第25話 伝えるために、何を選ぶ?
朝――外はまだ肌寒く、街はゆっくり目覚める空気に包まれていた。
私は、ギルドから少し離れた商店街を歩いていた。
配信でもよく通っている場所だけど、今日は魔導石を回していない。
たまには、ただの“私”としてこの街を歩いてみるのも悪くないと思った。
(今日は配信、どうしようかな……)
頭の中で、いくつかの案が浮かんでは消えていく。
日常系の街歩き、住人へのインタビュー風、料理配信もアリかもしれない。
でも――なんだかどれもしっくりこなかった。
「昨日はカメラ越しに見たよ。今日は配信じゃなくて、のんびり散歩かい?」
声をかけられて振り返ると、以前ナイトマーケットで焼きスイーツをくれた屋台のおじさんが立っていた。
「はい、今日はただの街歩きです。配信は、お休みというか……考えごと中です」
「そりゃ大事なことだ。続けてくってのは、やることを“選び続ける”ってことだからな」
(……選び続ける)
その言葉が、やけに重たく響いた。
配信をする。話す。見せる。届ける。
ただ毎日続けるだけじゃなく、“何をどう伝えるか”を考えるのが、この仕事なんだ。
「配信、楽しみにしてるよ。……あんたのは、見てて落ち着くからさ」
「……ありがとうございます」
短いやりとりだったけど、なんだか背中を押された気がした。
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その日の午後、私は部屋に戻って魔導石を起動した。
ただし、すぐに配信を始めるつもりはなかった。
開いたのは、配信者用の企画管理ページ。
「次のテーマは、“この街の裏側”……とか?」
ナイトマーケットや見晴らし台みたいな“映える場所”じゃなくて、
住んでる人だけが知ってるような、地元密着型の視点。
「それとも、“配信中に視聴者から指令を受けて動く”ってのもおもしろいかも」
たとえば“お題をもらって実行する”とか、“リアルタイムで選択肢を選んでもらう”とか。
魔導石のシステムなら、それもできそうだ。
> でも、それにはある程度の反応が必要。
> 視聴者がいないと成立しない。
(……だったら、今はまだ準備だ)
無理に背伸びせず、今できることを、今の形で。
「まずは“この街の知られていない小さな物語”――から始めてみよう」
視点を変えれば、日常も企画になる。
私が見て、感じて、喋る。
それが、ストリーマーとしての“伝える”の基本だから。
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