第3話 たった数人でも、見てくれてたってだけで
ギルドの片隅、ひと気のない丘の上。
私は、魔導石を手にそっと呟いた。
「……配信、スタート」
魔導通信の光がふわっと広がり、目の前にホログラムのウィンドウが開く。
これはこの世界の配信画面――“魔導通信インターフェース”。
UIは前世で使っていた配信ツールと似ていて、
自然と口が動いた。
「は、はじめまして……ストリーマーのリオナ・アメシスです。
異世界から、お届けしてまーす……って、誰も見てないよね、これ」
思わず苦笑した。
フォロワー:0。通知:なし。
「まあ、最初はみんなこんなもんか……」
それでも話し続けた。
前世でも、最初はコメントゼロで独り言を続けていた。
でもその日々が、いつの間にか“日常”になっていたから。
「今日は……雑談というか、配信テストというか。
この世界って、なんかすごく不思議で――」
その時、ガサッと草むらが揺れた。
「……ん?」
目を凝らすと、ぴょこんと跳ねるピンク色の物体。
ぷるぷるとしたボディ、つぶらな目――
どう見てもスライム。
しかも、めちゃくちゃこっちに向かって跳ねてきてる。
「ちょ、うそっ!? 武器とか持ってないんですけど!?」
逃げながら、反射的に実況が始まる。
「えーっと、こちらリオナ現場からお送りします!
魔物スライムに遭遇して現在逃走中です!
現在所持アイテム:ゼロ! 防具:薄着! 心の準備:皆無!!」
丘の斜面を駆け下りる。
足元がぐらついて、転びそうになる。
それでも魔導石はしっかり握ったまま、配信は止めない。
「誰か助けてー!? 異世界来たのにソッコーでゲームオーバーなんですけどー!!」
……十分ほど走り回った末、スライムはどこかに跳ねていった。
私は息を切らしながら、魔導通信の画面を確認した。
フォロワー:1
視聴数:6
コメント:6
> 《新人?w》
> 《耳動いてたww》
> 《実況うまくね?》
> 《異世界?www何言ってんのこの子ww》
> 《設定盛りすぎ新人きた》
> 《耳だけじゃなくて頭もふわふわしてそう》
「……うそ、見てた人いたの!?」
思わず声が漏れる。
誰もいないと思ってた。
テスト配信で、反応なんて来るわけないって思ってた。
でも――たった数人でも、ちゃんと“見てくれていた”。
(……なんだろ、この感覚)
懐かしい。
でも、すごくあったかい。
バズったわけじゃない。
コメントもほんの少しだけ。
それでも、胸の奥がじんわりと熱くなった。
「……ありがとう」
誰に向けたかわからない、感謝の言葉。
でも、自然と出た。
魔導石の向こうに誰かがいる。
それだけで、私はまた“ストリーマー”に戻れそうな気がした。
本日一気5話更新3話目!次回は21時です!よろしくお願いします!
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