第32話 実況って、ゲームと同じじゃなかったけど
「それでは……第一試合、開始です!」
私の声と同時に、ステージ中央がわずかに揺れた。
円形の床が淡く発光し、浮かび上がるように選手の姿が現れる。
「赤チーム――盾使いのカイ・グランツ、
斥候兼補助魔法使いのセナ・リーファ!
対するは青チーム――両手剣の戦士グラードと、短杖の呪術士エイル!」
拍手と共に、客席からの歓声とコメントが押し寄せる。
> 《あのコンビ、冒険者ランクCまで上がったって噂の!》
> 《グラードの一撃、マジで盾ごと吹っ飛ばすやつ!》
> 《エイルちゃん今日もかわいい~!》
(え、かわいいって言った!? あ、いや、私じゃないか)
ちょっとだけ気が緩む。けどすぐに気を引き締める。
実況者なんだから、ちゃんと“場”を回さなきゃ。
「お互いに軽く一礼――からの、いきなり前進!
まず仕掛けたのは青チームのグラード、両手剣を振りかぶって……って、速っ!?」
ガァンッ!
ものすごい音が会場に響いた。
けれど、カイの盾はびくともしていない。
「これは……赤チームのカイ選手、真正面からの一撃を完全に受け止めました!
剣筋の軌道、見切ってたようですね……すごい、読み合い始まってる!」
> 《さすが防御特化!》
> 《見た今の?止まってたよな?》
> 《実況の子、テンションいいね》
(う、うれしいけど照れる!)
なんとか意識を実況に戻す。
私の仕事は、いまこの熱気を、言葉にして届けること。
「エイル選手、魔法陣を展開――おっと、これは妨害魔法!
セナ選手が素早くポジションを変えて……カウンターの補助魔法!?
いや、これ連携取れてる……完全に読み合いの応酬です!」
目まぐるしく展開するバトル。
技の光と音が交差し、観客席の熱もどんどん上がっていく。
……でも、不思議と怖くはなかった。
(なんでだろ。緊張はしてるはずなのに、
どこか“慣れてる”って感覚がある)
思い出すのは、生前の配信。
夜な夜なゲームをプレイしながら、テンポよく喋って、
視聴者の反応を拾って、また喋って――
(そっか。あの頃の経験、無駄じゃなかったんだ)
もちろん、画面越しとリアルな観客では違う。
けど、「状況を見て、言葉にして伝える」っていう根っこは、同じだった。
(本気の戦いを、誰かと一緒に見て、盛り上がるために実況する――
やっぱりこれ、私にとっての“配信”なんだ)
「両チーム、譲らず拮抗した展開が続いています!
このまま、どちらが先に“決め手”を打てるのか――
ノルディア交流戦、白熱の第一試合、まだまだ続きます!」
自分の声が、スピーカー越しに観客の熱を煽っていくのがわかる。
(まだぎこちないかもしれないけど、
ちゃんと、前に進めてる)
ここが、いまの私の“舞台”。
ストリーマーとして、初めて立つ本物の“現場”。
私は、今日この日を忘れない。
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