽に使ってください!」
> 《だせぇw》
> 《語呂だけはいい》
> 《逆にクセになるやつ》
「とにかく、大会までの間も、配信は続けていきます!
ちゃんと準備して、全力でぶつかって、できれば……いいところ、見せたいです」
言い終えてから、ふっと息を吐く。
緊張は、まだ完全には抜けていないけど――
心の中にある“やる気”だけは、確かだった。
「それじゃ、今日はこのへんで!
ここまで見てくれて、ありがとう!
明日からの配信も楽しみにしててね!」
手を振って、笑顔で締める。
「じゃ、またね!」
* * *
「ふあああああああああああああっっ……!!」
配信が切れた瞬間、私は椅子から転げるようにソファへ崩れ落ちた。
クッションに顔を押しつけて、足をじたばた。
(恥ずかしすぎる!!)
(でも、でも……ちゃんと伝えられた)
胸の奥に、ほんのりと灯る達成感。
(よし。やるぞ、リオナ=アメシス)
(ここからが、“本番”だ)
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