第29話 自分の居場所って、どこだろう
朝から配信の準備をして、昼に街を少し歩いて、夕方にはちょっとした雑談配信。
そんなふうに過ごしていたら、あっという間に夜になっていた。
「……今日も、おつかれ、私」
ひとりごとのように呟いて、簡単な夕食を済ませる。
この住居施設に暮らし始めて、もうしばらく経つ。
朝と夜に最低限の食事が出るのはありがたいし、部屋も狭いながら清潔で落ち着ける。
最初は「配信の拠点」として選んだだけだったけど――
今は、帰ってくるとなんだかほっとする。
(なんかもう、“仮住まい”って感じじゃないな……)
配信を通じて、少しずつこの街のことも分かってきた。
名前も知らなかった通りや、偶然入った店の看板娘の顔も覚えた。
> 《ここ行ったことある!》
> 《今のパン屋、前に出てたとこだ!》
> 《あの通り、昼と夜で全然雰囲気違うね》
街の様子を紹介するたびに、コメントがつくようになってきた。
この“ノルディア”って街の姿が、画面越しの誰かに伝わってる――
それが、なんだか嬉しい。
「……もしかして、私、この街が好きなのかも」
ぽつりと、呟いた。
自分でも驚くくらい自然に出た言葉だった。
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夜の風が、窓の隙間からふわりと入り込む。
遠くから聞こえる人の声や、どこかの店の扉の音。
それら全部が、今の私には心地よかった。
> 《この街、いいなあ》
> 《いつか行ってみたいな》
> 《……住めるなら、住んでみたいかも》
(……住んでる、よ。もう)
心の中で、ひとり応えながら、私は魔導石の電源を切る。
配信が終わっても、私の生活はここにある。
明日もこの街で起きて、この街で歩いて、この街から配信する。
“自分の居場所”って、特別な何かがある場所じゃない。
こうして、帰るとほっとする部屋があって。
誰かとつながって、声が届いて、誰かの言葉が返ってきて。
そういうのを、少しずつ積み重ねていくことで――
「ここが居場所なんだな」って、気づけるものなのかもしれない。
「……うん。もうちょっと、この街で頑張ってみよ」
布団に潜り込みながら、私は小さく息を吐いた。
不安も、迷いも、全部なくなったわけじゃない。
でも、“居たいと思える場所”があるって、きっとそれだけで前に進める。
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