第40話 熱が残ってるうちに持ってきたよ
控室のドアがノックもなく開いたのは、
私がまだ息を整えきれてない、ちょうどそのタイミングだった。
「おつかれー。差し入れ、持ってきた」
「あっ……リュミさん!」
手にしていたのは、パンと軽食が詰まった紙箱と、
見覚えのある店の包み紙に包まれた水筒。
リュミがよく立ち寄る、街の見晴らし台の近くにある小さなカフェのものだ。
「実況、めちゃくちゃ良かったよ。
いやー、あれはすごい。見ながら“こりゃ勝ったな”って思った」
「え、何がですか?」
「観客の心。掴んだでしょ。あんたの声、ちゃんと刺さってた」
(そんな風に言ってもらえるなんて……!)
リュミは軽く肩をすくめると、壁にもたれてパンを一つ口に放り込んだ。
「決勝、どうせあたしじゃ無理だし、代打で振ったけど正解だったわ。
“あんたのステージ”になってるもん、もう」
「いや、まだまだです! でも……その、ありがとうございます」
恥ずかしさをごまかすみたいに水筒を受け取って、ひとくち。
ああ、落ち着く。ほんのりミントの香り、冷たさもちょうどいい。
「あとね、ギルドのフィーネが言ってたよ。
“もう一回頼んでもよさそうですね、あの子に”って」
「えっ、本当に!?」
「ほんと。……まあ、喜ぶのは決勝終わってからにしなさいな」
そう言って、リュミはひらひらと手を振るようにして控室を出ていった。
だけどその手のひらが、ほんのちょっとだけこっちを向いてた気がした。
(ちゃんと“見てくれてる”んだな、みんな)
差し入れの温かさが、手のひらと胸の奥にじんわり残る。
さあ――決勝が、待ってる。
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