第52話 ギルドの作戦会議室にて
ギルドの扉を開けた瞬間、ひんやりとした空気に肩の力が抜けた。
昼のノルディアはまだ暑く、配信とカーティスとの遭遇で高まった熱が、やっと少し引いていく。
「こんにちはー……すみません、ちょっとお聞きしたいことがあって来たんですけど」
受付には、見知った職員さんが一人。応対に出たのは、柔らかい茶髪が特徴のラネアさんだった。
「あっ、アメシスさん。お疲れさまです! 今日はどうされました?」
「えっと……さっき街中で、カーティス=グラッドさんって方に会ったんです。あの、黒いフードの……」
「ああ、やっぱりそうだったんですね! 実はちょっと前から噂になってたんですよ。ギルド内でも動きがあって」
「やっぱり何かあるんですか? なんでノルディアに?」
ラネアさんは少しだけ視線を落としてから、小声で言った。
「詳しくは、作戦会議室の方で話されてるかもしれません。ちょうど今、フィーネさんと……あ、リュミさんも来てますよ」
「えっ、ほんとに? 行っても大丈夫ですか?」
「ちょうど名前も出てましたし、きっと歓迎されますよ」
少しだけ胸の奥がざわついた。
(名前が……? 私の?)
案内された部屋の前で、扉をノックする。
中から聞き慣れた声が返ってきた。
「開いてるわ。入ってきなさい」
扉を押し開けると、そこにはフィーネ、リュミ、そして数名の職員たちの姿。
リュミがこちらに手を振った。
「おー、リオナちゃん。ちょうどいいタイミング!」
「……なんか、思った以上に真面目な雰囲気なんですけど?」
部屋の中央には魔導モニターが浮かび、いくつかの資料が投影されていた。
中には、見慣れた名前と写真――自分のものも混じっている。
「ごめんね、ちょっとだけ内輪の話をしてたの。まあ、あんたの耳にもいずれ入ることだし」
「カーティスさんのことですか?」
フィーネが静かにうなずいた。
「そう。ゼミル側の代表ストリーマーとして、既に連絡を受けてる。今日ノルディアに現れたのは、非公式な視察と交流を兼ねてのことらしいわ」
「視察……ってことは、やっぱり大会関係、なんですね?」
「ええ。大会の詳細はまだ外部に出せないけど、あなたが出場を了承したことは、既に関係者の間では共有されてる。カーティスがあなたに声をかけたのも、おそらくその流れよ」
胸が、ドクンと跳ねた。
(やっぱり、そうだったんだ……)
「ただ、今はまだ公表のタイミングじゃない。余計な詮索や噂が広まらないように、慎重に進めてる」
「……わかってます。私も何か言っちゃいそうだったけど、配信止めといてよかったかも」
「それは正解ね。とりあえず、今日は顔出してくれて助かったわ。何か気になることがあれば、ここで話していって」
「ありがとうございます。じゃあ、ちょっとだけ――あのとき、カーティスさんが言った“楽しみにしてる”って、やっぱり……」
リュミが笑った。
「たぶんそのまんまの意味だよ。彼、表情は読みにくいけど、言葉にウソつかないタイプだから」
「……そっか」
あの一言の真意が、少しだけ解けた気がした。
カーティスは、私を“選手”として見ていた。
もしかしたら、もうライバル視されてるのかもしれない。
「よーし……なんか、燃えてきたかも」
「やる気出てきた? それならちょっと資料見ていく? 今回の出場者候補リストもあるよ」
「見ます見ます! めっちゃ見ます!」
知らなかった名前も、見覚えのある名前も、一覧の中に並んでいる。
その中に、自分の名前があることが――少しだけ誇らしかった。
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