第34話 実況席の外でも声は届いてた
「……ふぅ~~~……」
控室の椅子に座り込んで、思わず大きく息を吐いた。
実況ブースでの興奮が、まだ体の奥でじわじわと残ってる。
「お疲れさまでした。第一試合、大変よく盛り上げていただきました」
扉の向こうから、事務的だけど柔らかい口調の声がする。
スタッフの一人――たぶん、音響か会場進行の担当だ。
「ま、まだまだですけど……とりあえず声は出てました、よね?」
「はい。現地スピーカー、魔導ネットワークともに明瞭です。
コメントの反応も、かなり好評ですよ」
その言葉に、ちょっとだけ肩の力が抜けた。
でもまだ、完全には落ち着けない。
(第一試合終わっただけなのに……体感、もう配信一回分くらいやった気がする)
空いた時間で水を一口飲み、メモパネルを手に取る。
控室には、ギルド経由での連絡やイベント概要がまとめられた端末が置かれていて、
その横にある通知ボタンが、いつの間にか点滅していた。
《実況ご苦労さま。いい感じに盛り上げてくれて助かってる。
第二試合はもう少しテンポ重視の展開になりそうなので、アドリブ対応を期待》
ギルドのフィーネさんからだ。
やたら淡白だけど、たぶんこれ、褒めてくれてる……よね?
(テンポ重視ってことは、スピード系か魔法職中心?)
そんなことを考えていると、外から観客のざわめきが聞こえてきた。
試合の合間とはいえ、場内ではミニイベントや演出が続いてるらしい。
盛り上がりを維持するための工夫なんだろう。
(……あ、コメント欄)
脇のモニターに視聴者コメントの履歴が流れている。
リアルタイムじゃないけど、さっきの反応をざっと見返せる。
> 《第一試合、アツかったー!》
> 《リオナちゃんの声、ちゃんと届いてたよ》
> 《選手もすごかったけど実況のおかげで分かりやすかった》
> 《現地も熱そうでいいな~》
> 《次も楽しみにしてる!》
(あ、やば。これ、ちょっと泣きそうになるやつ)
思わず笑って、目をこする。
画面越しでも、声はちゃんと届いてたんだ。
実況って、ほんとに“誰かと一緒に観る”ためのものなんだなって思う。
「……よし」
立ち上がって、もう一度ヘッドセットを手に取る。
第二試合は、もうすぐ始まる。
私はストリーマー。実況者。
この舞台に、ちゃんと立つって決めたから。
次の試合も、全力で言葉を届けよう。
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