第27話 視聴者の声と向き合う夜
夜。街の喧騒は落ち着き、部屋の窓の外には風の音だけが流れていた。
私は机の上に魔導石を置き、少し前の配信のアーカイブを再生していた。
(裏路地のパン屋さんの話、どうだったかな……)
カメラを回しながら喋っている自分の姿を、改めて見るのは少し照れくさい。
でも、どうしても確認しておきたかった。
自分の声が、ちゃんと届いていたかを。
> 《知らない場所なのに、懐かしい気持ちになった》
> 《こういう話、大好き》
> 《次も絶対見るから!》
(……ちゃんと、見てくれてる人がいるんだ)
再生画面の右端に並ぶコメントの数はまだ少ない。
だけど、ひとつひとつがあたたかくて、目が離せなかった。
> 《街を歩く配信、いいね。もっと知りたくなった》
> 《地元の人も出てくるのがいい》
> 《この街に、住んでみたくなる》
(街を……好きになってくれてる?)
リオナとしてこの世界に転生してから、まだ日が浅い。
だけど、自分が歩いた場所や話した人のことを、見てくれてる誰かが大事に思ってくれてる。
それが、少しだけ嬉しかった。
「……ありがとね、見てくれて」
ぽつりと漏れたその言葉は、配信中ではなかったけれど、心からの本音だった。
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そのままコメント欄を眺めていると、ふと目に留まる一言があった。
> 《このへん、表示されないと思ってた》
(表示……? ああ、地図のこと、かな)
なんとなく引っかかったけど、それ以上深く考えずにスクロールしていく。
「さ、明日も何か、話すこと探さなきゃね」
魔導石の電源を落とし、私はベッドに潜り込む。
静かな夜。
画面の向こうにいた誰かの声が、まだほんのり胸の中に残っていた。
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