第55話 はじめての戦闘訓練、教官はあの人!
ギルドの訓練場は、昼過ぎでも人で賑わっていた。
依頼の確認に来た冒険者たちが広場で武器を構え、あちこちで訓練の掛け声が飛び交っている。
その片隅で、ベンチに腰掛けていた大柄な男の姿を見つけ、リオナは駆け寄った。
「ガルドさん!」
「……おお。なんだ、騒がしいと思ったらお前か」
落ち着いた声と共に、視線がこちらを向く。
その表情はいつも通りだったけれど、どこかほんの少し、柔らかく見えた。
「すみません、急に。でも、お願いがあって!」
リオナは深く頭を下げて、経緯を説明する。
大会で戦闘の可能性があること。最低限の自衛手段が必要だとレオンに言われたこと。そして――できれば、ガルドに教えてほしいということ。
ひと通り話し終えると、ガルドは腕を組んだまましばらく考えていたが、
「……いいぞ。ちょうど暇してたところだ」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。ただし、お前の体格じゃ正面から殴り合うような戦い方は無理だな」
「う……やっぱり、そうですよね」
「その代わり、補助に徹するなら可能性はある。自衛と支援に特化した動き……それなら教えてやれる」
そう言われて、リオナは少しだけ安堵したようにうなずく。
「武器は? 何か持ってるのか?」
「えっと、一応……短剣なら持ってます。前にガルドさんと一緒にダンジョン行ったとき、装備を整えてって言われて買ったやつです」
「ほう、覚えてたか。まあ、悪くはない」
けれど、と続けるように、ガルドが立ち上がる。
「補助魔法メインでやるなら、短剣より杖のほうがいい。魔力の通りも安定するし、詠唱動作も省略できる」
「じゃあ……杖、買いに行きます!」
「案内してやる。俺もついでに見ておく」
そのまま二人はギルドを出て、街の魔導道具店へと向かう。
「こっちは軽いけど、耐久が弱いな。長時間の配信には不安が残る」
「これは? ちょっと重そうだけど……」
「芯に鉛が仕込まれてる。殴る用だな。支援には向かん」
数本を見繕った末、バランス型で小型の短杖を選ぶことにした。
軽くて握りやすく、魔導石の出力効率もよく、装飾もシンプル。
「……どうでしょう、これ」
「悪くない。初めて持つなら、十分な一本だ」
そう言ってもらえたことで、リオナは少しほっとしたように微笑む。
こうして、装備は整った。
次はいよいよ――
「じゃあ改めて、よろしくお願いします! 教えてください、ガルドさん!」
「まずは構えからだ。立て。話はそれからだ」
昼過ぎの陽射しの中、リオナの“はじめての戦闘訓練”が始まろうとしていた。
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