第35話 追いつけ言葉 追い越せ視界
「続いては、第二試合――選手、入場します!」
再びステージ中央が輝き、魔導障壁の内側に二組の冒険者が現れる。
(うわ、見た感じ……めっちゃ速そう)
片方は軽装の双短剣使いと、弓術士。
もう一方は細剣の剣士と、杖を持った風系の魔法使い。
「赤チーム――迅速な近接戦闘を得意とするツインダガーのリーヴァ選手と、
長距離射撃のアルフ選手!」
「対する青チーム――素早い間合いの攻防が得意な細剣のライル選手、
そして風魔法のアーシュ選手!」
ステージの空気がピリリと張りつめる。
選手たちは礼を交わし、数秒の静寂――そして、
「開始!」
> 《いきなり来た!》
> 《速っ!?》
> 《弓ももう撃ってるじゃん!》
「リーヴァ、開幕ダッシュ!前に出た――右に回避、アルフの矢が援護に入る!
青チームもライルが即座にカウンター、魔法支援をもらいながら接近!」
(速い、速すぎる! でも、追える――!)
画面で見てたスピード感とはまったく違う。
現実の動きは、生々しく、そして容赦がない。
でも、わかる。動線が読める。
何を狙ってるのか、どこで勝負を仕掛けるつもりか――
生前、どれだけゲームのPvPをやりこんできたと思ってるの私。
「アーシュの風魔法が展開――これは視界を遮るタイプ!
煙幕のような風の障壁!しかし……リーヴァ、突っ込んだ!?」
> 《突っ込んだ!?》
> 《いや、それ読んでたかも》
> 《リーヴァ、さっきの矢の角度で位置バレしてたな》
「……読んでる。リーヴァ、風の壁の中をまっすぐ突進――
見事にアーシュの詠唱を潰した!!」
観客が沸き立つ。リアルとコメントが混ざって、
まるで空気が振動してるみたいな熱。
(やば、今の、実況できてた?)
でも、不安より先に、言葉が出る。
「リーヴァ選手、戦場の空間ごと“読んで”戦ってます!
青チームもここで一歩引かず、ライルが前に――反撃に出た!
細剣の鋭い一突き、これは決まるか……!」
バトルのテンポは、まるで疾走するメロディみたいで。
私の実況も、もう止まらない。
(どこまでいける? どこまで、言葉で追いつける?)
――そして次の瞬間、試合が動いた。
「……決まった!
ライルの細剣、リーヴァに命中――赤チーム、戦闘不能判定!」
魔導障壁が再び光を放つ。
「第二試合、勝者は――青チーム!」
静寂のあと、爆発するような拍手と歓声。
私はマイク越しに、それをしっかりと受け止めていた。
> 《おおお!逆転!?》
> 《早かったけど熱かった》
> 《実況もナイスだったわ》
> 《このスピードで実況できるのすげえw》
(……追いつけた。たぶん、だけど)
アドリブも、テンポも、思ってたより――
いや、ちゃんと“できてる”。
でも、きっとここからもっと速くなる。
もっと言葉が必要になる。
「……っはー……」
実況席を出て控室に戻ると、私はすぐに椅子に腰を下ろして
テーブルの上の水筒を手に取った。
ごくり、ごくりと水を飲む。
のどが通っていくその感覚が、ようやく現実に戻ってきたみたいで。
(まだいける。次も、ちゃんと届けよう)
私は、静かに呼吸を整える。
そして――
次の試合に備えることにした。
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