第45話 ちゃんと、見届けてもらえてたんだ
「改めて――
ノルディア交流戦、全日程終了です!」
スタジアムの上空に花火のような魔導光が打ち上がり、
場内は大きな拍手と、誰ともなく湧き起こる声で満ちていた。
私もマイクを切り、ふぅっと大きく息をつく。
喉がヒリヒリする。でも、それがちょっと嬉しい。
(あれだけ叫べたんだから、そりゃ枯れるよね……)
控室へ戻ると、先に入っていたスタッフさんが振り向いて言った。
「おつかれさまでした! 会場、実況も含めてすごく盛り上がってましたよ」
「あっ、えっと……ありがとうございます!」
緊張が抜けたせいか、妙に背筋がぴしっとなる。
その直後、廊下の方からひょっこり顔を出したのは――
「……やりきった顔してんじゃん」
リュミだった。
いつもの軽いノリで、水の入ったボトルを投げてよこしてくる。
「声、最後のほうちょっと枯れてたけど、それも実況っぽくてよかったよ」
「うっ……やっぱバレてた……」
「ま、あたしは個人的に“あの盾の人の踏ん張り実況”が好きだったかな。
言葉、ちゃんと届いてたと思うよ」
そう言ってリュミはウィンクひとつ。
それだけで、喉の痛みがちょっと和らぐ気がした。
ブースに戻って片付けをしていると、通信端末に通知が届く。
ギルドからの業務報告。
> 「実況業務、全行程終了。内容評価:高」
> 「今後、定期配信のオファー検討中」
> 「※現地観客・配信コメント双方から好反応」
> 「※複数の依頼ルートから追加照会あり」
(えっ……追加照会って、まさか他都市から?)
少し前の私なら、たぶん戸惑っていた。
でも今は、胸の奥にじんわり灯るものがある。
「……ちゃんと、見届けてもらえてたんだ」
そう呟いたとき、控室の扉がノックもなく開いて、
誰かがひょいっと顔を覗かせた。
「あ、いたいた。……実況の子だよな?」
顔を出したのは、あのカイ選手だった。
「えっ……はいっ! あの、実況の……リオナです」
思わず背筋がピンと伸びる。
彼は勝利の余韻をまといながら、それでいてどこか素朴に笑った。
「いやさ、さっきからみんな言ってんだけど――
試合前、あんたが“前説”してくれてたときさ。あれ、助かったわ」
「えっ……助かったって、どういう……?」
「会場がさ、いい意味で“落ち着いてた”。緊張感はあるんだけど、なんか温かくて。
こっちも、変に力入れすぎずに済んだんだよ。……多分、あんたの声のせいだな」
そう言って、カイは少しだけ照れたように、でもまっすぐに言葉を置いた。
「ありがとな。……あんた、立派に“あの戦場”の一員だったよ」
言葉が出なかった。
ただ、軽く頭を下げることしかできなかった。
カイが去っていったあと、私はブースの椅子にもう一度腰を下ろす。
視線を落とした先には、まだモニターに流れ続けるコメントたち。
> 《リオナさん、おつかれさま!》
> 《あの実況、ほんとに熱くて感動した》
> 《また別のイベントでも見たい!》
こんなにも、たくさんの目が。
私を、見ていてくれた。
(ありがとう――私、まだまだ喋れるよ)
控室の外から聞こえる喧騒の中に、
“リオナ・アメシス”という名前がまぎれている気がした。
これが、私の最初の“決勝”だった。
そしてきっと、ここからが――始まりなんだ。
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