第48話 “迷ってるなら、出ればいいじゃん”
「……というわけで、出場、打診されちゃったんだけど」
私はギルドの応接ブースで、フィーネさんとリュミにそう切り出した。
「へぇぇ〜、レオンが? あんたに?」
「その言い方、ちょっと傷つくんですけど……」
「いやいや、いい意味で驚いてんのよ。
“もうそんなとこまで行ったか〜”って」
ソファにもたれながらリュミが笑う。
フィーネさんは資料をめくりつつ、首をかしげた。
「たしかに、その企画はギルドにも事前連絡がありました。
“国際配信対抗イベント”として、魔導連盟も一部協賛するらしくて」
「すごいちゃんとした大会だった……」
「ただ、その分……負担も大きいですよ。
出場者には、配信だけでなく演出や自己プロデュース力も求められるそうですし」
(そう、そこなんだよなぁ……)
レオンの話を聞いたときから、ずっと胸のどこかがざわざわしていた。
やりたい気持ちはある。でも――
「私、まだそんな……大会で活躍できるようなレベルじゃないし……」
「は?」
リュミが目を細めてこっちを見た。
「実況でバズって、観客巻き込んで、
ギルドのフィーネも“高評価”付けたストリーマーが、それ言う?」
「で、でも……」
「言っとくけど、今まで“評価されたことがある人間”だけが出る大会じゃないわよ」
フィーネさんが静かに言葉を挟んでくる。
「この大会は、“これからを見せる”ための舞台でもある。
だからこそ、あなたに声がかかったのでしょう?」
(……)
わかってる。
頭では、ちゃんと理解してる。
だけど――踏み出すのって、やっぱり勇気がいる。
「リオナ、ひとつだけアドバイスしとくわ」
リュミが背筋を伸ばして、まっすぐに言った。
「“迷ってるなら、出ればいいじゃん”」
「えっ……?」
「やらない理由が“怖いから”とか“まだ早いから”なら、
逆にその大会、出なきゃもったいないってことよ」
「……そっか」
まだ、怖さは残ってる。
でも――それ以上に、ワクワクしてる自分がいる。
「うん。……やってみる。私、出場してみたい」
その言葉を口にしたとき、
少しだけ、胸のざわつきが消えていく気がした。
しばらくして、ふと私は気になって口を開いた。
「……あれ? そういえば、リュミさんには話、来なかったんですか?」
「ああー、それね。来たよ、一応は」
「来たんですか!?」
「でも断った。レオンにも言ったわ、“もっと適任いる”って」
「……それ、私のこと?」
「そーそ。私も昔は“目立つ側”でバチバチやってたけど、
今はこっちのほうが性に合ってるしね」
リュミは、肩をすくめてから笑った。
「それにさ。あんたが光るなら、私は照らす側でも十分なんだって。
……なーんて、ちょっとカッコつけすぎ?」
「……いえ、全然」
その言葉が、すっと胸に染み込んできた。
やっぱり、この人は――ちょっとズルい。
「じゃあ、決まりね」
フィーネさんが改めて言う。
「ノルディア代表、リオナ・アメシス。
次のステージへ、どうぞ行ってらっしゃい」
私は、大きく深呼吸をした。
うん、大丈夫。もう、迷ってない。
チャンネル登録と高評価と感想で応援よろしくお願いします!次回配信も読みに来てください!